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国際人権ひろば No.76(2007年11月発行号)

人権の潮流

「参加」するオブザーバーへ -アジア・太平洋国内人権機関フォーラム 第12回年次会合

Henri Tiphagne (ヘンリ ティパグネ) People's Watch - Tamil Nadu

■ 概要


 アジア・太平洋国内人権機関フォーラム(APF)[1]は、2007年9月24日から27日に第12回目の年次会合をシドニーで開催した。今回の年次会合の期間、ビルマでは無数の僧が軍政へのデモを展開していたため、ビルマで続く人権侵害の状況はこの会議にも必然的に影響し、APFのメンバー機関は、ビルマでの人権侵害を終わらせるためにビルマ軍政と交渉するよう各国政府に要請することを合意した。
 国連人権高等弁務官のルイーズ・アルブール氏は開会のメッセージにおいて、世界人口の3分の2を占めるアジア・太平洋地域には、極度の貧困状態にある人々の人口についても3分の2を占めているという事実を強調した。絶望的なほどの貧困状態は適切な生活への権利や教育への権利といった人権を侵害しているだけでなく、貧困者の意見が聞き届けられたり、貧困状態から逃れることが困難になるといったさまざまな形で悪影響を与えていることに言及した。アルブール氏はまた、アジア・太平洋地域には地域的な人権機構が成立していないことから、新しく設立された国連人権理事会において、国内人権機関がいかなる議題であれ意見することが許可されたことについて、アジア・太平洋地域の人権保障において重要な進歩であるとの認識を示した。
 オーストラリア人権及び機会均等委員会の主催によって開催された今年の年次会合は、障害者の権利条約に規定される諸権利を実行化するために、国内人権機関には何ができるかということをメインに話し合った。障害を持つ人びととのパートナーシップや、法律や政策の改正点を明らかにするために政府との協力活動をすすめることが確認されたほか、APFのメンバー機関は各自、障害者の権利に関するフォーカル・ポイントを決定することを合意した。
 今年はAPFと並行してNGOのInternational Service for Human Rights とForum Asiaが主催したトレーニングプログラムが設置され、25を越えるNGOが参加した。他にこれまでのAPF年次会合とは大きく異なったのは、オブザーバーとして参加しているNGOに、各セッションの議論に参加する十分な機会と、口頭陳述の時間が保証されたことである。APFの審議過程にNGOがこのような健全な形で関わるという試みは、国内人権機関とNGOの双方から高い評価を受け、APFの最終声明には会議の中でNGOが指摘した多くの関心事項が反映された。

■ 人権と環境


 今年の年次会合で検討された重要な議題のうちの一つは、法律家諮問委員会の人権と環境についての報告である。法律家諮問委員会はその報告の中で、地域内の多くの国で環境法が制定されているが、気候変動や広い範囲の環境変容の結果引き起こされうる、広範な人権侵害に対応していないこと、また環境は人々の生活や文化にとって絶対に欠くことのできないものであることから、国内人権機関に対して環境問題に派生する特定の権利の策定についても擁護するよう要請した。法律家諮問委員会の委員長であるAndrea Durbach氏は、事態の緊急性からして、健全な環境への権利は、ただ単に生活への権利の「付属品」としてみるべきではないと強調した。法律家諮問委員会はさらに国内人権機関に対して、「グリーン・ベンチ」(環境に特化した裁判所、審判所またはパネル)の設置や、災害に対する準備や救援能力の強化について各政府に働きかけるよう要請した。法律家諮問委員会の人権と環境に関する最終報告書は2007年11月に発表される。

■ 国内人権機関の連携


 タイ、ヨルダン、インドネシア、マレーシアそしてパレスチナの国内人権機関は2007年6月、人身売買や人権教育プログラムを強化するために二国間ベースで協議する活動について、地域的な取り組みを発展させるための協力宣言に署名した。また、これらの国内人権機関は、国内人権機関の設置されていない地域内の政府に対して、国内人権機関の設置を働きかけ、アジア地域の人権メカニズムの発展のために共に活動することにも合意している。これに続いて、アフガニスタン、ヨルダン、パレスチナ、そしてカタールの国内人権機関が西アジア地域において同様のモデルを設立することに強い関心を表明していた。

■ 国内人権機関の独立性-パリ原則への準拠


 APFは、フィジー人権委員会の独立が侵害されていることについて失意を表明した(訳者注:2006年12月の軍のクーデター後、フィジー人権委員会の委員長が軍により任命されていること、及びその活動の独立性にも疑問が指摘され、フィジーは2007年4月にAPFを脱退した)。国内人権機関が独立性を維持することは人権の保護において不可欠であることから、フォーラム評議員はすべてのメンバー機関、特に紛争下にある国のメンバー機関に対してパリ原則によって要求される独立性を明示するよう促した。スリランカについては、多くのスリランカのNGOが、スリランカ人権委員会の委員の任命過程に問題があることから、国内人権機関としての正当性に異議を唱えていたが、スリランカ人権委員会は、与えられたプレゼンテーションの時間の大半を、その正当性を強調することに費やしていた。

■ NGOの動き


 APFにオブザーバーとして参加したNGOは、NGOの代表意見としての口頭陳述をまとめるために討論の場を持った。参加したのは、International Service for Human Rights(ジュネーブ)、Forum Asia(バンコク)、Suaram(マレーシア)、Indonesia Human Rights Working Group(インドネシア)、People's Watch- Tamil Nadu(インド)、People with Disability(オーストラリア)である。NGOの主要な関心事は2006年に、人権擁護者(活動家)に対する国家による暴力がAPFのメンバー機関のある半数以上の国で増加していることであった。よってAPFに人権擁護者のための特別なメカニズムを要求したほか、APFの年次会合において、「人権擁護者」の問題を、常設の議題として設定することを要求した。また法律家諮問委員会に対しても、次の年次会合において「人権擁護者」の報告を委託するようにAPFから要請するように求めたが、これはAPFによって承認されなかった。これに代わって、法律家諮問委員会には人権に影響を与える多国籍企業の説明責任と政府の責任についての検討を要請することとなった。
 NGOはその他にも、アジア・太平洋地域内には難民を保護するための法律がない国が多くあり、難民が恣意的に拘束されたり虐待を受けたりすることがあることや、ビルマ軍政の弾圧により多数の難民が発生していることも強調した。さらに国内人権機関に対して、難民保護に関する国際基準と国内の取り組みのギャップをうめるために、国連難民高等弁務官事務所と緊密に協力するよう促した。このNGOの意見について、APFの最終声明に取り入れられたことをNGO側は非常に喜ばしく思っている。

■おわりに


 今回の年次会合においてNGOは、1999年7月の年次会合で採択されたキャンディ行動計画に取り込まれたような、国内人権機関とNGOのより体系的なコラボレーションの必要を呼びかけた。APFはメンバーの国内人権機関だけが参加する「排他的なクラブ」ではなく、市民社会からの純粋な批判も受けいれる真のフォーラムであるべきである。
 また、国連人権理事会で国連に加盟する192ヶ国全ての人権状況を審査する普遍的定期的レビューが決まったが、これは国内人権機関にとって、国連人権高等弁務官事務所に各国の人権状況の報告をする活動的なNGOと協力関係を築くいい機会である。インドやパレスチナ、インドネシアは来年の第1回目の審査対象にあがっているが、これらの国の国内人権機関にとっては、国連の普遍的定期的レビューという新しいシステムにおいて、国内人権機関とNGOの協力関係の良いスタンダードを示すいい機会である。 (翻訳:野澤萌子・ヒューライツ大阪)

1. APFは2007年9月現在、オーストラリア、アフガニスタン、インド、インドネシア、ヨルダン、マレーシア、モルディヴ、モンゴル、ネパール、ニュージーランド、パレスティナ、フィリピン、カタール、韓国、スリランカ、タイ、東ティモールの国内人権機関からなる。