小山 帥人(こやま おさひと)
ジャーナリスト
非常時になると、国は戦争を煽る。メディアも煽る。しかし、個々の兵士たちの苦難が語られることは少ない。
この映画は、第1次世界大戦でアメリカから欧州戦線に志願し、傷を負った兵士、ジョーの物語である。ジョー(ジョニー)は明るい青年で、恋人カリーンとは親も公認の仲だ。「民主主義を守るため、銃をとろう」という政府のキャンペーンに応じる形で戦場に向かう。恋仲のカリーンは行かないように懇願するが、ジョーは耳を貸さない。しかし、戦場はジョーの思っていたような場所ではなかった。塹壕にいたジョーは砲弾により重傷を負い、目、鼻、口を失い、四肢も病院で切断されてしまった。
戦前、治安維持法違反に問われ、逮捕された鶴彬の川柳に「手と足をもいだ丸太にしてかへし」という句があるが、ジョーはまさしくそんな姿になった。耳は聞こえないが、皮膚感覚と明暗の感覚が残り、頭と首を動かすことができる。
ジョーは寝たきりになりながらも、回想し、想像し、コミュニケーションを求める。現実はモノクロの世界だが、回想や空想はカラーで表現される。カリーンと一夜を過ごした甘美な思い出がジョーの支えだ。そして、釣り好きで、ジョーを愛してくれた父親の思い出も。
コミュニケーション不能のつらさ
ジョーが収容されている軍の病院は、ジョーを実験材料としか考えていない。看護師が窓を開けてくれることが、ジョーにとってどんなに嬉しいことか、でもそれを表現することができない。ある時、ジョーはモールス信号を使うことを思いつき、頭を振ることで信号を送る。看護師は何かの表現だと直感し、医師に伝えるが、医師は痙攣だとして、鎮痛剤の注射をする。
その後、モールス信号を理解する医師が来て、ジョーの言葉を通訳する。
「S・0・S、助けてください」
ジョーの望みは戸外に出ること、しかし、それは拒絶される。ジョーは外に出て、見せ物の対象となって各地を回ることを望む。それも却下され、後の願いは「殺してくれ」ということになる。
最後は、窓を閉められた暗闇の部屋で、ジョーがS・O・Sを発信し続けるシーンで終わり、字幕が現れる。
1914年からの戦死者 8,000万人超
行方不明および手足切断 1億5,000万人超
そして、ラテン語で"国のための死は甘美で名誉である"
アメリカ映画人の底力
この映画の脚本と監督はダルトン・トランボである。1951年、赤狩りで実刑判決を受け、ハリウッドを追放されたが、「ローマの休日」や「スパルタカス」などの脚本を別名で書いた人だ。彼をモデルにした映画「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」(2015年公開)は、ハリウッドの映画人の底力を見せる優れた作品だった。
トランボは、第2次大戦中に「ジョニーは戦場へ行った」の小説を書き、絶版にさせられたが、ベトナム戦争中の1971年にこの映画を作り、カンヌ映画祭で審査員特別賞を受賞した。半世紀を経て、この映画を再び映画館で見られることは素敵なことだ。
ジョンは恋人をふりきって戦場に向かう
©️ALEXIA TRUST COMPANY LTD.
<終戦80年企画「ジョニーは戦場へ行った」4K>
原作・脚本・監督:ダルトン・トランボ
1971年/ アメリカ/ 1時間52分
配給:KADOKAWA
8月1日より角川シネマ有楽町ほか全国公開
https://movies.kadokawa.co.jp/johnny-nobi4k/
(2025年07月23日 掲載)