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G20での「ビジネスと人権」:国連ビジネスと人権に関する作業部会からG20各国へ声明

 2019年6月28日・29日に開催されたG20大阪サミットの首脳宣言では、「我々は、ディーセント・ワークを推進し、持続可能なグローバル・サプライ・チェーンの促進を通じたものを含め、仕事の世界において、児童労働、強制労働、人身売買、及び現代の奴隷制を根絶するための行動をとるというコミットメントを再確認する」(パラグラフ21「労働及び雇用」、外務省仮訳)と、「ビジネスと人権」に関わる課題にも言及されました。これ以外にも、デジタル経済、インフラ投資、ジェンダーなどの分野で関連する記述が見られます。
 また、G20大阪サミットに際して市民社会組織C20から出された緊急声明、及び「C20政策提言書2019」でも、「ビジネスと人権」をめぐる課題の履行を求めています。
 一方、国連ビジネスと人権に関する作業部会は2019年5月31日、「ビジネスと人権に関し約束に基づいた行動とリーダーシップをG20各国に求める」と題する、G20各国に向けた声明を公表していました。ヒューライツ大阪は同作業部会の了承を得て、同声明を日本語に翻訳しました。
 声明は、世界のサプライチェーン上での人権を保護することが持続可能な発展と安定的な社会の前提条件であることを強調し、そのためにG20各国が、国連ビジネスと人権に関する指導原則の履行のためにリーダーシップをもって行動することを求めています。そしてこのことは、2017年のG20ハンブルクサミットで各国が約束したことであり、それをどのように実行するのかを明確に示すことを強く求めています。
 以下は、国連ビジネスと人権に関する作業部会の声明全文の日本語訳(仮訳)です(末尾にPDF版へのリンクあり)。

国連ビジネスと人権に関する作業部会からのステートメント*(仮訳)

ビジネスと人権に関し
約束に基づいた行動とリーダーシップをG20各国に求める

2019年6月28日から29日に行われるG20大阪サミット首脳会議及び閣僚会議の開催に先立ち、国連ビジネスと人権に関する作業部会は、G20各国に対し、自らの約束を果たし、国連「保護、尊重及び救済」枠組を実施するための国連ビジネスと人権に関する指導原則を完全に履行する行動とリーダーシップを示すことを求めます。

作業部会の任務は、すべての人びとの人権が保護され、尊重される持続可能なグローバル経済をいかにして構築するか、ということにあります。これは、今の時代を生きる私たちが抱える主要課題の一つであり、G20各国が、持続可能なグローバル・サプライチェーンを促進するとして、2017年以前から取り組んできているものです。グローバル・サプライチェーンは今日まで経済的な発展をもたらし、人びとの経済的権利と社会的権利の実現にも貢献してきました。しかし同時に、広範で深刻な人権侵害が、世界中のあらゆるセクターを網羅するグローバル・サプライチェーン上で行われてきました。世界各国の首脳は、今すぐに、そして継続して、この課題に注意を払わなければなりません。正しい行動が賢明な行動でもあると考える企業や投資家が増えつつあることにも目を向けるべきです。つまり、人びとを保護することは、持続可能な発展と安定的な社会の前提条件であり、ビジネスにとってもよいことなのです。

2017年のG20ハンブルクサミットでG20各国の首脳は、持続可能で包摂的なサプライチェーンの実現に向けて、国連ビジネスと人権に関する指導原則の履行を促進することを約束しました。私たちはこの約束を歓迎していました。その首脳宣言には、ビジネスと人権分野でリーダーシップを発揮するという約束が示されており、国別行動計画によってビジネスと人権に関する指導原則の履行を進め、グローバル・サプライチェーン上で人権侵害を受ける人びとの救済へのアクセスを確保するという意志に、私たちは勇気づけられていたのでした。しかしながら、こうした熱意は2018年の首脳宣言には見られませんでした。したがって私たちは、G20各国が2017年の約束をどのように果たしていくのかということに強い関心を持っています

私たちは、2017年のG20ハンブルクサミットに先立ち、G20各国が国連ビジネスと人権に関する指導原則の履行を強化していく際に取るべきステップに関する提言を行いました。この提言は今もなお有効です。加えて、2018年に作業部会が国連総会へ提出した、企業による「人権デュー・ディリジェンス」の現状についての報告書も参照していただきたいと思います。この報告書は、企業が、日々の事業運営やバリューチェーン上で発生する人への悪影響に対し、どのように特定、防止、軽減、及び是正すべきかを定めた国連ビジネスと人権に関する指導原則(及び2018年の責任ある企業行動に関するOECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス)の非常に重要な考え方を記しています。

この報告書では国家に対する提言も行っており、こうした指導原則の考え方を国家の行動に統合することをG20各国リーダーに求めています。つまり、国家が使用可能なあらゆる手段を用いて、企業による人権デュー・ディリジェンスをスタンダードなビジネス慣行として促進し、市場の失敗とガバナンス・ギャップに対処することを私たち作業部会は提言しています。その際、以下のように指導原則との整合性を確保する必要があります

(a)法規制により必須とすることも含めて、人権デュー・ディリジェンス実施へのインセンティブをつくり出すこと。その際、企業による効果的な履行を進め、レベル・プレイング・フィールド(公平な競争環境)を促進する要素を考慮に入れること。(b)経済主体としての企業の役割を踏まえて人権デュー・ディリジェンスを促進すること。例えば、国有企業及び貿易・投資を促進する機関(経済外交)の事業運営や公共調達の中に人権デュー・ディリジェンスの実施を組み入れるなど。(c)人権デュー・ディリジェンスを含む国連ビジネスと人権に関する指導原則を履行するにあたり、ジェンダー視点を組み込むこと。(d)ビジネスと人権に関する国別行動計画の策定やより効果的な実施などにより、政府内での政策の一貫性をより促進すること。(e)企業(中小企業を含む)に対して、現地の状況に合わせた人権デュー・ディリジェンスのガイダンスを提供すること。(f)救済へのアクセスを強化し、企業が責任を果たせるようにすること、またビジネスに起因する人権リスクに対処する対話を促進するためのマルチステークホルダーのプラットフォームの構築を進めること。(g)影響を受けるステークホルダーの懸念を企業が理解し、また人権デュー・ディリジェンスを実施する上でも、人権擁護者の役割が極めて重要であることを認識し、人権擁護者の合法かつ正当な活動が妨げられないようにすること。

もう一つの重要な点は、ビジネスを促進する政府の政策と、国際的な文脈での人権に関わる国家の義務との間の政策の一貫性を向上させることです。ここでも、国連ビジネスと人権に関する指導原則を、G20の主要議題となっている政策分野に適用し、統合すべきであることを強調します。例えば、持続可能な開発、インフラ整備、AI、「ギグエコノミー」、「仕事の未来」、グリーン・エコノミーへの移行、紛争時及び紛争後の対応、移住労働者の権利、女性のエンパワメントとジェンダー平等などです。

各国政府は、これらのグローバル・イシューに率先して取り組み、人びとに害が生じないように努めるべきです。そして、これらの問題に取り組んでいる市民社会組織との連携を強化するよう強く奨励します。その際、市民社会組織が構成するC20からの提言を、現在のものだけでなく過去に遡って考慮に入れ、また、国連ビジネスと人権に関する指導原則の履行にコミットしているビジネス関連の組織や企業との連携も強化するべきです。

最後に、上記を総括して私たち作業部会は、国連ビジネスと人権に関する指導原則へのコミットメントを改めて表明し、2017年の約束をどのように行動に移すのかを明確に示すことを、G20各国に対して強く求めます。また、その約束の効果的な履行とフォローアップも奨励します。例えば、履行状況を公表する定期的な報告書をG20各国が作成することなどです。加えて、2017年から2020年の間にG20議長国を務める各国政府には、2019年の国連ビジネスと人権フォーラム(11月25日-27日、ジュネーブ)にぜひ参加していただきたい。そこで、どのように約束が実行されているのかをお示ししたいと思います。2019年の国連ビジネスと人権フォーラムのテーマは、「今こそ実行の時:企業による人権尊重の触媒としての政府」であり、国家の保護義務の履行、企業の責任遂行の強化に向けた進捗・約束・計画を政府が説明する必要性に焦点が当てられています。

G20は、グローバル経済における人権の保護と尊重の効果的な実現に向けて、現存のギャップと問題への対処を議論できる特別な機会です。これは、安全で持続可能なグローバル・サプライチェーンと、すべての人の持続可能な未来のために必要なことです。私たち作業部会は、G20各国の首脳に対し、国連ビジネスと人権に関する指導原則と持続可能な開発目標(SDGs)とのつながりを認識し、この問題をG20の最重要テーマとして引き継ぐよう強く求めます。

注釈
*) 人権と多国籍企業及びその他の企業の問題に関する作業部会(いわゆるビジネスと人権に関する作業部会)は、ビジネスと人権に関する指導原則の世界的な普及と促進のために国連人権理事会によって設立されました(人権理事会決議 17/4、26/22、35/7)。この作業部会は、地理的な代表性に配慮した、独立した5名の専門家で構成されており、人権理事会の特別手続きとして知られています。この特別手続きの任務を託されているのは独立した人権の専門家であり、特定の国の状況あるいは特定のテーマ別の問題に対処するために人権理事会によって任命されています。この任命された専門家は、国連スタッフではなく、また、いかなる政府や組織からも独立しています。専門家としての各個人の立場で貢献しており、作業部会としての仕事に対する対価は受け取っていません。

<参照>

<参考>



(2019年07月07日 掲載)