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国際人権ひろば Archives


国際人権ひろば No.106(2012年11月発行号)

特集 韓国スタディツアー 地域に学ぶエンパワメントと参加・木浦&ソウルへの旅

聖公会NGO大学院でのワークショップ -ジェンダーの視点に立つ日韓の女性支援の現場-

井上 摩耶子(いのうえ まやこ)
ウィメンズカウンセリング京都

 

フェミニストカウンセリングと 「女性主義相談」

 
 私は、フェミニストカウンセラ―と名乗っているが、フェミニストカウンセリングは、ジェンダーあるいは男女共同参画の視点に立つカウンセリングであり、臨床心理士に代表される伝統的な男性中心臨床心理学に基づくカウンセリングとは一線を画している。女性による女性のためのカウンセリングなので、性暴力(強姦・強制わいせつ・セクハラ・児童期の性虐待など)やDV(夫・恋人からの暴力)被害者からの相談を受けることが多い。
 韓国では、フェミニストカウンセリングは「女性主義相談」という名称で、1988年のワークショップからその一歩を踏み出したとされている(韓国女性ホットライン連合編、山下英愛訳『韓国女性人権運動史』43頁)。ほぼ日本のフェミニストカウンセリングの軌跡と一致しているが、韓国のフェミニストカウンセリングは、民主化運動とともに発展してきたためか、「フェミニストカウンセリング=女性運動」という性格がより強いようだ。
 私自身のフェミニストカウンセリング実践を確かめるためにも、韓国の女性支援現場を知ることは、有意義な経験となった。日本側から2人、韓国側2人の発表だった。ここでは、紙面の都合上、韓国側の発表を中心に報告したい。
 

 スポーツ環境・ケア労働現場でのセクハラ

 
 一番手は、大阪府立大学女性学研究センターの熊安喜美江さんの「スポーツ環境における女性に対するセクシュアルハラスメント(SH)」。京大アメフト事件などが思い出されるが、体育専攻女子学生のSH意識は、一般女子学生と比べて、スポーツをしている環境でも、それ以外の環境にあっても低いという。なぜなら、スポーツ環境にあっては、「身体接触の機会が多い」「指導者と選手が共有する時間や空間が多い―合宿や遠征時に」「男性の支配的構造」「上位下達の人間関係なので、問題が発覚しにくい」という理由からSHが生じやすく、立場利用の男性指導者のSHに対して、女性選手はそれをSHとは認識しにくいという説明に納得。スポーツSH防止対策における教育啓発が課題だという。
 二番手は、キムヤン・チヨンさん(梨花女子大大学院)の「増える労働の場、隠ぺいされるセクハラ」。韓国では、1998年「職場でのセクハラの法制化」(日本は1997年)、2008年には「顧客によるセクハラ」が法制化された。しかし、ケアサービス対象者(顧客)からのセクハラは、顧客としての対象者のもつ特性やケア労働の特殊性から、セクハラ防止が困難であり、「ケア労働におけるセクハラ防止法」制定の必要があるとの政策提言がなされた。
 日本では、介護サービス現場におけるヘルパー労働者へのセクハラ問題は未だ可視化されているとはいえず、たいへん興味深く、参考になる発表だった。韓国においても、ケア労働者のセクハラは長らく隠ぺいされてきたが、その理由としては、「ケア労働が女性役割の延長とみられ女性労働者が多いこと」「ケア労働者の低賃金、専門性の低さにより告発などできないこと」「働く場所が顧客の私的な場(家、病室)で、1対1での対応であること」などが挙げられた。おそらく、日本においても、同じ状況があるだろう。
 キムヤンさんが、2009年に実施された「ケア労働者セクハラ実態の分析」は、アンケート調査と面接調査によるものである。簡単に紹介しよう。「セクハラ被害を受けた人」(34.8%)。「言語的セクハラ」が64%で一番高い。「セクハラの回数」は2回以上(73.9%)。「セクハラ被害への対応」としては、「派遣機関に相談」(7.8%)、「耐える」(32.3%)、「顧客に抗議」(21.3%)。「我慢した理由」としては、「病人だから」(44.7%)、「ケア労働においてはよくある当然のことだと思った」(24.9%)。「セクハラ対応」を実施しても解決しなかった理由としては、「顧客がたいした問題と思っていなかった」(54.5%)、「機関で積極的対応をとらなかった」(13.1%)、「法的に実効性のある対応法がなかった」(13.1%)。 
 結論としては、ケア労働者へのセクハラ予防教育と顧客へのセクハラ教育(保健福祉部・省の管轄)を含むセクハラ規定の法制化が求められるということだった。
 
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熱心に発表を聞く日韓の参加者
 

 「これでいいのか?  日韓の性暴力被害者支援は?」

 
 三番手は、カン・キョンファさん(聖公会大学NGO大学院)の「検察捜査過程での性暴力被害者の二次性暴力経験」。私は、1991年頃より、性暴力裁判支援をしてきたので、興味深い発表だった。明治期にできた日本の「強姦罪」に比して、韓国では1994年に「性暴力犯罪処罰及び被害者保護に関する法律」が制定され、1995年に刑法改正が実施された。うらやましい話だ。しかし、韓国の性暴力被害者がこの刑事司法システムを選択しない現実があるという。2010年の告訴率は13%で、検察庁起訴率は告訴率の40%以内。起訴されても無罪になったり、50%以上が不起訴処分。被害者が告訴中に告訴を取り下げることによる公訴棄却が70%。あとの約30%は証拠不十分による不起訴だという。それどころか、被害者が告訴した後、捜査過程において、検事によって「虚偽告訴罪」を宣告されることがあるというのだ。(※韓国では、一審判決まで告訴の取消ができる<刑事訴訟法232条>)
 ここでのカンさんの問題意識は、この刑事司法プロセスでの検事の性差別行為や二次加害(セカンド・レイプ)行為が問題だということであり、公訴棄却になった性暴力被害者への面接と捜査記録の分析によって、検察捜査過程での問題点をあぶり出した。
 被害者は、陳述過程での男性捜査官の二次加害的な質問、被害者の過去の性的履歴を追求する質問などにより、心理的に耐えきれなくなり告訴を取り下げる。加害者と同席での取り調べもあるという。捜査官のもつ「強姦は同意された性行為だ」「被害者が求めたからこそ性関係が成立する」といった「強姦神話」(日本では、「女のノーはイエスのサイン、嫌だ嫌だと言いながら本当は強姦されたがっているのだ」)によって、被害者の話を解釈する。さらに、捜査官の「正直に話さなければ虚偽告訴罪でぶち込むぞ!」といった強圧的、強迫的な態度によって、被害者は恐くなり捜査官の言うまま陳述してしまう。
 韓国においても、まだまだ性暴力は「個人に対する暴力や人権侵害」としては解釈されず、道徳的、規範的な観点から解釈されがちである。そのために、性暴力被害者も「道徳的な女か、非道徳的な女か」に分類され、それに従って法によって守られたり追放されたりすることになる。検察捜査過程での「二次加害」は、被害者に法への不信感を与え、他者や社会への信頼感を喪失させ、社会的孤立を促進するものである。この解決策としては、法や制度自体の整備に先立ち、法曹人への人権感覚と(性に対する認識についての)性教育が必要であるとの結論だった。
 しんがりは、周藤由美子さん(ウィメンズカウンセリング京都)による「性暴力禁止法をつくろうネットワークの活動」。性暴力禁止法をつくろうネットワーク(禁止法ネット)は、被害当事者、支援者、研究者など500名以上の会員を擁し、周藤さんは共同代表のひとりである。禁止法ネットの課題は、①「私たちの求める性暴力禁止法」の提案、②超党派の女性議員のネットワーク形成、③法務省や法学会、日弁連の意識変革、④政策提言型の運動スタイルの確立などである。最近、日本において性暴力裁判における無罪判決が続出している動向からも、禁止法ネット運動の役割は大きい。最後に、個別の性暴力事件から社会的運動をつくりだすこと、女性たちの一致団結した力を示すこと、具体的な政策提言に関する議論を深めていくことにおける方法論を、韓国の運動から学びたいと結んだ。
 時間的制約があって、発表者に質問し討議する時間がなかったのが残念だったが、私としては、同じ家父長制的社会におかれている両国の女性の位置を新しい観点から捉えなおすことにもなった有意義なワークショップであった。 

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