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国際人権ひろば No.100(2011年11月発行号)

人権さまざま

人権NGO

白石 理(しらいし おさむ)
ヒューライツ大阪 所長

「民族や個人の人権と基本的自由のあらゆる侵害を効果的に取り除くことに貢献するという貴重な仕事によって、個人、グループそして組織団体が果たす重要な役割を承認し…。」
「普遍的に認められた人権と基本的自由を促進し擁護するために働く個人、グループ、および社会の組織が持つ権利と責任に関する宣言」
(1998年12月国連総会採択)の前文第4節

「個人、非政府組織(NGO)及び関連機関は、あらゆる人権と基本的自由に関する問題について一般の意識を高めるために貢献するという大切な役割を持つ…。」
同 16条

「個人、グループ、機関、および非政府組織(NGO)が、民主主義を護り、人権と基本的自由を促進し、民主的な社会、制度及び過程の促進と発展に貢献するという重要な役割と責任を持つ…。」
同 18条2項

 だれが人権を護ってくれるのであろう。

 人権侵害を防ぎ、侵害が起こった時にはこれを調査し、責任者の処罰と被害者のために救済措置をとるのはだれか。様々な人権問題にどう取り組みその解決の道筋を示してくれるのはだれか。一般の人々の人権意識を高め、人権に対する理解を深めるために、だれが働くのか。

 人権を護る第一の責任は国にあるという。日本も加わる多くの人権条約でも、日本国憲法でも人権を護るのは国の責任であるとされている。国家には、「人権を侵害しない」、「人権侵害を取り除く」、「人権を促進し実現する」義務がある。国家は、法律を整備して人権を護り、必要な時には法律に基づいて強制力を行使し、裁判による処罰を行い、被害者の救済を行う。また人権政策をたてて、積極的に人権を保障する。このように国家は、立法、司法、行政すべてにわたって、人権を保護し促進する義務を負う。しかし国に人権のことは任せておいてよいというものではない。人権はすべての人、一人一人に関わることであり、他人事ではない。そこに市民や人権NGOといわれる市民団体の役割がある。自分のイニシアティブで始める運動であり、活動である。国や、地方自治体に指示されるわけではない。

 世界には数多くの人権NGOがある。NGOは個人が集まって作るグループ、団体、そして団体や組織の連合体など、政府や自治体のような公的機関とは異なる私的民間団体である。非政府組織ともいわれる。人権NGOは市民の自発的な活動によって成り立っている。

 政府や自治体が、市民によって選ばれ、支えられ、監視されるというのは、民主社会の原則である。したがって、人権を護るという国の義務は、政府や自治体に任せきりでは満足に機能しない。行政と市民社会の協力がどうしても必要である。市民社会の基盤が弱いところでは人権保障も十分ではない。これは世界の経験から知ることができる。人権NGOは市民社会の活力の象徴でもある。

 世界で起こる、大規模虐殺や少数者グループに対する弾圧、差別など、組織的で重大な人権侵害は、人権NGOからの情報で国連に取り上げられることが多い。国内でも、多くの人権問題が人権NGOの訴えによって社会に知れ渡り、国や自治体が動き始めることがしばしばである。さらに、人権NGOの活動はしばしば国境を越えて広がる。「国境なき医師団」という名を持つNGOはよく知られている。その名の通り、国境にとらわれず活動している。

 一口に「人権NGO」といっても活動の仕方も、目的も、内容も様々である。長い年月の活動実績で、社会の信頼を得てきているNGOがある。他方で、流す情報が正確なものではなく、時にその政治的な意図が見え隠れするNGOもある。

 かつて国連で人権情報分析の仕事をしていたとき、関係国政府が躍起になって国連の情報源を探ろうとしていたことを思い出す。「あんな信用ならないNGOの情報を真に受けるとはけしからん」と抗議されることもあった。それを避けるためには、複数の情報源から得た情報をいろいろな側面から分析、評価することが必要であった。そうすることを積み重ねていくうちに、信頼できるNGO情報の取り方を学んだ。NGOとの信頼に基づく協力、協働関係が非常に大切であることも学んだ。人権NGOがなければ国連はその役割を十分に果たすことはできないことを知った。

 社会の信頼に値する人権NGOが今、資金的に大変苦労している。政府を含めた公的機関からの助成、財団、個人などからの寄付、会員からの会費などでその運営がまかなわれている。日本の人権NGOでは、そこで働く人のほとんどが、ボランティアであり、パートタイム。時間と費用は自分持ちというところが多い。助成金や寄付を貰っても、NGOとしての独立性、自律の原則を護るのは容易ではない。紐付きではない資金を求めるNGOの苦労は想像に難くない。

 ヒューライツ大阪は、大阪府内の自治体と民間諸団体からの資金提供で財団として設立され、大阪府、大阪市、堺市からの支援を受けて運営されていた。2009年度から支援が打ち切られたことにより、日本の人権NGOの現実に目覚めさせられることになった。ヒューライツ大阪のニュースレターが今回で100号になる。名実とも人権NGOとして立派に再生できるか、ここ数年にかかっている。