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ジュネーブから-第5回国連「ビジネスと人権フォーラム」(11月14日−16日)に参加して

2500名が集う最大級のフォーラム

第5回国連「ビジネスと人権フォーラム」が、2016年11月14日から16日までの3日間、スイスの国連ジュネーブ事務所があるパレデナシオンで開かれました。今回は、国連人権理事会でビジネスと人権に関する指導原則が全会一致で支持されてから5年ということでもあり、指導原則を履行するためにこれまで以上の指導性と力を発揮するよう各国政府と企業に対して期待がかかっていました。前回第4回フォーラムでは100カ国から2000人以上の参加がありましたが、今回のフォーラムには約2500人が集まったといいます。「ビジネスと人権」関連の会議では世界最大の集まりであることに変わりはありません。NGOなどの市民社会組織(CSO)、人権侵害被害関係者、労働団体関係者、先住民代表、その他のステークホルダー代表は、合わせて全参加者の30パーセントということでしたが、今回は昨年とちがい、企業関係の参加者の数がこれまでになく多く、25パーセントということでした。

第5回フォーラムが目指したもの

「ビジネスと人権フォーラム」の目的は、その開催を決めた人権理事会決議17/4(2011年)で、「ビジネスと人権に関する指導原則の履行がどのように進んでいるか、そしてそこにはどのような難しさや課題があるかを話し合うこと」とされました。またフォーラムでは、多様な立場の参加者に対等の立場で対話し協調することを求めました。国連の会議はふつう、政府代表がメンバーとして主要な役割を果たし、その他の参加者はオブザーバーとしての参加しか認められないのですが、このフォーラムは、マルチ・ステークホルダー・イベントいう画期的な形をとっているために、すべての参加者が優劣なく平等の資格を持つものでした。

フォーラムでは、全体会議がフォーラムの始め,中間そして終わりと、3回持たれました。始めの全体会議は、「持続可能な開発目標(SDGs)に対する民間部門の貢献に人権を組み込む」というテーマでした。中間の全体会議は、「グローバル経済を動かすルールや関係性に人権を組み込む:リーダーシップの視点」、そして終わりの全体会議は、「まとめと2017年とその先」というテーマで、それぞれ立場の異なる発言者が意見を述べ、会場からの質問や意見表明がありました。個別会合の数は3日間で64と、昨年よりさらに多くなりました。そこでは様々な課題が取り上げられましたが、今回のフォーラムでは特に次の4つの課題の議論を深めることを目指していました。

  •  「指導原則」履行に関して国が模範を示して指導力を発揮する。
  • バリューチェーン(金融機関を含む)に関わる企業と企業経営体制(幹部会、法務部門、企業の持続可能性担当、情報部門など)すべてでリーダーシップと影響力を行使する。
  • 企業がグローバル目標達成に相応の役割を果たすことができるように、人権尊重のためによりよい行動と責任の果たし方を探る。
  • 人権侵害被害者による救済へのアクセスをよりよくするために取組みを強化する。

興味ある議論

フォーラムの規模,開かれた会合の多さ等から、すべてをカバーすることはできませんでしたが、ここではいくつかの論点に注目したいと思います。

投融資機関

まず、今回のフォーラムでは、金融機関や投融資機関がビジネスと人権に関する指導原則を履行しようとする流れを議論する会合がいくつかありました。これまでにない関心がこの領域に出てきていると感じました。投資の際に基準とされるESGファクターのほかにサプライチェーンをよりよくチェックするための新たな基準の模索がされているという報告がありました。また人権侵害のリスクが高いプロジェクトへの融資の問題も取り上げられ、どのような基準で融資の見直しをすべきかなどが議論されました。

メガ・スポーツ・イベント

メガ・スポーツ・イベントにまつわる調達、イベント実施に関する会合では、国際サッカー連盟(FIFA)や2012年、2016年のオリンピック・パラリンピック開催などの前例での問題点や、人権デューディリジェンス実施の教訓が語られました。さらに、スポーツ・イベントの主役である参加スポーツ選手の人権保護課題にも言及がありました。2020年の東京のオリンピック・パラリンピック開催のために教訓を生かしていくことが大切との指摘もありました。

開発プロジェクト

政府と多国籍企業が関わる開発プロジェクトにおける人権侵害事例が報告され、特に先住民や労働者の権利が著しくそこなわれており、救済がなされていないことから、制度不備や運用の問題が指摘されました。また、殺人などの深刻な事例では、犯罪の捜査が十分行われることなく、犯人が追及されず処罰もないなどの指摘もなされました。さらに投資対象国政府と投資をする企業や投融資機関との間の投資協定の抱える問題も議論されました。

サプライチェーンでの労働

サプライチェーンにおける人権侵害事例、開発途上国での生活賃金、労働環境の改善のための取り組みについての会合では、バングラデシュの縫製工場のビル倒壊により多数の犠牲者が出た事例をはじめとして、様々な人権侵害に対する多国籍企業の対処やリスクに対する取り組みが紹介されました。イギリスの現代奴隷制法の施行が始まってからの企業の課題も紹介されました。いずれにしても、労働条件や労働環境の改善はまだ道半ばであるという印象を受けました。直接投資をした企業が人権問題を理由に撤退するという決断をすべきかどうかの基準についての議論もありました。

国別行動計画(NAP)

国別行動計画(NAP)の推進に関する会合では、NAPをすでに策定している国が次第に増えてきていること、NAPの必要性はすでに疑いの余地がないことを前提とした議論となりました。日本政府代表は、政府関係省庁間での議論を始めているなどNAP策定に向けての準備を説明し、「今後数年のうち(in the coming years)に国別行動計画(NAP)を策定することを計画している」と言明するとともに、NAP作成にあたっては企業や市民社会(civil society)との対話を重視しているとしました。

ラギー教授の演説

ビジネスと人権に関する指導原則がここまで育ってきた最大の功労者、ジョン・ラギー教授の始めの全体会議での演説に注目が集まりました。彼はグローバル化をすべての人にとって望ましいものとするために、持続可能な開発目標(SDGs)とビジネスと人権に関する指導原則の相関関係を指摘し、人のための持続可能な開発の中心に人権尊重を実現する努力を集中しなければならないと述べました。ラギー教授は、企業が自らに深く関係するSGDsの一部分だけを選択するアプローチでは指導原則の人権尊重責任は果たせないとして、企業がそのバリューチェーンを通した事業活動全体において人権尊重責任を果せば、人々の間に計り知れない良い影響を生むことになり、それが持続可能な開発の恩恵にも繋がることになると断言しました。ラギー教授によれば,ビジネスと人権に関する指導原則の新たなアプローチ、改革を目指した最も重要な貢献の一つは、企業が行使できる(影響)力という考えの導入でした。サプライヤーやその他の取引関係で人権尊重を求めるために影響力があればそれを使うべきであり、それは何よりも、人権を尊重されるべき人々のためであるということです。

被害者救済

最後の全体会議では、ホンデュラスの水力発電ダム建設プロジェクトで先住民の権利を擁護する活動にかかわった母親とその同僚が殺害された、ローラ・カセレスという女性が話しました。そこでは国と関係企業の闇の関係が糾弾されました。人権高等弁務官は、中間の全体会議で、多くの人権活動家、人権の尊重を求める労働者,先住民、その他の社会で弱い立場におかれている人びとが、いやがらせ、脅迫,拉致、逮捕、拘束、拷問、殺人などの犠牲になっている現実に目を向けるべきだとし、各国政府と企業の救済のための指導力と取組みを促しました。2017年のフォーラムでは、特に人権侵害の犠牲者に対する救済についての課題を取り上げるということでした。


フォーラムでの議論の全体を通してみると、政府、企業、市民社会組織(CSO)、その他諸々のステークホルダーの「ビジネスと人権に関する指導原則」についての普及度、理解度は高まっている部分と大変遅れている部分とが混在しているという印象を持ちました。ビジネスと人権に関する指導原則の履行を真剣に捉えている政府や企業は、国内法整備、政策や企業方針で先進的な取り組みをしています。

昨年のフォーラムで、人権侵害の実態が具体的に報告され、ビジネスと人権に関して高い評価を受けている企業にも問題が全くないというわけではないこと、さらに、いまだに全く変化が見られない劣悪な労働環境、環境破壊からくる被害、先住民の伝統的権利の侵害など深刻な問題が語られましたが、この課題は今回のフォーラムでも浮き彫りになりました。

「ビジネスと人権フォーラム」は、この分野における各国政府及び世界の企業の取り組みの現状を理解するためには絶好の機会です。今回は、日本から企業、市民社会組織(CSO)、コンサルタントグループ、法曹界など約30人の参加がありました。ビジネスと人権に関する国際社会の現状と動きの方向性を肌で感じ取られたことと思います。

(白石 理)

(参照)
第5回国連「ビジネスと人権フォーラム」のウェブページ
http://www.ohchr.org/EN/Issues/Business/Forum/Pages/2016ForumBHR.aspx

 


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