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国際人権ひろば No.81(2008年09月発行号)

人権さまざま

公(おおやけ)のための仕事

白石 理 (しらいし おさむ) ヒューライツ大阪 所長

すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。 (日本国憲法第15条2)
天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。(同第99条)


 「公務員はいい給料を取っていながら、ちゃんと仕事をしない」、「公務員は信用できない」、「公務員は自分の利益を、まず第一に考えている」。大阪では「公務員バッシング」(袋叩き)の風潮がメディアを通して広がった。公務員が関係した不祥事が暴露されると、公務員みんなが悪いといわんばかりである。理不尽である。私は、公僕として仕事に打ち込んでいる公務員がいることを知っている。リンチのような袋叩きは卑怯である。

 このような雰囲気の中で大阪府の財政再建プログラムは、今年度は約330億円の人件費の削減を決め、府議会で承認された。たいした抵抗はなかったようである。これで、大阪府職員の給与は大幅に減ることになった。これには、公立学校の教職員、警察官の給与も対象となる。退職手当の減額も含まれる。これによって大阪府職員の給与水準は、全都道府県で最下位となるという。大阪にとって、これでよかったのか。危惧を抱く。

 公務員とは「全体の奉仕者」すなわち、国民ばかりではなく外国籍を持つ人も含めて、国内そして地域社会に住むすべての人のために働くことを求められている。特定の団体や、個人の利益のために働いたり便宜を図ったりはしないはずである。「一部の奉仕者ではない」。 

 公務員の仕事は、「公務」といわれる。公(おおやけ)のための仕事である。私企業のための仕事、自営業の仕事とは異なる。私企業の活動や自営業は、法令を順守し社会的責任を果たしつつも、利潤を追求するものであり、儲けがないところでは成り立たない。公務は、利潤とは別の公的サービスの必要からなされる。公のための仕事でありながら、そこで私利を求める公務員には社会の厳しい目がある。例えば、賄賂や公共事業にかかわる官製談合に対する一般社会の反発である。これは、社会が公務員に期待する倫理基準の高さを示している。 

 また、公務員は「憲法を尊重し擁護する義務」を負う。憲法第3章「国民の権利及び義務」(第10条から第40条まで)には護られる個々の人権が明記されており、第97条では「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである」という。このように、すべての公務員には例外なく、人権を「尊重し擁護する義務」がある。大変重い義務である。個人的には憲法改定を支持する公務員も、公務についている限りこの義務に縛られるのである。  

 近年、行政機構、組織の肥大化が問題とされ、民間でできるものは、できるだけ行政から切り離し、私企業の原則、すなわち、効率と利潤追求に基づく経営を志向するようになってきた。それが可能な部分もあろう。また、非営利団体、市民のボランティアなどの自発的な活動に委ねることができることもあろう。けれども、行政の行政たる所以、その中心部分は、利潤を生むことのない公的サービスである。公務員の仕事の本質ともいえるのがこのサービスである。誤解を避けたい。「サービス」とはボランティア奉仕ではない、はっきりと義務と責任のある「仕事」である。公務員は、主権者である国民、市民、そして主権者ではない外国籍を持つ住民に対してその仕事に責任をもつ。そこから、公正、公平を旨とした仕事の質の高さが求められ、仕事に打ち込むかかわりが期待されるのである。どんなに立派な行政施策でも、それを実施する公務員が、だれのために、そして何のために働いているかという職務意識と気概がなければ、期待通りの結果は生まれてこない。ここでも期待されていることは大きい。

 かつては国の権力、権威を体現して「民」を支配する「官吏」、「公吏」がいた。民主主義体制の下では、公務員が国や行政の権威と力だけを振りかざして仕事をするようなことは、あってはならない。

 このように、公(おおやけ)のために働く公務員は、国民、市民そして住民の大きい期待と義務、責任にこたえなくてはならない。だからこそ、それに見合った手厚い報酬と生活の保障が与えられるべきなのである。すぐれた人材を確保するための待遇は、「お手盛り行政」の結果ではないはずである。財政難を理由として緊縮財政を実行するなかで、なによりもまず公務員の人件費を一律大幅に削ることが、5年先、10年先にどのような結果を生むのか。額だけにこだわる経費削減ではなく、行政に責任を持つ者の長期的見通しに裏付けられた政治判断がいる。

 人権の擁護は、なによりもまず国や行政の責任である。公務員の仕事はその意味で、民間の仕事以上に人権に深くかかわるものである。質の高い行政、人権を尊重し擁護する行政施策は、公務員の仕事、「全体の奉仕者」としての仕事に負うところが大である。大阪の行財政改革が、行政サービスの質を高め、人権尊重を実現するために、公務の本来の在り方を確認し、気概をもつ公務員を支えるものであってほしい。

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