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国際人権ひろば No.82(2008年11月発行号)

特集・移住女性の人権と多文化共生を考えた韓国スタディツアー2008 Part 4

「国境のないまち」(京畿道安山市ウォンゴク洞)を訪ねて

上野 万里子(うえの まりこ)

韓国最大の外国人集住のまち-「ウォンゴク洞」


 安山市はソウルの南西に位置しソウルからは地下鉄で約1時間の人口約70万人の都市。市内のウォンゴク洞は住民3万人のうちの約70%が外国人という外国人の密集地域で、10年くらい前からNGOとこの町の住民の思いによって、ここを「国境のないまち」と呼ぶようになった。今回は、梨花女子大学アジア女性学研究センター企画のツアーに合流し、NGOとして10年以上、活動してきた「安山移住民センター」と、最近地方自治体が設置した「安山市外国人住民センター」を訪問して話を聞いた。

 安山市の外国人登録者数は約3万3千人(人口の5%、55カ国、表参照1)、未登録の外国人を含めて6万人と推定されている。以前は農村であったが、1980年代に工業団地がつくられ、住宅との密集による公害問題などが原因でソウルなどから3K職場といわれる中小企業の工場(現在工場の数は約4,000)が移転してきた。IMF通貨危機以降に韓国人労働者より賃金の安い外国人労働者が増加していき、その多くは寄宿舎や旅館あるいは工場の上層階のワンルームに数人で住んでいる。安山駅から寄宿舎街に向かう駅前の商店街は、週末の金曜日の夜から土曜・日曜には安山だけでなく仁川、水原などで働いている外国人労働者が多く集まってくる。駅前には、中国・ロシア・インドネシア・モンゴル・パキスタン・ベトナム・スリランカ・バングラデシュなどの食堂や食品店がある。私たちの昼食も商店街にあるタイ料理のレストランだった。教会も中国朝鮮族教会・インドネシア教会・イスラムセンターなどがある。市が意図したわけではないけれども、中小工業団地で働いている人だけではなく、生活の便利性や、友人・親戚を頼って、また仕事を求めて、韓国内で働く外国人が多く集まりだし、自然に外国人が増えてきたという。

安山移住民センター(大韓長老会が運営支援)


 80年代後半の韓国の民主化の後、労働組合運動が活性化し、同時期に外国から労働者が多数流入した。しかし当時組合は自分たちの問題解決のほうが先で外国人労働者問題まではとりあげられず、キリスト教会が取り組み始めた。また、結婚で韓国に来た女性たちについても当初韓国の女性団体ではあまり関心がなかったが教会が取り組みを始め、戸主制の問題などを通して運動が広がっていった。現在センターでは当事者自らが活動できるように支援を行っており、移住労働者自身がアジア各国の情報を各国の言語で新聞発行・放送制作するなど、多文化共同体のリーダー育成を行っている。多数の韓国人と少数の外国人とがお互いわかりあえる民族的・文化的多様性を有しながら偏見や不正義のない幸せな社会をめざして活動している。また、「同胞」である中国朝鮮族は外国人登録数で居住外国人の50%を越える。帰国した中国朝鮮族の老人たちが幸せな老後を故国で過ごせるよう支援をしている。センターは1994年設立され、財政は教会が支えている。事業の内容としては、生活法律相談・人権擁護・多文化共生・多文化教育・医療共済などの福祉活動・文化行事など多様で、事務局の牧師さんは短い時間で全てを説明することはできないと言っていた。

<外国人女性から体験を聞く>
 スリランカから韓国に来て9年になる女性は、先に夫が韓国の楽器店で働き、後に彼女も同じ店で働くようになったという。韓国は労働ビザが通常3年のためそれ以降も働き続けようとすると一度帰国して、再度韓国に来ないといけないが、往復の旅費やビザ申請やブローカーへの手数料などの費用がかかるので、そのままオーバーステイとなることが多いようだ。「不法滞在」のため医療保険に加入できないので、逆子での出産に多額の費用がかかった。子どもが学齢期になったら入学手続の際、オーバーステイがわかるので帰国せざるをえないとも話していた。スリランカは貧しいので、より良い生活を求めてきたが、韓国で理不尽な差別にあっている。皮膚、言語が違っても同じ人間なのにと話していた。

 結婚によりベトナムから来て3年半になるという女性が結婚紹介所をとおして知り合った相手は全羅南道の田舎で農業をしている18歳年上の人だった。結婚8ヶ月、妊娠6ヶ月のときに夫は病気で亡くなった。その後は言葉もわからず暮らしにも慣れなくて、舅姑とも折り合いが悪くなり子どもとともにこのセンターに来た。センターで自立のための支援を受け仕事をしていくための準備中。政府による女性世帯主の支援のためのプログラムはあるが、移住者が受けるには申請書類の作成ひとつをとっても大変ということだった。

安山市外国人住民センター(行政が設置運営)


 安山市内には各地区に住民センターが設置されているが、2008年3月に安山市外国人住民センターが、26番目の住民センターとして外国人のみを対象に開所された。ここは公的施設であり、職員は公務員である。無料医療・通訳・外貨送金などの居住外国人の支援を行っている。外国人労働者の賃金に対する相談などは安山だけでなく全国から寄せられる。また、結婚して韓国に住むことになった女性などを対象にハングル教室、家族支援などの事業を行っている。外国人同士が理解を深めるため多文化祭りなどのイベント、小中高の学校に多文化の紹介、地域市民と一緒にまちの清掃などのボランティア活動に居住外国人が自発的に参加するような取り組みをしており、文化の多様性という安山市の持っている特性を活用し地域住民の多文化意識の向上、地域経済の活性化をめざしたいということだった。

「キリスト教教会の役割」を考えることが宿題に


 今回のスタディツアーでは当事者から直接話を聞くことができ、支援のネットワークを実感することができた。しかし、私には内容のみならず財政面での教会の果たす役割についてどう考えたらいいのか課題として残った。安山移住民センターの財政は教会の寄付などでまかなっているということだった。運営している教会は韓国で5本の指に入るほど大きい教会だからまあそれなりに資金は集まってくるという説明だったが、どうも納得できない。海外から工場の働き手として、または結婚により韓国に住むことになった外国人居住者のための事業を教会の組織として承認をされ資金を出している。日本で宗教団体がこのような活動を大規模に積極的に行っているなんてあまり知らない。活動の理念は「幸せな社会をつくる」ことだからといわれてもますます分からなくなってくる。これはキリスト教だからこうなるのか。
 また、安山でも霊光・群山でも移住者の支援を行っている人たちは「移住者の韓国への同化ではなく移住者本人が尊厳をもって韓国で生きていくための学びや出会いを作るための手助けをしている」と語っていた。霊光では、プロジェクトの共同責任者の一人である移住女性が経験を積んで同じ移住女性の助けになりたいと私たちとの交流の場で発言し、韓国人スタッフは彼女の決意をはじめて聞いたと喜んでいた。安山移住民センターでは、外国から言葉も分からずひとりで韓国の田舎の農家にいた彼女がどうやって、このセンターとつながったのか不思議だったが、2日後に「韓国女性の電話」霊光支部を訪問して、支援のネットワーク力を知って納得できた。
 民主化闘争をはじめとして、労働組合活動や移住外国人問題など教会が大きな力となっている、NGOの運営なども幅広く行っているようだ。今回のスタディツアーで、韓国をもっと深く知るには教会がキーワードになるというおもいがますます強くなった。

1参考 安山市外国人登録数(2008年7月現在)安山市資料より
安山市外国人登録数

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