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国際人権ひろば No.36(2001年03月発行号)

コラム人権教育

人権教育の対話プログラム

2001年1月27日~29日、ヒューライツ大阪

ジェファーソン・プランティリア
ヒューライツ大阪

 ヒューライツ大阪では、日本、バングラデシュ、カンボジア、インドネシア、韓国、モンゴル、パキスタン、スリランカ、台湾、そしてタイの教育者による人権教育の対話プログラムを実施した。 日本からの参加者は主に大阪府・市の教育委員会、学校、教育研究協議会、NGOの人々であった。
 対話プログラムの目的は、①学校における人権教育についてのお互いの経験を共有する、②学校における人権教育の概念について共通の枠組みを理解する、③大阪で人権教育に関わる人々とアジアの他国で関わる人々とのつながりをもつ、④アジアの学校での人権教育の制度化を推進するための活動について討議する、の四点であった。
 延べ約三〇人の日本からの参加者と九人のアジア各国からの参加者は三日間にわたって小グループ討議や全体会での報告・討議を重ねた。 以下に主な結果を簡単に報告したい。

人権教育の定義

 人権教育はよりよい社会を作っていく努力の一部である。人権教育は、人々が望む一つの社会、人々の権利が守られ人々が互いに尊重されながら共に生きることができる社会を思い描くことでもある。

 人権教育は概して、
・生徒たちに、将来おとなとして社会で担う役割を準備させ、十分に人間的で尊厳のある生活をいかに送るかの道しるべとなるもの
・人間的で尊厳のある行動の機会をつくりだし、生徒たちに自分たちの問題に対処することを励ますもの
・(特にマイノリティに属していたり何らかの障害をもつ子どもたちが)生徒と先生の関係など、物事を変革し、対立を解決できるように力づけるもの、である。

 人権教育は、受験に基づく教育制度からトータルな人間的発展成長を促す教育への変革を提唱する教育改革運動とつながっている。それは社会に存在する人権運動(韓国の場合はその前段階である民主化運動)とは切り離されない。

 価値教育、多文化教育、開発教育、平和教育などは人権教育と関連している。それらは人権教育へのステップとして考えることができる。人権教育が一般的な人権概念もしくは特定の人権問題に焦点を当てるのに対して、他の教育は人権に影響を及ぼす概念や問題をカバーする。

カリキュラムの開発

 アジアにおけるこれまでの経験に基づいて、さらに積み上げる形で人権を教えていくべきであると結論づけられた。 教育レベル、年齢は考慮すべき重要な要素である。人権カリキュラムは人権に関する価値を理解するところから始まり、そこから発展して人権概念の理解につながるべきである。

 生徒たちは、自由、平等、社会正義、他者の尊重、民主主義、差別や偏見の回避をゲームを使って学ぶことができるだろう。人権を教えるにあたって、すでに通常のカリキュラムの一部として生徒が学んでいる価値を使うことで教員の負担増を避けることができる。

 人権問題の理解は、個人的、社会的、国内的、国際的など、さまざまなレベルで行われるべきである。これらは生徒の年齢レベルに合わせることもできる。

 国際的な人権基準(国際人権条約)の価値もしくは人権原則はすでにアジアにおいて多くの取り組みの一部となっている。国際人権条約の条文を説明する教材があるし、世界人権宣言や国際人権規約、女性差別撤廃条約、子どもの権利条約などをわかりやすい言葉で伝える翻訳がいくつかの国で作られている。

 国際人権基準を教えるにあたって以下の点が確認された。
・国際人権基準は、すべての人間は同じであり、したがって共通の基準を共有するという概念を支える(そうでない場合は他者理解から自己理解の態度へと向かう)
・国際人権基準は人権を守るために使うことができる
・国際社会の一員として人々は国際人権基準を知っておかなくてはならない

 しかし、この見方はすべての国に当てはまるものではない。日本では国際人権基準は人々に身近に感じられていない。法律用語の難しさ、国際人権諸条約が日常レベルで適用されていないこと、それらの活用について国際的な圧力がないこと、弁護士でさえ裁判で使おうという興味がないことなどが挙げられる。多くの日本人が海外へ旅行するにも拘わらず、国際人権基準を「なくても済むもの」として考えている。同じように海外へ旅行する中国人は自分自身を守るものとして国際人権基準を重視している。

 加えて、人権は「見えないカリキュラム」でも考慮されるべきである。 つまり学校全体の環境や条件が人権の理念に一致したものとなるべきである。

人権教育の制度化

 人権教育を制度化するためには次のものが必要である。
・憲法、人権に関する法律、政策、指針による支持
・NGO、政府、学校間のパートナーシップ
・新しいパートナーとして、国内人権機関、学術研究機関
・国際的な支援として、ユネスコや人権高等弁務官事務所
・焦点を当てる領域として、教員トレーニング、地域社会からの支援、他組織とのパートナーシップ
・教員への積極的支援として、給与の改善、負担軽減、動機づけ
・逆の支援として、人権を侵害する教員の振るまいや態度の変革
・制度化として、官僚主義、縦割りにならずに異なる担い手同士が関係を築くこと(学校での人権教育の実施はひとつの組織ではできないから)

 海外からの参加者は、対話プログラムを終えた翌日(一月三○日)、大阪府・市の教育委員会および大阪府立柴島高校と大阪市立北津守小学校を訪問し、人権教育・啓発の実際を見聞きした。