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国際人権ひろば No.79(2008年05月発行号)

人権さまざま

行政の選択 - 人権との向き合い

白石 理 (しらいし おさむ) ヒューライツ大阪所長

今、アジア・太平洋人権情報センター(ヒューライツ大阪)があぶない。

 橋下徹・新大阪府知事が2008年2月就任して直ちに発した「財政非常事態宣言」以来、これまでの垂れ流し行政の象徴のように語られてきた大阪府の出資法人の群れ。新知事の方針は、府が出資する法人への補助金を廃止することを前提に見直すというものである。3月初めの土曜日夕方、知事がヒューライツ大阪を「視察」に見えた。それまで一度もなかった知事訪問である。

 図書の棚や書庫などの施設視察が一応終わって席につき、前もって決められた通り、簡潔にヒューライツ大阪の事業について説明を申しあげた。グローバル化の時代、国際社会、アジア・太平洋地域との協力、共存なくして、大阪の未来はあり得ないこと、ヒューライツ大阪は、国際社会、特にアジアと大阪をつなぐために、人権を通して貢献してきたこと、そしてヒューライツ大阪が大阪にとって無駄ではなく、財産であると申しあげた。

 知事から、これに対するコメントはなく、施設賃料、出版物、事業の実績と収入、大阪府民に対する利益還元に質問が集中した。ヒューライツ大阪の研究が大学の研究とどう違うのかとの質問には、正直戸惑った。ヒューライツ大阪は研究を目的とする団体ではない。人権にかかわる事業や活動の一環としておこなわれる調査研究は、実際に役立つことを旨とする。NGOなどの人たちと連携しながらの研究であり、大学の研究とは異なると説明を申しあげたが、知事の理解は得られなかった。一般府民への還元、府の財政負担に見合う効果、しかも検証できる成果が問題とされた。

 その後4月11日に提示された改革プロジェクト・チームの出資法人改革試案では、「研究成果に対しては、国際的に一定の評価を得ているが、府民に対して研究成果が十分に還元されておらず、府として法人運営に関与する必要性は少ない」として、ヒューライツ大阪に対する補助金は廃止、府派遣職員は引上げの考えが示された。「研究成果」にこだわり、ヒューライツ大阪の事業が全体として理解されることも、考慮されることもない。国際社会で、また大阪で積み重ねてきた実績が大阪府民に対する貢献とはされなかったということであろう。

 大阪府がこれまで関わってきた事業のうち、何が無駄で、何が大切であるかを決めるのは、政治的判断である。「府民に対する還元がある」かどうか、客観的に検証できるとは限らないものを、あたかも価値判断を交えないで客観的に判定しているがごとき提示の仕方で、実は勝手に、既定の結論を示す。改革プロジェクト・チームは、知事の考えを反映しないで最初の案を提示したとされるが、すでに政治的判断は下されているように見える。後は、政治的駆け引きのみではないか。

 プロジェクト・チームの改革試案では、ヒューライツ大阪の事業に大阪府が関わる必要性を見出さないという。そのようにしか見られないヒューライツ大阪は何をしてきたのか、何をしようとしているのか。

 ヒューライツ大阪は、国内外で、特にアジアでは、人権教育分野の政府機関、研究者、人権教育団体などとの協力関係を作り上げてきた。世界の人権教育の最新の知識と方策を大阪に紹介し、教育者、人権教育専門家、行政政策担当者などと協力して、人権教育を国際基準に高めるため貢献してきた。大阪で、世界人権宣言をはじめとする人権の国際基準に則った、世界に通用する人権を伝えることに貢献してきた。人権に関わる市民団体、研究者、専門家、市民と協力して、諸々の人権情報を提供し、人権課題に取り組んできた。セミナーや、国際会議などによって人権理解と意識啓発が幅広く可能になった。ヒューライツ大阪は、外国籍住民の現状を把握し、人権尊重の観点からの問題解決のための取り組みをし、それを通して大阪の企業と社会が人権に対する意識を高めるように貢献してきた。

 このようにヒューライツ大阪が取り組んできた人権課題に対して、本来行政が無関心でいられるはずはない。大阪府がヒューライツ大阪の「法人運営に関与する必要性は少ない」というのは、「かってにどうぞ」ということか。大阪府は、これまでヒューライツ大阪がやってきたことを、これからは独自にやるということなのか、あるいは、もうそういうことはやらないということなのか。行政の責任放棄にならないことを願う。

 人権にかかわる働きが大多数の人の理解を得ることは、どこでも、いつの時代でも、やさしいものではない。国や行政に楯突く運動として危険視されることもある。また人権の事業は、費用対効果ということで数値化することができないことが多い。5年、10年という長い期間の地道な活動で初めてその効果が確認できるものでもある。これを意味のある活動と見るか、無駄と断じるか、それぞれの人の価値観によって異なるであろう。いずれにしてもヒューライツ大阪は、その使命としてきた事業活動を行政の支援がなくとも、できる限り継続するほかはない。誰かがやらねばならないと考えるからである。理解をしてくださる方々の支援が数多く寄せられている。今、このときに、貴重な支援である。ありがたい。