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国際人権ひろば No.35(2001年01月発行号)

ヒューマンインタビュー

国会での子どもの代表の参加が夢

スミトラ・アシュティカ(Sumitra Ashtekar)
インドNGO、メルジョル [Meljol] 研究員

 ヒューライツ大阪は、大阪府、大阪市との共催で「人権教育のための国連10年」中間年記念事業として、昨年12月14日に講演会及びシンポジウム、そして16日には分科会を開催した。この事業に子どもの権利に関する教育活動をすすめているインドのメルジョルから、スミトラ・アシュティカさんをパネリストおよびファシリテーターとしてお招きした。この機会に、インド社会で子どもの権利を子ども自ら実現するためにどのような教育活動がすすめられているのか話を伺った。

 メルジョルとは、ボンベイに本部を持つNGOで、地方には6つの事務所がある。メルジョルは、1991年12月、タタ社会学研究所のフィールド・アクション・プロジェクトを前身として設立され、1999年6月23日に州政府にNGOとして認定された。ユニセフ、民間基金などの補助金および個人の寄付金を得て、専門スタッフが16名、総務担当が4名の合計20名のスタッフが働いている。メルジョルの活動は、宗教、言語、ジェンダー、カースト、民族、年齢、能力の違いによって子ども(10歳~15歳を対象)が持つ偏見を変え、子どもが社会に参加できる技能を身につけることを目的としている。メルジョルでは、3つの主な活動として、1)ツイニング・プログラム、2)私立学校のプログラム、3)公立学校のプログラムがある。1つ目のプログラムは、地方と都市の二つの違う学校間の交流である。このプロジェクトの目的は、「地方に住む子ども達は貧しい」というステレオタイプを変革することである。貧しい生活が侮辱に値することではなく、金持ちでない生活も不幸せばかりでないということを子ども間の交流を通じて、子どもたち自身が学んでいくことを重視している。このプロジェクトは、今まで貧しいがゆえにやりたいことをあきらめていた地方の子どもたちに自信を与え、都市の中にある貧困の犠牲となっている子どもの自尊感情を育むことにもつながっているという。

 二つ目の私立学校のプログラム。私立学校には金持ちの家庭で生まれ育っている子ども達が多く通っている。それらの子ども達は普段から貧しさがゆえに生じる社会問題については鈍感である。例えば、買春、性的虐待、ストリートチルドレン、スラムなどについて私学に通う子ども達はよく知らない。逆にそれらの子ども達は、(貧しい子ども達が怠け者だからそうなるんだ)と考えている。このような偏見をなくすために子どもが親しみやすい教材を開発したり、偏見をなくすための教育を担う教員の研修を行っている。

 三つ目の公立学校のプログラム。公立学校へは多くの貧しい子ども達が通う。これらの子ども達は、内気で自分の考えを主張するスキルを身につけていない場合が多いので、子ども達のリーダーシップを育むカリキュラムが進められている。また、公立学校に通っている子ども達が公立学校に通えない被差別カーストの子ども達に学校で学んだことを地元で教える機会も提供している。

 このような活動をしているメルジョルにスタッフとしてかかわろうとしたきっかけを伺った。「私は大学院を卒業後、ボンベイから120キロ離れたマンガオンというところで、土地の権利をめぐって闘っている住民運動に2年間参加し一緒に闘いました。ここに住む人々は金持ちの農家に自分達の土地を奪われ、取り戻す運動をしていたのです。その後、住民運動の勝利で1992年には住民に土地を保障する州法が制定されました。しかし、奪い返した土地を人々は逆に売り出したのです。そこで、私は、いくら彼(女)らの土地の権利を保障する法律ができてもその土地をどのように守ることができるのか、知らなかったら意味がないと思いました」。その時、スミトラさんは、彼(女)たち自身が土地を保護する方法を知らされるべきだと思い、まず子ども達にそのノウハウを教育する必要があると考えたという。「大人の意識を変えるには、時間がかかります。子どもは無限の可能性を持っているし、考えが柔軟であるから、教育の効果は子どもの方が大きいと思います」。そんなスミトラさんは「人権を要求し守るための教育は、社会正義、公正さ、ジェンダー・センシティビティ、平和の実現と保護を目的とすべき」と語る。

 現在、メルジョルでは子どもの参加が大きな焦点となっている。計画、実施、評価、すべてのプログラムを進めていく過程に子どもが参加し、このプログラムを継続すべきかどうかも含めて子どもたち自身で決定しすすめていくことを重視している。この過程を実現するためには、子どもが参加しやすい文化が必要となる。まずは、子どもが自己主張を自然にしやすくするために、文化的な表現方法を取り入れてトレーニングしている。例えば、ダンス、歌、シュプレヒコール(スローガンを叫ぶ)、子どもが企画し構成するフェスティバルの開催などを通して子どもの自己表現の力を養っていく。また、地域社会では、子どもの自治会が組織され、大人の自治会と子どもの自治会が、年に1回会合を持ち、そこで子どもの要求を提案するという。昨年、学校に電気を通してほしいという自治会での子どもの要求が地方当局を動かし、その結果、その学校に電気がひかれた。

 両親がバラモン(僧侶)カースト出身のスミトラさんは、14歳の時、両親が信仰しているヒンドゥー教が非常に差別的な宗教であることを悟り、それ以来いかなる宗教も信仰していない。そんな彼女が、将来描いている夢は、宗教、言語、ジェンダー、カースト、能力、民族などの違いを超えた子ども達の代表が国会で発言することだ。

(文:ヒューライツ大阪・石川)

注:歴史的、文化的、社会的に形成される性差に敏感な感覚。

【メルジョル連絡先:Meljol Hum Bacchon Ka, Gilder Lane Municipal Secondary School, Gilder Lane, off Bellasis bridge Mumbai 400008, India】
* メルジョル発行の教材の一部はヒューライツ大阪も所蔵しています。