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東南アジアの市民社会における人権の取り組みのいま(16年10月)

 「東南アジア人権研究ネットワーク」(SEAHRN)が2016年10月10日から12日にかけてタイのバンコクで開催した「東南アジアにおける人権・平和・紛争に関する第4回国際会議」にヒューライツ大阪のジェファーソン・プランティリヤと阿久澤麻理子が参加しました。
東南アジア諸国連合(ASEAN)には大学のネットワークがあるものの、東ティモールなどASEANのメンバーではない国々、また研究者や研究機関ばかりでなく、人権団体・活動家も参加するネットワークの創設をめざし、2009年にSEAHRNが結成されました。この会議は2010年から2年おきにSEAHRNによって開催されてきたものです。そのほか、同団体では、ジャーナルの発行、ASEANの高等教育機関で共通に使うことができる教科書を作成するなどの取り組みを展開しています。
今年の会議のテーマは「失われたものを取り戻す」(reclaiming lost ground)というもので、やや驚かされたものの、この間のアジアの、そして世界的な「人権の後退」に対する共通の憂慮を共有しました。この会議が始まった頃に楽観していた人権状況が、世界的に、そしてリジョナル(国際地域)にも後退しているのではないか、という共通認識が背景にあります。
会議の冒頭ではタイのチュラロンコン大学のビティット・ムンタボーン教授(元ヒューライツ大阪・国際諮問委員)が講演しました。人権は国家の関心事となり、制度化された一方で、ASEANレベルでは、人権保障(protection)は法的拘束力のある取り組みがなく、基本的には人権教育(promotion)というソフトアプローチにとどまっていること、また「民主的手続き=選挙によって選ばれた政府が、超法規的処刑を行ったり、必ずしも人権を保障する存在ではない」という状況をプレカリアス・デモクラシー(不安定な民主主義)と提起しました。
人権と様々な領域との関係-民主主義、学問の自由、宗教、安全保障、ジェンダー、マイノリティ、移住者、難民、環境、CSR、サイバースペースなど、様々なパラレル・セッション(並行会議)が開催されました。私にとっては、サイバースペースと人権をめぐる議論が、印象に残りました。人権は「国家市民社会」の古典的なモデルの中だけで語りつくすのは難しく、国家の代わりに「サービスプロバイダー」が登場して人々に必要なものを提供するようになっています。「選挙」より「サービスを買う」ことで、表現の自由を実現するかのような社会では、「人権基準」や「社会契約」より「商契約」のほうが大事にされるという指摘には考えさせられました。
最終日は、フィリピン最高裁判事のマービック・レオネン氏の「東南アジアの人権と平和」と題する講演によって、締めくくられました。
 
(阿久澤麻理子・ヒューライツ大阪所長代理)

(2016年10月21日 掲載)