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国連人権理事会が任命した特別報告者の見解と日本政府の姿勢

 国連人権理事会第35会期が、2017年6月6日から23日までジュネーブで開かれています。6月12日に、言論と表現の自由に関する特別報告者デビッド・ケイ氏が、理事会に提出した日本公式訪問報告書(A/HRC/35/22/Add.1)に関して発言をしました。日本政府に対し報道の独立を確保するため放送法の見直しを求め、特定秘密保護法や教科書検定などについても懸念を表明しました。日本政府代表はこれに対して、「わが国の説明や立場に正確な理解のないまま記述されている点があることは遺憾だ」と反論しました。
それに先立って、すでに報告書の内容を伝えられていた政府は、5月30日の閣議決定で、「特別報告者の見解は、当該個人としての資格で述べられるものであり、国際連合またはその機関である人権理事会としての見解ではないと認識している」としました。同様の政府見解は、プライバシーに関する特別報告者ジョゼフ・カナタチ氏が、組織犯罪処罰法案に含まれる「共謀罪」について懸念を表明した公開書簡を日本政府に送った際にも示されました。
日本国内での論調では、二人の特別報告者の報告書や書簡を反日的、虚偽に満ちたもの、日本の事情に関する無知などと断ずるものがありました。しかしそのような独断的な主張は却って問題の深刻さを印象づけることになるでしょう。
 
特別報告者は国連人権理事会が任命した独立した専門家であり、特定の役割を与えられています。報告書を人権理事会に提出して一私人としての意見を表明したり、一私人として日本政府に書簡を送ったりしているわけではありません。与えられた権限で公的活動をしているのです。確かに特別報告者の意見、見解は直ちに国連人権理事会の公式見解ということはできません。それは決議という形で表明されることになります。その意味では、特別報告者の報告書や書簡にある見解は、人権理事会の立場を代表しているとはいえません。しかしながら、特別報告者の見解にはそれなりの権威があり、重みがあります。日本政府は適切な対応をすることが必要です。
 
人権理事会の公式見解は決議によって表明されます。決議は多数決で採択されます。表決なしの決議採択というのが一番良いのですが、激しい対立がある事案については表決を避けることはできないでしょう。6月16日の時点では、「言論と表現の自由」に関する決議は採決されていません。
 
特別報告者の報告書と政府の反論を対置させることで、各国政府やNGOなどはどちらに理があるかを判断することにもなります。いま懸案とされている件では、日本政府が人権に関してどのような見解を持っているかを国際社会に知らせることに大いに役立つでしょう。特別報告者の見解はNGOの国際的なキャンペーンにも使われるかもしれません。
 
特別報告者の報告書に対する人権理事会の評価は、通常、決議での中でなされます。特別報告者の活動、仕事を「appreciate」すなわち「良い仕事でした、感謝します」、そして「endorse」ということばを使って特別報告者の報告書の内容、結論に賛同し、これを「支持する」ということがあります。それほどではない場合は「take note」ということで賛成も反対もしない、「留意する」という程度の受け止め方をします。時として、報告書については何も言わない決議もあります。懸案の報告書に対して人権理事会はどう評価するのでしょうか。決議が待たれます。
 
自分の国が否定的に取り上げられる決議で、反論しない政府はまずありません。口を極めて決議を批判して、「偏見と悪意に満ちた、政治的な裏取引で作られた決議案は事実を反映してはいない、こんな決議が採択されても我が国にはなんの意味も持たずこれに従うつもりはない」などと言い募ります。それでも決議は決議。人権理事会は人権に関する国連の第一、最も重要な機関ということで、そこで採択される決議は、事務総長も無視はできませんし、時には人権理事会の上部機関の国連総会でさらに議論され、決議されることにも繋がります。対象となる国はそれなりの国際的注目を浴びることになるでしょう。
 
人権理事会の決議も、特別報告者の勧告も国に対して法的拘束力を持つものではないといわれます。理論的には確かにそのとおりです。国際社会では、「法的義務」がどれほどの現実的な力を持つか、国内司法、法執行と同じとは言えないことは明らかです。そこで、国際社会の一員として国が守るべき規範、規準が多くの場合、強制力や執行手段を持たないものとして設定されてきました。これを受けて当事国が、国連の機関が強く求めることを「法的義務はない」と無視すれば、やがて国際社会で孤立することになりかねません。
(白石理・ヒューライツ大阪会長)

(2017年06月21日 掲載)