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国際人権ひろば No.36(2001年03月発行号)

国際化と人権

子どもの権利の総合的な保障を自治体で

-「川崎市子どもの権利条例」の施行-

荒牧 重人(あらまき しげと)
山梨学院大学法学部教授

 「川崎市子どもの権利に関する条例」が2001年4月から施行される。子どもという権利主体に即して、その権利を具体的かつ総合的に保障しようとする条例の登場である。この条例は、子どもの権利に対して逆風が吹き荒れるなかで、子どもの権利条約などの国際基準を自治体に適用するものである。少年法「改正」等にみられる管理・厳罰主義、エリート教育や社会奉仕活動を強調する「教育改革国民会議」等の方向性などに対する「対抗軸」として、全国各地の子どもの権利の取り組みの参考と励ましになることであろう。

子どもの権利の総合的保障条例

 条例は、子どもの権利の理念、子どもの参加・救済のしくみ、子ども施策の推進・検証など、理念から制度・施策のあり方まで含む総合条例である。条例の内容は次のとおり。

前文
第1章 総則
第2章 人間としての大切な子どもの権利
第3章 家庭、育ち・学ぶ施設及び地域における子どもの権利の保障
第1節 家庭における子どもの権利の保障
第2節 育ち・学ぶ施設における子どもの権利の保障
第3節 地域における子どもの権利の保障
第4章 子どもの参加
第5章 子どもの権利に関する行動計画
第6章 子どもの権利の保障状況の検証
第7章 雑則
附則 権利侵害からの救済等のための体制整備

子どもの権利の理念を子どもに即して共有

 この条例は、前文で、子どもは一人の人間である、権利の全面的な主体である、社会を構成するパートナーであるということを確認する。そのうえで、第2章で、子どもの権利について川崎の子どもの現実や願いに即し子どもの生活の場において保障されるように分類し示している。子どもの権利条約などを根拠に、とくに大切にされる権利として、安心して生きる、ありのままの自分でいられる、自分を守り守られる、自分を豊かにし力づけられる、自分で決める、参加をする、個別の必要に応じて支援を受けることをあげる。これは子どもの権利の普及や保障の基準であるとともに、子どもへのおとなからのメッセージでもある。

子どもをとりまく豊かな人間関係やパートナーシップづくり

 条例では、子どもの主体形成の支援とともに、子どもの育ちや成長にかかわる者のあり方を示し、その支援にも配慮している。例えば、第3章では、親・保護者による虐待および体罰を禁止する一方で、その回復への支援、あるいは子育て支援を市に要請している。また、教職員や施設職員の主体的な取り組みに配慮しつつ、安全管理体制の整備、いじめの防止や体罰の禁止、情報公開や個人情報の保護にかかわる措置を定める。地域においては、子どもの居場所という考えを打ち出し、その普及と確保を求めている。

相互補完的な実効性あるしくみづくり

 子どもの参加については、子どもが市政に意見を述べる制度として、「子ども会議」を設置する。これは、すでにある地域教育会議における子ども会議や川崎子ども集会や「子ども・夢・共和国」というような子どもの主体的な取り組みの成果などをもとにしている。また、子どもの参加活動の拠点づくりをすすめる(これは「子ども夢パーク」の設置にむけて子ども参加のもとで動きはじめている)。学校・施設における参加では、「より開かれた育ち・学びの施設」にするために子ども・親・地域住民・職員等が定期的に話しあう場を設置する。学校の場合、学校評議員制度の意味合いも込めた「学校教育推進会議」が各学校に設置される予定である。子どもの利用を目的として市の施設の設置や運営について子どもの意見を聴く。

 子ども関係の施策の推進については、「子どもの権利に関する行動計画」を策定することなどを通じて、縦割り行政の弊害を除き、子ども施策が計画・実施・評価という一連の過程で総合的に推進されることをめざしている。あわせて、市の子ども施策を総合的に調整する担当部署が創設される。

 川崎における子どもの権利保障状況および子ども関係施策の検証のしくみとして、「川崎市子どもの権利委員会」を設置する。この委員会は第三者機関として、市民参加のもとで施策等を検証するとともに、市へ提言も行う。 上の行動計画にも意見を述べる。

 なお、「子どもオンブズパーソン」制度については、別に検討されている人権救済型の「統合的オンブズ」制度の方で導入される予定である。

 (詳細は、『季刊・子どもの権利条約』12号[エイデル研究所、2001年5月刊]の特集を参照してください。)