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国際人権ひろば No.37(2001年05月発行号)

アジア・太平洋の窓

カトマンズからダーバンへ、NGOの連帯と運動

反人種主義・差別撤廃世界会議(WCAR)にむけたアジア・太平洋地域NGOネットワーク会議(2001年4月 27日~29日、ネパール・カトマンズ)報告

川本 和弘(かわもと かずひろ)
ヒューライツ大阪

 国連の反人種主義・差別撤廃世界会議(8月31日~9月7日、南アフリカ・ダーバン)
の開催までいよいよ三カ月余りとなった。
 これまでの準備会議やセミナー、NGO会議などの結果を踏まえて、世界会議の宣言や行動計画の草案づくりなどの最終的な調整を行うために、第二回準備会合がスイス・ジュネーブで開かれる(5月21日~6月1日)。
 ここでは、4月の下旬にネパールのカトマンズで行われた世界会議にむけたアジア・太平洋地域のNGO会議について報告したい。

NGOネットワーク会議の目的

 カトマンズでの会議にはネパール国外のNGOから約150人、国内のNGOから約50人、計約200人が参加した。この会議はNGO会議ではあるが、2月にイラン・テヘランで行われたアジア地域準備会議およびNGOフォーラムと同様、国連による参加資金援助があり、大半の国外参加者の会議参加が可能となった。

 このNGO会議の目的の一つは、テヘランでのNGOフォーラムで作成した宣言や勧告の文書をより強化することであった。現在、スイス・ジュネーブで開催されている第二回世界会議準備会合において世界会議の宣言や行動計画の草案を最終化する作業が行われている。従ってこの準備会合はNGOがその草案についてロビーイング(影響や圧力を与える)活動を行う重要な場と見なされている。カトマンズのNGO会議はロビーイング活動の重要な道具の一つとしてテヘランでのNGO宣言を強化したカトマンズ宣言を作成することとなった。また、宣言の作成だけではなく、8月下旬から南アフリカ・ダーバンで始まる世界会議(国連会議と並行してNGOフォーラムも開催される)にむけたNGOの戦略を練り、より具体的、実践的な行動計画を討議することも目的とされた。さらに、ネットワーク会議と題されているように、この会議では様々な問題やテーマに関わるNGOが連帯し、共同で目標を設定し行動を計画するための会議としても見なされた。

幅広いテーマが対象に

 初日の午前のセッションでは、まず差別の被害者の声を聞く取り組みが行われた。人身売買の被害を受けたネパール人女性、インドのカースト差別の被害者、インドネシア軍の抑圧を受けるスマトラ島アチェのエスニック・マイノリティ、ビルマのシャン州・チン州の難民、香港で家事労働者として働いたインドネシア人の移住労働者の女性がそれぞれ差別の苦しみと怒りを語った。この証言を振り返って、世界会議アジア太平洋NGO調整委員会の事務局長であるニマルカ・フェルナンド(反差別国際運動 [IMADR])は途中涙をこらえながら、差別の被害者の声を聞くことを原点に、彼(彼女)らの声を世界会議に届けることの重要性を改めて強調した。

 反人種主義・差別撤廃世界会議の正式名称が「人種主義、人種差別、外国人排斥および関連する不寛容に反対する世界会議」とされているように、この世界会議とそのプロセスにおいては人種主義や人種差別のみならず人種差別と関連する幅広い差別の問題とテーマが扱われ、同時に、様々な差別が複合するという事実(いわゆる複合差別)についても注意が喚起されている。

 一方で、一つの争点となっているのはカーストのテーマであり、世界会議の議題や文書(既に採択済みの地域準備会議の宣言や行動計画、および本会議の宣言と行動計画案)にそれが登場していないことである。これには日本の部落差別も関連しており、NGOの側は当事者団体も含めてカースト差別や部落差別が議題や文書に含まれる様に強く要求している。

 カトマンズのNGO会議ではテヘランNGOフォーラムでの6つのテーマが分離拡大され、1)人種主義とジェンダー、2)グローバル化と人種主義、3)人種主義と外国人排斥に直面する移住者、4)人種主義の犠牲者としての人身売買被害者、5)先住民族の権利、6)世系と職業に基づく人種差別としてのカースト、7)エスニック・マイノリティの人種差別的扱い、8)宗教的不寛容、9)難民の人種差別的扱い、の9つのテーマについてのワークショップをグループに分かれて行った。

 会議の二日目には、カースト問題についてのセミナーが全体会で行われた。参加者の中から、日本の部落差別、ネパール、インドのダリット(被差別カースト)への差別について代表者が発言し、それらの問題を世界会議の議題や文書に含める必要性をアピールした。全体の参加者によってカースト問題をアジア・太平洋のNGOが世界会議に向けてもっとも重視するテーマとすることが承認された。

ロビーイングとメディア活用

 NGOの戦略を練り、行動計画を構築するためのテーマ別ワークショップに先駆けて、ロビーイングとメディア活用についての研修がそれぞれ30分程、講義形式で参加者に提示された。実際的なロビーイングとメディアの活用がNGOの行動にとって決定的に重要な要素であるとともに、そのトレーニングもまた重要であると認識し研修が設定されたことは、テヘランでのNGOの行動の反省の上に立っていると思われる(テヘラン会議については前回号の「国連ウォッチ」を参照ください)。ロビーイング研修では、ロビーイングの基本知識、WCARのプロセスにおけるロビーイングの段階分け、各段階のロビーイングの内容とその準備、文書作成などにおける戦略や留意点などが提示された。メディア研修では、キャンペーンや政策提言などにおけるメディア戦略、メディア人脈の組織と活用、情報の準備とメディア担当者の役割などが提示された。

 これらの研修を踏まえて、一日目に続いてグループに分かれてワークショップが行われ、ダーバンにむけた行動計画と戦略を検討し導き出した。

数多くの具体的な行動計画が

 最終日、全体会において宣言文がプロジェクターで映し出され、宣言文のセクションごとに意見が交換され修正や追加が行われた。先住民族のグループが宣言文の作成プロセスに不満を表し、グループ独自のレポートが添付文書として扱われたりしながらも、宣言文はすべて確認され採択された。また行動計画は、時間の都合で参加者全体に草案のコピーが配布され、その後は各ワークショップグループが必要に応じて草案委員会と調整する形で完成された。

 行動計画は、国内レベル、アジア・太平洋地域レベル、国際レベルという分け方や、テーマ別、国別という分け方、さらに、ロビーイング研修で提示された時間的な段階に従った分け方によって構成されている。ワークショップグループ、つまり多様な問題やテーマに基づいた様々なネットワークが、集会、キャンペーン、ロビーイング、文書づくり、メディア活用など、具体的な行動計画を数多く掲げる結果となった。

(行動計画の翻訳はヒューライツ大阪のホームページに掲載しています)