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特別寄稿:ダイキン工業に対して周辺住民ら802名がPFAS公害調停を提起

池田 直樹(いけだ なおき)
ダイキンPFAS公害調停弁護団長・弁護士

公害調停の提起

 2025年12月23日、ダイキン工業淀川製作所周辺住民ら803名が、ダイキン工業が環境中に排出したPFAS(ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物のうち主にPFOA)による人体、地下水、土壌等の汚染や地盤沈下のおそれを理由とする公害調停を大阪府公害審査会に申請しました。

 申請人らは、ダイキン工業に対して、PFAS汚染に関する情報開示、汚染に関する継続的な環境調査及び健康調査の実施、汚染対策に関する住民、行政、学識経験者等が参画する連絡協議会の設置を求めています。

PFOAとは

 PFOA(ぺルフルオロオクタン酸)は、フッ素ポリマー加工助剤や界面活性剤等に使用される人工的な物質であり、難分解性、長距離移動性、環境残留性を有しているため、一度環境中に排出されると分解されないまま広範囲に拡散・残留し、その一部は飲み水や食物の摂取等を通して、人の体内に蓄積され、その健康影響が懸念されています。国際がん機構から発がん性を指摘されているほか、出生時低体重・発育や肝臓への悪影響、免疫力の低下のほか、近年、間質性肺疾患のリスクも指摘されています。

 PFOAは2021年から輸入、製造、使用が原則禁止され、26年4月からは、暫定目標値として設定されていたPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)との合算値50ng/Lが、正式に水道法上の水道水質基準となりますが、その他の規制は遅れています。

汚染の状況

 淀川製作所では、1960年代後半からPFOAの使用を80年代からは自社製造を開始し、2012年に製造・使用を終了しました。法的規制が無い中、長期間にわたり日常の排気や排水等を通して、大量のPFOAを環境中に放出してきました。

 ダイキン工業が一体どれだけの量のPFASを環境中に排出してきたかは十分には明らかになっていませんが、2002年分については当時の内部告発資料が存在します(中川七海『終わらないPFOA汚染』43頁以下参照)。

 これによると、排水だけでも9トンものPFOAが排出されているのですが、この量のPFOAを水道水基準である50ng/Lの濃度に薄めるためには、何と6億個もの25mプールないし琵琶湖約6.5個分の水が必要になるのです。しかもこれはたった1年分の水への排出分だけなのです。

 実際、小泉昭夫京都大学教授(当時)の2004年の論文では安威川下水処理場の放流口付近から最大で67,000ng/Lという高濃度汚染が検出されており、当時の大量排出と整合するのです。


2002年ダイキン工業淀川製作所 
PFOA排出インベントリ(概算・推計)

項目 割合
環境排出(排水) 9 t 36%
環境排出(大気) 3 t 12%
焼却処理 2 t 8%
製品中へ残留 1 t 4%
回収して再利用 2 t 8%
その他(未確認分/工場外へ譲渡等?) 8 t 32%
合計 25t 100%
img_newsinbrief-ja_20260116_01.jpg


 そのことは過去における水道水の汚染をもたらしたと考えられます。大阪府・三島浄水場の給水域の市民(摂津市ほか)は、データのある2009年において、水道水質基準を超える57ng/Lを水道水の使用を余儀なくされていたほか、それ以前において、幅広い大阪府民が水質基準を超える汚染された水道水を利用していた可能性が高いのです。

 その後、PFOAの製造が終わって13年が経過する2025年にも、淀川製作所周辺では地下水を中心にPFOAの高濃度汚染が続いています。

周辺井戸水のPFOA濃度の経年変化


南別府の井戸(約200m) 一津屋の井戸(約10m)
2007年 26,000 ng/L 39,000 ng/L
2015年 4,800 ng/L 1,500 ng/L
2020年 1,380 ng/L 22,000 ng/L
2025年 1,700 ng/L 35,000 ng/L


 さらに「大阪PFAS汚染と健康を考える会」と京都大学の研究グループによる2023年検査によれば、PFOAの血中濃度は、大阪府全体で環境省調査の約3倍弱、摂津市住民は4倍強であり、過去からの水、大気、食品経由の暴露が疑われています。


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被害の状況

 健康被害については、高濃度曝露をした元従業員らについて間質性肺炎との関係が強く疑われています。そもそも血中濃度が極めて高い場合、仮に現時点では健康被害が発生していなくても、今後の健康管理が必要であり、そのことが1つの被害といえるでしょう。

 生活被害については、井戸水の利用の中止、農地の利用の中止のほか、一部ではダイキン工業による大量の地下水の汲み上げ浄化に伴う地盤沈下が指摘されています。

公害調停の目的と課題

 ダイキン工業は、現在、約450億円もの対策費用を投じて、淀川製作所を遮水壁で囲い込み、地下水を大量に汲み上げてPFOAを除去するなど、地下水および土壌の汚染対策を進めています。

 しかし、その原因となった汚染原因や汚染の状況(過去からの製作所内での汚染データや汚染場所等)の情報はほとんど開示されていません。工場外の地下水や土壌汚染についてどうするのかについても、現時点で規制がないこと等を理由として、方針を明らかにしていません。

 公害調停は、このような厚い情報の壁、規制の壁、対策の壁を、汚染原因者との直接的な協議を通じて打ち破るために提起されました。今回の調停申請人団の特徴は、お膝元である一津屋地域をはじめとする地元住民が数多く申請人に加わっていることです。摂津市はダイキン工業の企業城下町であり、多くのマスコミも大スポンサーであるダイキン工業に「配慮」をしてきました。そんな中、小泉名誉教授らの先駆的な調査と、「PFOA汚染問題を考える会」をはじめとする市民の地道な取り組みや党派を超えた地元議員への粘り強い働きかけがあったからこそ、次第に地域の重要課題としての関心が高まり、公害調停という具体的な手法を提起したのち、1か月強の地元での調停の連続説明会を通して800名を超える申請人が集まったのです。その意味では環境をめぐる地域の民主主義の実験場ともいえるでしょう。

 調停でまず取り組むべきは、排出・汚染情報の開示と血中濃度を含む大規模な健康調査です。規制や基準が不十分な中で、少しでも前向きな対応を引き出すためには、世論の後押しが必要です。第二次申請を含めさらに調停の輪を広げるとともに、国内外のPFAS問題に取り組む活動と連携し、それらを通じた国の規制への働きかけも行っていく予定です。


<参照>

https://www.hurights.or.jp/archives/newsletter/
section4/2024/11/pfoa.html

『国際人権ひろば』 No.178(2024年11月号)
ダイキン工業によるPFOA汚染:地方自治体の不作為
小泉昭夫(こいずみ あきお)京都保健会、京都大学名誉教授

(2026年01月16日 掲載)