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国際人権ひろば No.36(2001年03月発行号)

人権の潮流

市民に信頼される人権救済制度の確立

人権擁護推進審議会「中間取りまとめ」をめぐって

山崎 公士(やまざき こうし)
人権フォーラム21事務局長(新潟大学教授)

いま、なぜ、人権救済制度なのか?

 日本社会にはさまざまな人権侵害・差別事象が渦巻いている。構造不況下での不当解雇、女性・被差別部落出身者・外国人に対する雇用差別、子ども・女性・高齢者などに対する虐待、代用監獄・刑務所・入管施設での公務員による人権侵害など、実例には事欠かない。

 従来の人権相談・救済を担ってきた人権擁護行政・人権擁護委員制度は市民からあまり信頼されてこなかった。また、裁判は費用と時間がかかり、しかも公開の法廷で自分が経験した人権侵害・差別について、語らなくてはならない。その結果、人権侵害・差別を受けた人びとは、人権相談を受けたり、人権救済を求めるのをあきらめ、泣き寝入りするケースが少なくなかった。

人権擁護推進審議会の「中間取りまとめ」

 1996年12月に成立した人権擁護施策推進法が設置した人権擁護推進審議会(以下、「審議会」)は、昨年11月28日に「救済制度の在り方に関する中間取りまとめ」(以下、「中間取りまとめ」)を公表した。「中間取りまとめ」の特徴は、①人権救済の手法として、総合的な相談、あっせん、指導等による「簡易な救済」と当事者による自主的解決が困難な状況にある被害者の「積極的救済」を示したこと、②人権侵害類型として、「差別」、「虐待」、「公権力による人権侵害」、「メディアによる人権侵害」の4類型に整理したこと、③人権救済機関に関し、「政府から『一定の』独立性を有し、中立公正さが制度的に担保された組織とする必要」性を示したこと(『』は引用者)、に要約できよう。

 以下に、「中間取りまとめ」の問題点を整理しながら、多くの市民に信頼される人権救済制度のあり方を考えてみたい。

「中間取りまとめ」の基本理念とは?

 「中間取りまとめ」には制度設計の基本理念が描かれておらず、無機質な「上からの」制度設計者の視点しか感じられない。各種人権NGOから短時間のヒアリングは実施したが、人権侵害・差別を受けている者の生活現場に赴き、当事者の声に耳を傾けるなどの実態調査は行わなかった審議会の姿勢にその原因があると思われる。

 これからの人権救済制度は、人権フォーラム21が人権政策提言の中で指摘したように、「人権」をこれまでの国家裁量により上から認められるもの(「国家裁量型人権ビジョン」)としてでなく、共に生きる人びとの合意形成と参加を通しての社会建設のルール(「共生社会型人権ビジョン」)としてとらえる必要がある。このビジョンを具体化するため、制度設計にあたっては、①総合性(省庁の縦割り行政の弊害を排した人権侵害・差別事案への総合的取り組み)、②当事者性(当事者自らによる事案解決に対する適切な支援)、③地域性(地域において人権侵害・差別事案を自ら解決する取り組みの支援)の人権政策3原則を指導原理とすべきである。

人権救済制度のありかた

1.「積極的救済」の対象限定と差別禁止法の制定
 「積極的救済の対象とする人権侵害」については、その具体的方策は示されていない。「積極的救済」の対象とされる人権侵害・差別等の範囲を明確化するため、差別禁止法を制定する必要がある。この制定にあたっては、諸外国の取り組みや「国連・反人種差別モデル国内法」を参照し、差別禁止事由と差別禁止分野の特定に留意すべきである。最終答申では、差別禁止事由と差別禁止分野を明示する差別禁止法の制定に言及すべきである。

2.公権力に対する人権侵害と拘禁施設への立ち入り調査権限
 「中間取りまとめ」は、「公権力による人権侵害すべてを積極的救済の対象とするのは相当でない」としている。しかし、警察・刑務所・入管のような拘禁施設内における虐待や人権侵害は人権救済の対象外とされてはならない。自由権規約人権委員会の日本政府報告書に関する最終見解(1998年)第10項で、警察・入管職員による虐待の申立について調査・救済できる独立した機関がないことに懸念が表明されたことを想起すべきである。公権力による人権侵害については特に聖域を設けず、あらゆる事象を「積極的救済」の対象とすべきである。
 密室での差別や虐待のような人権侵害が危惧される、警察・刑務所・入管のような拘禁施設に関しては、人権委員会の抜き打ち的な立ち入り調査権限を明記すべきである。

人権救済機関(人権委員会)のありかた

1.人権救済機関(人権委員会)の組織体制
 「中間取りまとめ」では、中央に置かれた一つの人権救済機関が全国を包括的に所掌する体制になっており、地方には法務局及び地方法務局の人権擁護部門を改組した地方事務局を置くことになっている。しかし、人権侵害や差別事案は、人びとの生活の現場で生じる場合が多い。したがって、人権救済機関は地域の実情やその地域が抱える問題点、地域に根付く因習や慣習などに精通した者によって構成されることが求められる。人権救済機関の設置にあたっては、都道府県や政令市にそれぞれ独立した人権委員会を置き、かつ各々の委員会が独自の事務局を備える必要がある。

2.人権救済機関(人権委員会)の独立性等
 「中間取りまとめ」では、人権救済機関には「政府からの一定の独立性が不可欠」であるとされており、また人権救済機関の多様性を確保するために、委員の選任においては「国民の多様な意見が反映される方法」を採用し、「委員の選任について、ジェンダーバランスにも配慮する必要がある」と述べられている。しかし、人権救済機関の独立性や多様性を担保するには、これだけでは不十分である。委員選任の公開性・透明性の確保や、委員を各種マイノリティから積極登用することなどが不可欠である。また、予算を独立して計上するなど、財政上の独立性にも配慮しなければならない。 さらに、事務局職員の採用においても、法務省や他の行政機関からの出向は必要最小限にとどめ、人権救済活動に取り組んできた弁護士や人権NGOのメンバーなどを積極的に受け入れるべきである。

結びにかえて

 最終答申では、本年1月22~30日に実施された公聴会での意見発表や約59,000通の全国からのパブリック・コメントを十分に踏まえ、人権侵害・差別を受けがちな人びとの眼差しで、「下からの」視点を重視して「人権救済制度」を設計すべきである。

(参照)
人権フォーラム21のウェブサイト http://www.jca.apc.org/jhrf21/
「中間取りまとめ」の全文は(財)人権教育啓発推進センターのホームページ(http://www.jinken.or.jp/)で参照できます。