MENU

ヒューライツ大阪は
国際人権情報の
交流ハブをめざします

  1. TOP
  2. 資料館
  3. 国際人権ひろば
  4. 国際人権ひろば No.110(2013年09月発行号)
  5. 人を大切にしたら儲からないか - 企業と人権の切っても切れない関係 -

国際人権ひろば サイト内検索

 

Powered by Google


国際人権ひろば Archives


国際人権ひろば No.110(2013年09月発行号)

人権さまざま

人を大切にしたら儲からないか - 企業と人権の切っても切れない関係 -

白石 理(しらいし おさむ)
ヒューライツ大阪 所長

世界人権宣言
第1条
すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神を持って行動しなければならない。

ビジネスと人権に関する指導原則:国際連合「保護、尊重及び救済」枠組実施のために(2011年人権理事会への事務総長特別代表報告書)
序文 第6節
この枠組は3本の柱に支えられている。第一は、(中略)企業を含む第三者による人権侵害から保護するという国家の義務である。 第二は、人権を尊重するという企業の責任である。これは、企業が他者の権利を侵害することを回避するために、また企業が絡んだ人権侵害状況に対処するため(中略)行動すべきであることを意味する。第三は、犠牲者が、(中略)実効的な救済の手段にもっと容易にアクセスできるようにする必要があるということである。

 
 2012年1月に発行した冊子がヒューライツ大阪始まって以来のベストセラーになった。題して「人を大切に-人権から考えるCSR ガイドブック-」。企業の社内研修の資料に使ってもらえればと作った、30ページ余りの解説本である。
 
 CSR というのは「企業の社会的責任」を意味する英語の略称である。その考え自体は決して新しいものではない。かつて先進国から国境を越えて事業展開する大企業が「多国籍企業」と呼ばれ、その強大な組織と影響力は国家の規制が及ぶ範囲をこえるものとなっていた。それらの企業行動がしばしば国際的な問題となった1970年代から、国家の枠を超えた国際社会での規制を求めて議論されていたものである。
 
 21世紀になると経済のグローバル化は、ヒト、モノ、カネの世界規模での流通を飛躍的に高め、大企業ばかりか、地域の中小企業までが国際的な企業活動をするようになった。そこで国際社会では、企業に責任ある行動を求めて、「社会の期待」を「企業の社会的責任」(CSR)としてまとめようと、企業活動に関する国際基準作りがはじまった。人権、労働、環境、腐敗防止の分野における10原則を提唱するグローバル・コンパクト(2000年7月)、新たに人権に関する章を追加したOECD多国籍企業ガイドライン(1976年、2000年と2011年5月改訂)、社会的責任を包括的に扱うISO26000 (2010年11月)-JISZ26000、特に人権に焦点を当てた国連「ビジネスと人権に関する指導原則」(2011年7月)などが、国際社会で圧倒的な支持を受けて「国際基準」といわれるようになった。
 
 これらの新たな国際基準に共通するのは、人権尊重が極めて重要な原則として取り入れられていることである。日本の企業にとっては、人権に関してこれまで、雇用差別をしない、職場でのセクハラやいじめに対処するなどが主であった。ここに至ってあらためて、人権とは何か、企業として人権課題にどう対処すべきかなど、国際基準でいう人権尊重という課題に直面することになる。それに応えようとしたのが、「人を大切に-人権から考えるCSR ガイドブック-」というわけである。
 
 このような動きが国際社会で注目される以前に、これとは全く関係なく「人を大切に」ということを実践してきた日本の中小企業があることを知った。創業者の経営理念が、「従業員とその家族を幸せにする」、「取引先に無理を強いない」、「顧客を大切にする」、「地域のために尽くす」、「株主に配慮する」などをうたい、人に関わる部分を中心に事業経営をおこなう。決して目先の利益だけを追い求めない。そうすることで、生き残り競争が激しい時代にも業績をあげているという。秘訣は中小企業ならではの経営の知恵と工夫である。CSRとか、企業の人権尊重責任とか、そのようなことばが出てくることはないが、それと共通するものがある。人権尊重とは、「人を大切に」ということにつながり、あくまで人間が中心である。
 
 いずれにしても、企業には、一人ひとりの尊厳と生まれながらに持つ権利、すなわち「人権」を尊重するようにという社会からの強い期待がある。「人権を尊重して儲かるようなら、尊重しよう」とか、「生き残りがかかっているこの非常時に、人権などかまっていられない」とかが言い訳にならない時代の到来である。もちろん、人権を尊重することが、結果として企業にとっての利益を生むことになれば、それは願ったり、かなったり。企業の評判は上がり、大切にされる従業員のモーチベーションも上がる。果ては、企業の業績が上がる。しかし、企業の儲けの範囲内で人権を考えようというのは本末転倒。利益を、目先のこと、単なる儲けと考えないで、もっと長く、そして広い視野で捉えることが必要である。
 
 国際基準に合った企業活動にむけて真剣に取り組もうとする企業が、日本でも次第に増えている。ところが、よく「人権がもう一つよく解らない」という声を聞く。まず、人権とは何かを知る。それから、家庭で、職場で、取引関係で、日常生活の様々な場面で、人権がどのように関わってくるかを知ることが大切である。人が普通に生活する中での人権。そんなところで、どうすれば「人を大切にする」ことになるのか、そこからまず理解したい。先にあげた中小企業の創業者の例は、そのような日常の人権感覚の具体化でもあると思う。