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デジタル時代における選挙と表現の自由―表現の自由に関する特別報告者が報告書を提出

 スイス・ジュネーブで開催された第59会期人権理事会(6/16-7/8)において、表現の自由に関する特別報告者のアイリーン・カーン氏は、デジタル時代の選挙において表現の自由が直面する主要なリスクについて報告書(A/HRC/59/50)を提出しました。

 この報告書は、特別報告者が過去1年間にわたる、市民社会団体、選挙機関、人権擁護者、ジャーナリスト、ソーシャルメディア企業の代表らとの対話を含む、広範な協議に基づいています。


選挙において表現の自由を脅かす3つの傾向

 特別報告者は以下の3つを、表現の自由を脅かす主要な傾向として指摘しています:

  1. 権威主義的傾向や人権・民主主義の後退に特徴づけられる有害な政治環境による情報操作
  2. 偽情報やヘイトに満ちたソーシャルメディア空間
  3. 伝統的メディアの弱体化

 特別報告者は、表現の自由が抑圧されると、選挙プロセスが危機にさらされ選挙への信頼が損なわれると危機感を表し、「選挙の完全性と情報の完全性は密接に結びついている。安全で自由、公正な選挙には、有権者が正確で独立した情報に容易にアクセスできる健全で開かれた情報空間が必要だ」と述べます。

 特別報告者の調査によれば、ポピュリズム的な政治家や権威主義的な政府は情報操作に頼っており、デジタル技術とプラットフォームはそれを可能にし、さらに拡大して、偽情報、誤情報、ヘイトスピーチの氾濫を引き起こしているといいます。

 フォルカー・トゥルク国連人権高等弁務官も、選挙と人権に関して発言しています。トゥルク国連人権高等弁務官のビジョン・ステートメント「人権:解決への道」において、選挙は市民空間と効果的な統治にとっての試金石であると述べています。

 トゥルク国連人権高等弁務官は、今日の世論調査が「ディープフェイクや偽情報がこれまで以上に容易かつ効果的に作られる時代に行われている」と指摘し、「問題から目をそらさせる政治、分断、暴力が、投票前に当たり前のように見られる状況において、国家も社会もこの試練に打ち勝たなければならない」と訴えます。

 特別報告者は、これまでも国家が刑法(名誉毀損罪)を濫用することで異議申し立ての声を抑圧してきたことを踏まえながら、今やインフルエンサーやAI(人工知能)がこの戦いの新たな最前線となっていると指摘し、「ジャーナリストとは異なり、インフルエンサーは職業倫理に縛られておらず、候補者からの強要に影響される可能性もある」と述べ、「選挙における表現の自由に対するAIツールの影響は、民主主義に深刻な結果をもたらす可能性がある」と警鐘を鳴らします。

 また報告書では、リベラルな民主主義国家においてでさえ、人々を民族、人種、宗教、言語、性別、ジェンダー、性的指向によって非人間化・スティグマ化する政治的レトリックが広がっていることを警告しています。

 特別報告者は、「一部の政治家は、表現の自由を武器にして、マイノリティや批判的な声を中傷し、貶め、排除している」とし、ヘイトスピーチ的言論が「表現の自由」の名のもとに正当化される風潮を批判しています。

偽情報、情報操作に対する人権に基づいた効果的な戦略に向けて

 報告書は各国、政党、そしてソーシャルメディアのプラットフォームを運営する企業に対して一連の勧告を提示しています。

 各国に対する勧告には、インターネットの遮断、通信妨害、プラットフォームやウェブサイトのブロックといった過剰な措置を控えること、刑法の濫用を防ぐために名誉毀損およびネット上の名誉毀損行為に関する非犯罪化を検討することなどが含まれています。また、メディアを衰退させないよう、独立した公共メディアへの投資が緊急に必要であると強調しています。
 特別報告者は、選挙との関係において表現の自由に対する権力の濫用に対して十分に注意をはらいながら、同時に国家が暴力・敵意・差別を扇動する憎悪の主張を禁止する義務を負っていることを確認し、最も悪質な事例に対しては刑法が適用され得るという見解を示しています。

 政党に対する勧告として、候補者の行動と説明責任についての最低基準を示す行動規範の採択とその厳格な運用を促しており、また、候補者および政党が、ソーシャルメディアのインフルエンサーとの金銭的な関係について透明性を保つことを求めています。

 そして、ソーシャルメディアのプラットフォームを運営する企業に対しては、すべての選挙に対して一貫して公平に適用される基本的なグローバル基準の設定を推奨しています。「プラットフォームは、選挙前にコンテンツ管理とキュレーション[1]方針に関して、人権に配慮した精査と影響評価を強化すべきである。また、そのコンテンツキュレーション、モデレーション[2]、削除の方針は、国際人権基準と整合的でなければならない」と特別報告者は指摘します。

 特別報告者は、「偽情報との戦い」を名目に表現の自由を弱体化させることは、短絡的で逆効果であるとし、「表現の自由は、健全な民主的言論にとって不可欠である」と述べます。

 しかし、これは国家が有害な情報操作に対して一切の制限を課してはならないという意味ではないとも強調し、その制限は、合法的で、必要かつ比例原則に基づいており、正当な目的を持つものでなければならないといいます。

 「経験が示すように、人権に基づいた、多様なステークホルダーによる多面的な戦略が、偽情報やその他の情報操作と戦う上で最も効果的である」とし、こうした諸要因に緊急に対応しなければ、表現の自由と投票の権利の両方が深く損なわれることになると訴えています。


参照

国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)「デジタル時代における選挙のリスク(202574日)」https://www.ohchr.org/en/stories/2025/07/elections-risk-digital-age


[1] 情報の収集、分類、整理

[2] インターネット上におけるコミュニティ(SNSなど)やプラットフォーム上において投稿されるコンテンツを監視・管理し、不適切な内容を除去すること

(2025年07月17日 掲載)