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クウェート/フィリピン:フィリピンの移住労働者を保護せよ(ヒューマン・ライツ・ウォッチ、2018年2月21日)

クウェート/フィリピン:フィリピンの移住労働者を保護せよ(ヒューマン・ライツ・ウォッチ、2018221日付) 渡航禁止は虐待のリスクを高める
 
クウェートで相次ぐフィリピン人家事労働者の死亡や虐待訳注1
2018221日、ベイルート)ヒューマン・ライツ・ウォッチは221日、フィリピン政府によるフィリピン人の就労目的でのクウェート渡航への新たな禁止措置は、危険で非正規のルートであってもクウェートに向かおうとする労働者に対する虐待をさらに増幅させる危険性があると表明する。渡航を禁止するのではなく、クウェートとフィリピンはクウェートにおける移住家事労働者をより効果的に保護することのできる主要な改善策について合意すべきである。
 2018119日、フィリピン労働雇用省は、クウェートでの家事労働者7名の死亡に関する調査が行われている間は、フィリピン人が就労目的でクウェートに渡航することを一時的に禁止するとした。212日には、フィリピン政府はクウェートへの新規就労者の渡航を「全面的禁止」とした。
「フィリピン政府は、労働者の救済というよりむしろ危害をもたらしかねない渡航禁止措置をとるのではなく、彼らを保護するためにクウェート政府と協議するべきである」とヒューマン・ライツ・ウォッチの「中東女性の権利調査員」のロスナ・ベグム(Rothna Begum)は述べる。「クウェート政府は、虐待を行う雇用者のもとに労働者を閉じ込めるカファーラ(Kafala)制度を改めるための方法を即刻講じることによって、家事労働者の死亡や暴行、レイプなどへの悲痛な叫びと向き合うべきである」。
 
雇用者に縛り付けられるカファーラ(保証人)制度
 クウェートのカファーラ制度、すなわち保証人制度は、移住家事労働者の在留資格(ビザ)を彼らの雇用者と結びつけ、雇用者の同意のない労働者の退職や転職を禁じている。
 フィリピン政府によるこれまでの渡航禁止や他の送り出し国による同様の禁止措置は、クウェートや他の中東諸国における虐待解決にほとんど役立たなかった。就労を必死で求める人々は、危険かつ非正規のルートを通ってでもなお渡航している。こういった渡航は、彼らを虐待や人身売買の危険にさらしたままにしており、虐待の解決をより困難にしているのである。
 フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は、クウェートと他の中東諸国の雇用者に対し、フィリピン人を人として扱うよう求めてきた。クウェート当局は、フィリピン政府に対し、移住労働者の死亡に関する調査結果を提供していると主張しているものの、虐待をあたかも促進するような法律や政策を是正するための真剣な方法を未だに講じていないとヒューマン・ライツ・ウォッチはみている。
 クウェートの人口は400万人であるが、66万人以上の家事労働者を抱えている。フィリピン政府の推計によれば、25万人以上のフィリピン人がクウェートに滞在しており、大半が家事労働者である。多くが家族を養ったり、教育を受けさせたり、住居を維持するために給与を本国に送金している。
 ヒューマン・ライツ・ウォッチは、クウェートおよび他の中東諸国における移住家事労働者に対する虐待について幅広く情報を集めてきた。雇用者は家事労働者のパスポートを取り上げ、休憩や週休も与えずに過度に長時間働かせ、雇用者の家庭に閉じ込め、暴言を浴びせている。また、労働者に対して身体的または性的暴力を行っているケースもある。クウェートでは、家事労働者の自殺や死亡が毎年報告されている。
 
実効性に乏しい家事労働者の権利保護の法律
 2015年、クウェートは家事労働者に関する法律を可決した。この法律は、週休、休憩を含む一日12時間の労働時間、年次有給休暇、超過勤務手当を得る権利を含んでおり、労働者の保護を初めて整備している。2016年、クウェートは湾岸諸国の中で初めて、家事労働者の最低月給を60クウェートディナール(200USドル)とすることを法制化した。しかしながら、この法律はクウェートの主要な労働法と比較すると弱く、ILO家事労働者条約に則していない。例えばこの法律は、プライバシーを十分に考慮して実施される家屋内への立ち入り調査について規定していないのである。
 クウェートのカファーラ制度のもとでは、雇用者のもとを逃げ出した労働者は「逃亡」のかどで逮捕されて罰金を科され、最大6ヶ月間収監された後、本国に強制送還され、少なくとも6年間、クウェートに戻ることを禁じられる。
 カファーラ制度は、虐待を行う雇用者のもとに労働者が留まるよう強制し、逃げようとする者を罰する。法的救済を求める労働者は、最初の雇用者の許可がなければ新たな雇用者のもとで働くことができないため、しばしば収入のない状態で法的措置をとらなければならない。多くの労働者が、正義を得ることのできないままクウェートを離れている。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは以前にも、家事労働者と雇用者/保証人の間の紛争を仲裁する家事労働者部署が、雇用者に出頭を義務付ける権限を有していないと報告してきた。2015年家事労働者法が人材斡旋業者を罰する権限を家事労働者部署に与えたが、それは雇用者を罰するものではないことから、雇用者が喚問に応じなかった。
 ヒューマン・ライツ・ウォッチはまた、警察が家事労働者に対して矛盾の多い対応をしていると報告してきた。家事労働者に即座に支援を提供する警察官がいる一方で、労働者を勾留して雇用者に連絡するか、もしくは申立てを受け付けない警察官もいるのだ。
 
家事者労働者保護のための二国間協定の締結を
 フィリピン政府による渡航禁止令への対応策として、クウェート内閣は213日に、国営の人材斡旋業者であるAl Durra人材斡旋会社に、インドネシア、ベトナム、バングラデシュ、ネパールからの労働者募集を委任した。
 「クウェート政府は、フィリピン以外の国から労働者を募集しようとする前に、カファーラ制度のような、家事労働者に対する虐待の根源に立ち向かうべきである」とヒューマン・ライツ・ウォッチの調査員であるベグムは述べる。「インドネシア、バングラデシュ、ネパールといった他国からの家事労働者は、クウェートでフィリピンの家事労働者と同様の問題に直面しているのである」。
 フィリピン政府は、中東における自国の家事労働者を保護する先導者となってきた。フィリピン大使館は、雇用者が最低月給400USドルを支払うこと、および斡旋業者が虐待を受けた労働者の帰国のための航空券代金を支払うといった要件を盛り込んだ契約となっているかどうかを確認している。しかし、これらの手続きは、正規ルートを通じてクウェートに入国する移住労働者を対象としたものである。
 フィリピンとクウェートは、フィリピン人家事労働者を保護するための二国間労働協定案に未だに署名していない。ドゥテルテ大統領はクウェート訪問を検討しているところである。
 「二国間協定には多くの制約がある一方で、合意に基づいて相互に実施可能な、真に保護を提供する雇用契約や効果的な申立制度、調査手続きを含んでいるならば、協定は有益である」とベグムは述べる。
 フィリピンとクウェートは、以下の内容を含む二国間協定に合意すべきである。標準契約、および困難に陥った労働者の救援、労働者の虐待や死について調査するための制度、逮捕されたフィリピン国民の情報をフィリピン政府に通知すること、家事労働者の就労と在留許可を申請するすべての雇用者はフィリピン大使館の許可を受けること(大使館の許可を得た後に、労働者を登録し保護を提供することができる)など。さらに、フィリピン政府は、労働者の帰国後に、大使館職員が代理人として、雇用者や斡旋業者に対する刑事または民事訴訟を継続することができるための合意も要請すべきである。
 フィリピン政府は、家事労働者の当事者や国内のNGO、労働組合と協定案に関して共有し、協議することを通じて、協定がどのように実施されているかの報告の公表を伴う監視制度が協定案に含まれるようにしなければならない。
 フィリピン大使館は、家事労働者を入国時に登録するよう雇用者に要請し、定期的に、かつ帰国前に労働状況について労働者から話を聞き、調査すべきである。
 フィリピン政府はまた、フィリピンの人材派遣業者が労働者を騙すか、もしくは彼女らの採用にかかるコストや手数料を請求することのないよう訳注2、業者の監督や効果的な監視を強化し、帰国する労働者が業者に対する苦情を申し立てるための迅速な手続きを確保するべきである。多くの労働者が、現在の申立手続きは長すぎると感じており、手続きを止めて、新たな仕事を見つけるためにフィリピンを出国すると述べている。
 「クウェートとフィリピンの双方が、家事労働者の保護を強化し、脆弱な労働者を極端な虐待にさらし続けるという問題点を解決するために共に取り組む機会を有している」とベグムは述べる。
 
(翻訳:稻田亜梨沙・ヒューライツ大阪インターン)
 
<出典>
https://www.hrw.org/news/2018/02/21/kuwait/philippines-protect-filipino-migrant-workers
Human Rights Watch, “Kuwait/Philippines: Protect Filipino Migrant Workers Migration Ban Increases Abuse Risk”, February 21, 2018
 
訳注1本文は2月21日付のHuman Rights Watchの標題のニュースを全文翻訳したものであるが、各小見出しは翻訳者が作成したもの。
訳注2フィリピンでは、ほとんどの職種の移住労働者が最大で月給に相当する手数料を斡旋業者から請求されるが、家事労働者と船乗りに対する手数料請求は違法であると法律で定められている。しかし、斡旋業者は法律を守らず、労働者を搾取している。
 
<参照サイト>
https://www.hrw.org/ja/news/2010/10/06/240771
ヒューマン・ライツ・ウォッチ「クウェート:救済の道閉ざされた家事労働者たち 虐待のはてに虐待や人権侵害からの保護 不十分」(2010106)
http://www.arskiu.net/book/pdf/1456379429.pdf
岸脇誠「フィリピンから湾岸協力会議諸国への国際労働移動-サウジアラビアの事例を中心に-」神戸国際大学学術研究会『神戸国際大学経済経営論集』 35(2)(2015)25-56

(2018年02月23日 掲載)