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国際人権ひろば No.87(2009年09月発行号)

特集:ケアから考える新しい社会:高齢者ケアの現場を訪ねる Part2

ハラボジ・ハルモニたちの「あるがまま」をめざして...

南 珣 賢 (ナム・スンヒョン)
NPO法人 京都コリアン生活センターエルファ事務局長

在日コリアン高齢者と介護保険サービス


 京都府は外国人登録者の中でもコリアンが33,000人を超え、他の外国人に比べて多く居住している。その内京都市には26,000人ほど(65歳以上は約4,000人)で、京都市の外国籍住民の68%を占めている。
 NPO法人京都コリアン生活センターエルファは1999年に居宅サービス事業所として京都市南区に設立され、2001年にNPO法人認可を受け、在日コリアン高齢者のための介護事業を中心に障がい者支援、子育て支援等の総合的な福祉活動を行っている。
 2000年4月からスタートした介護保険法は国籍条項がない。日本に居住するすべての外国籍高齢者も日本人同様サービス利用者となった。しかしその一方で在日コリアン高齢者が、保険料は徴収されるが介護サービスはスムーズに受けられないという状況が生まれた。現在、介護保険サービス利用対象となる外国籍高齢者はコリアンが最も多く、なかでも日本人高齢者とは言語、文化的背景、生活歴が異なる1世がその中心となる。
 デイサービスのレクリエーションは日本人なら大概経験したことのあるものを取り入れているが、コリアン高齢者は参加できない人がいる。遊びや文化が違う、就学経験がないという生活歴を持つ高齢者の背景を知らない職員たちが介護に携わっているのが現状だ。
 

介護側が歴史の残した心のバリアに気づけない


 介護保険がスタートした頃、年を追うごとにハラボジ(おじいちゃん)、ハルモニ(おばあちゃん)の言葉は、故郷の方言になり家庭内で朝鮮語がわからない、医者に訴えを伝えられず困っているという相談が寄せられるようになった。
 ある日、市役所のケースワーカーから依頼を受け86歳で独居のハラボジ宅をたずねた。ハラボジが話す言葉はほとんどが朝鮮語で、印鑑でトラブルを起こし介護サービスを受けられなくなったという。朝鮮語で話を聞いてみると「おれたちはハンコのために日本に連れて来られ、炭鉱をたらい回しにされた。わしの親も訳も分からずハンコのせいで土地を奪われた。家族とも生き別れ、わしの人生をめちゃめちゃにしたハンコなんや。それなのに弁当もらったくらいでなぜハンコというのか...」と抗議をしていたのだ。そこで私たちが朝鮮語で介護保険の仕組を説明するとようやく納得し、その後、朝鮮語が話せて、朝鮮料理を作れるヘルパーさんを派遣し、介護サービスを受けてもらえるようになった。
 他の介護施設に通っていたハルモニたちの様々な事例にも直面した。
 利用者たちが「赤とんぼ」や「ふるさと」などの唱歌を歌い始めるとそっと窓際に移り「おれ(女性でも男言葉をつかう)はそんな歌しらん」とすねたように繰り返し口ずさんでいたハルモニ。習字や俳句が始まると寂しそうに、恥ずかしそうにその場を立ち去るハルモニ。朝鮮語なまりの日本語を使うとばかにされるからと施設では一言もしゃべらず失語症と勘違いされていたハルモニ。折り紙遊びの時間にやっこさん、鶴、まり...次から次へと完成させる他の利用者の中、折り紙をただ回しているしかなく、職員の「何でもいいのよ」の声掛けに一同から注目されパニックをおこしたアルツハイマーのハルモニ...。
 決して介護職員が意地悪や差別をしている訳ではない。ただ知らないだけなのだ。
 字を読めて当たり前、折り紙が折れて当たり前だと思い込んでいる職員さんには「できない」ことが理解できない。歴史が残した1世ハラボジ・ハルモニたちの「心のバリア」に胸が痛む。
 

「ウリ(私たち)式介護」を打ち出す


 高齢者や障がい者が住みやすいように道路や建物、交通機関の段差を無くす取り組みや研究は活発であるが、日本で老いる外国人や外国に生活文化をもつ高齢者の「心のバリア」に目を向けて取り組んでいる事業所は少ないように思われる。
 認知症の高齢者の中には自分が生まれ育った故郷での生活や植民地時代の苦しい時代がよみがえり今を理解しにくくなる人もいる。そういう人たちが心を癒せる安らぎの場を提供しようとエルファの活動は始まった。
 エルファの特色は「ウリ(私たち)式介護」に基づいて①ウリ友、②ウリ歌、③ウリ食事、④ウリ遊び、⑤ウリ環境の5大要素を尊重し、在日コリアンのルーツと現状にもとづいた介護を打ち出しているところだ。
 エルファのデイサービスはハラボジ・ハルモニたちが学校への憧れが強い点を考慮し、学校の要素をたくさん取り入れている。デイサービスを1年間利用すると、学校で経験してきた事(運動会、遠足、焼き肉大会、学芸会...)を経験できるよう、計画が目白押しだ。
 

修学旅行で訪れた新潟の中学生がハルモニと楽しい時間をすごす。
修学旅行で訪れた新潟の中学生がハルモニと楽しい時間をすごす。

見学者とのふれあいでお互いが豊かに


 格好のレクリエーションは来訪者とのふれあい。当初、見学者の受け入れには不安があった。自宅に訪ねてくる者も少なく、長生きはみなに迷惑とまで思っている利用者たちのもとに多い日は20人以上の見学者が来所する。それに疲れてしまうのではないか、事故が起こりはしないだろうか、何より初対面の彼らに警戒し交流を拒むのではないかと心配した。
 しかしそんな心配は無用であった。「こんなわしらに会いに来てくれて、ほんまにありがとう」。見学者を笑顔で迎えるハラボジ、ハルモニたち。手を握り、頭をなでながら在日コリアンの生の声を聞きにきた一人ひとりに一生懸命話しかける。決して雄弁ではないが、1世の言葉と屈託のない笑顔、頭をなでる皺だらけの手、苦労を偲ばせる曲がった指が、隠された深い悲しみと痛みを語り見学者は胸を打たれる。
 迎えるハラボジ、ハルモニもまた、自分たちに会いに来てくれる人がいることに、戸惑いながらも自分を必要としてくれていることに喜びを感じる。エルファが1世にとって、来訪者、ひいては社会との接点となり、そこから生きる喜び、生きようとする意欲へとつながっている。また見学者には塗り替えることのできない歴史をハラボジ・ハルモニから知り、自分の在り方、これからの在日コリアンのことを考える糧となる。
 

外国人高齢者のケアサービスのモデルに


 エルファでは朝鮮語を話せるヘルパーを約121名養成し、在日コリアン高齢者の心に寄り添う介護を提供できるようになった。
 2009年8月現在、居宅支援(ケアマネジャー)、訪問介護、デイサービス(3ヵ所)の事業所を有し、1ヶ月に160余名のコリアン高齢者のケアに54名の職員が携わっている。活動スタートから10年間に渡り関わったハラボジ・ハルモニの数は560余名、その内100余名の方がすでにこの世を去った。
 施設は小さくても言葉の通じる介護職員や看護師がいて、故郷の友がいる、食べなれたキムチや朝鮮料理を食べ、懐かしい、口ずさめる歌が流れる場所―エルファ...。エルファとは嬉しい、楽しいときに使う感嘆詞である。
 言葉にならない苦しみと痛みを負った「アイゴー」の人生を笑顔と喜びに満ちた「エルファ」な人生に変えたいという思いで2世たちが立ち上げ、今も3世、4世の私たちを引っ張ってくれている。
 在日コリアンが集住する各地の同胞がエルファでの経験とノウハウを基に介護事業を築いた。そして今は中国帰国者1世のための介護事業の協力へと活動は広がっている。
 要介護認定際、母語で対応し、高齢者一人ひとりの文化・生活背景に合うケアサービスを提供してきたエルファの経験は今後、在日コリアンだけに留まらず、日本に住む外国籍住民がありのままの姿で老後を過ごすためのケアサービスのモデルになると確信している。

 今回のスタディツアーでは、3月28日に京都市南区東九条を訪ね、上記で紹介した「エルファ」の他に、NPO法人東九条まちづくりサポートセンター(愛称:まめもやし)を訪問した。「まめもやし」では、村木美都子事務局長から、東九条の歴史や住民の約15%が在日外国人で、その大半がコリアンであること、住環境や貧困問題を解決するための地域社会の住民運動を学んだ。東九条全体として住民の高齢化が進んでおり、人口減少や産業が沈滞する中での「まちづくり」をどう実現するかが課題となっている。受け入れを快諾いただいた皆様にこの場を借りてお礼を申しあげる。(ヒューライツ大阪 事務局)