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国際人権ひろば No.117(2014年09月発行号)

特集 東北アジアにおけるビジネスと人権

中国におけるビジネスと人権の融合-未だ遠い道のり

黃 鐘(Huang Zhong)
武漢大学公益・発展法律研究センター プログラム・マネージャー 
程 騫(Cheng Qian)
ビジネスと人権資料センター・中華圏研究員、武漢大学博士課程 

 中国企業による人権の尊重は、早いスピードで成長し続ける中国産業の中で、中国の企業文化に新しく取り込まれた概念である。皮肉なことに、中国企業が無責任であるというイメージによって、中国企業がその事業と人権を結びつけることになるかもしれない。
 

 中国の法政策の変化

 
 2004年の中華人民共和国憲法の改正により、私有財産と人権の保障がもりこまれた。この憲法の新しい規定は、自分たちの財産を守りたいとする中産層以上の層の拡大を考慮したうえで、民主化へのステップとして、そして変化が必要であることを中国共産党が認識していることを示す中国政府のサインであるといえる。
 しかし、中国の憲法上で規定されている権利は、憲法裁判および司法審査の制度がないため、訴訟のための基礎にはなっていない。これは、中国の法制度の最大の欠陥と見なされている。それにも関わらず、中国政府が個人の財産と人権を尊重し促進するよう努めなければならないことを規定する憲法の規定は、ビジネスと人権の間のつながりの発展をサポートする力強い基盤となっている。
 また中国政府が策定している国家人権行動計画は、人権に関し中国政府の働きを評価する基盤となっているが、2012年に中国政府は第二次国家人権行動計画(2012-2015)を採択し、以下のように説明した。
 
 国家人権行動計画の策定は、中国政府が人権の尊重・保護の憲法原則の履行を確保するための重要な措置である。科学の発展と社会の調和を促進すること、および全土にわたり十分に豊かな社会を作るという大きな目的を達成することは非常に重要である。
 
 2005年の全国人民代表大会において、中国政府は、経済成長から社会全体の均衡と調和へ焦点を変更する「和諧社会」アプローチを採用した。その結果、企業は、政府の新しい取り組みを実行するために、企業の社会的責任について考えるよう迫られた。
 

 企業の社会的責任(CSR)

 
 2008年1月、国務院国有資産監督管理委員会(SASAC)は、中央政府が管理する国営企業に対する社会的責任の実施に関する指導意見を発表した。この指導意見は、重要な法的文書と考えられる。なぜなら、前述の全国人民代表会議での結論を包括的に実施し、中央政府直轄の国営企業が誠実に企業の社会的責任を果たすよう促すという目的を明示し、それは「あらゆる点で企業、社会、環境の協調的で持続的な発展を実現するためである」からである。
 SASACの説明によると、指導意見は、新たな世界の動向、すなわち「国連グローバル・コンパクト」、「ISO26000」、「多国籍企業の行為規範」、「持続可能性報告書」などCSRのイニシアチブの広がりにかなうものである。しかし、SASACスポークスマンは、国営企業のCSR原則は、国際的な動きと一致するだけではなく、中国の国内事情と組織の現実と合致させるべきであると表明した。
 

 苦情処理制度の問題

 
 中国には苦情申立に関する法律がある。刑事訴訟法は「市民の個別的な権利、即ち、財産権、民主的権利などを保護すること」を目的としている。
 しかし、中国の裁判所制度には、一般の人の裁判所へのアクセスを妨げる様々な問題がある。裁判所運用の財政や人材は、都市部の方が地方に比べ資源が多い。また、裁判所制度の問題について、中国共産党中央委員会は「憲法と法律を支持し、行政法執行における改革を深め、そして検察組織と裁判所の独立性と公正性を確保するために司法制度を徹底的に点検するよう、また司法実務と人権の保護を促進するよう」コミュニケを出した。
 裁判所制度が、増え続ける紛争を十分に解決できなかったため、人々は、政府当局に請願書を提出するといった他の手段を用いて正義を求めるだろう。実際、地方当局を無視する請願書は社会不安の元とみなされてきた。2005年に、地方当局に対し請願者救済制度を向上させるよう規則を作り、北京で救済を求める請願者の数を減らそうとした。
 労働法、雇用契約法、国務院による施行規制、行政規制、最高人民裁判所の判決は、労働権の保護に貢献しているとはいえ、現場の現状は厳しい。通常、労働者はサインする前に労働契約の詳細を十分に知らされないので契約が無効となりうる。労働者は派遣会社を通じて労働契約を交わす場合が多い。結果として、工場側は労働者の受入れを恣意的に拒絶するかもしれず、雇用が安定しない。中華全国総工会が、本来果たすべき全ての労働者(特に地方からの労働者)を代表する機関として機能していないことを考えれば、労働者の多くが苦情の解決にあたって深刻な障害に直面している。
 

 国際的イニシアチブに対する応答

 
 国連グローバル・コンパクトに参加する中国国内の組織であるグローバル・コンパクト・ローカル・ネットワーク・チャイナは、2002年の発足以後、発展し続けている。近年、かなりの国営・民営企業がこのイニシアチブに参加した。中国のグローバル・コンパクト参加企業は300以上に達している。
 また多国籍企業は、ステークホルダーから具体的なCSR原則や方針を採択するようプレッシャーを受けている。結果として、仕入先を決定するのにCSRを組み入れることで、中国の組織の至るところでCSR方針が普及するだろう。例えば、主要な自動車メーカーは、長年、中国の仕入先に対し、環境マネジメント規格のISO14001を取得するように要求していた。2010年に導入された新しいISOビジネス規格であるISO26000は、社会的責任のためのガイドラインを提供している。
 

 企業に関わる問題

 
 中国企業は、環境、コミュニティにおける人の健康、労働者、消費者に影響を与える問題に関わっていた。公害によって、主要な都市の日常の汚染指数は危険水位に達した。そして癌患者数が非常に多い「癌の村」を増やしている。労働問題では、独立した労働組合がないことは主な懸念事項である。消費者からすると、近年の相次ぐ食品の安全性の問題(乳製品の汚染など)は巨大企業が関係しており、中国製品の安全性に対する警戒心を強めている。
 

 実際の事例紹介

 
 中国石油天然ガス(ペトロチャイナ)は、世界の大手石油会社の一つであるが、その主要株主は、国営企業の中国石油天然ガス集団(CNPC)である。ペトロチャイナは、他の企業と手を組んで多くの国で事業を広げてきた。ペトロチャイナには人権問題に取り組む部局がないが、人権のイニシアチブは行っており、「持続可能な発展」、「人間本位のアプローチ」、CSR事業の推進のもと、人権問題に取り組もうとしている。環境権、労働権、先住民族の権利に関する指針策定のため、取締役会の下に環境安全衛生委員会を設立した。
 ペトロチャイナはスーダンでは操業していないが、「ダルフール危機」の時に、南スーダンの人々に対し人権侵害を行ったスーダン政府の共犯者として非難された。CNPCは、ダルフール危機の時期も含めて長期間、スーダン南部の石油プロジェクトを進めてきた。
 NGOたちは、CNPCがスーダンで人権侵害を行ったという疑惑から、2008年に国連グローバル・コンパクト・ボードにペトロチャイナ(グローバル・コンパクト署名企業)に対する苦情申立を正式に提出した。国連グローバル・コンパクト事務所は、CNPCがグローバル・コンパクトの署名企業でないことから、国連グローバル・コンパクトのインテグリティ措置2の対象にならないと回答した。国連グローバル・コンパクト・ボード副議長も「企業は、その本国政府による助言または制裁だけでなく、自らが署名した原則に沿った活動ができると感じるかどうか、そして、もちろん関連した国連の制裁の有無に基づいて自身の意思決定を行わなければならない」と述べた。
 この事例は、人権侵害に対する企業の責任の範囲、または主要株主である他の企業に責任があるとされる人権侵害の共謀の範囲に関する議論を起こした。NGOの訴えは、ペトロチャイナは、スーダンの石油プロジェクトを進めている主要株主と密接な金銭的関与があり、したがって、プロジェクトのパートナーであるスーダン政府の人権侵害に責任を負うべきだという前提にたったものである。加えて、この事例は、インテグリティ措置の仕組みがどのように機能するのかを国連グローバル・コンパクトが説明をする機会になった。
 
 

公正を確保するための企業の役割

 
 公正を確保するための企業の適切な役割について、中国政府と国際社会が設定した目標を支持するために、企業が司法へのアクセス原則に対して人権基盤アプローチに基づいた自社の内部体制を開発することが必要である。
(翻訳 黒原杏衣)
 
 
1: 武漢大学公益・発展法律研究センター=Wuhan University Public Interest and Development Law Institute  URL : www.pidli.org
2: 「インテグリティ措置」とはグローバル・コンパクトを乱用からまもり、その信頼性を確保するために国連グローバル・コンパクト・ボードによって決められた対策をいう。

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