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人権条約機関制度の改革案の公表

 国連の主要な人権条約には、条約機関(委員会)が設置され、それぞれ締約国による条約の実施をモニターするため、締約国からの定期報告を審査し、締約国の実施の促進に向けた勧告を含む総括所見を発します。また、個人通報制度に基づく通報に対して条約に照らした見解を採択、あるいは条約の実施に関して指針となる一般的意見や勧告を出しています。現在このような条約機関は9つ(拷問禁止小委員会を除く)つくられています。条約の数が増え、委員会の数も増える一方、各条約の締約国も大幅に増えています。そのため、各条約に基づく締約国の報告の審議が滞ったり、あるいは締約国で期限内に報告を提出することができないなどの問題が生じています。また、条約機関の運営のために必要な事務局機能の拡大や締約国内での条約の実施の促進なども課題となっています。国連人権高等弁務官は6月22日、そのような課題を克服し、条約機関がその任務を十分に果たすための提言を含む報告を公表しました。

これまでの改革案

 条約機関の強化・改革については1990年代から既に議論されており、1997年、国連事務総長が任命したオルストン独立専門家による報告が人権委員会(当時)に提出されています(E/CN.4/1997/74)。その報告でも既に、報告の審議の滞り、そのため生じる報告の提出から審議までの期間の長さ、締約国の報告の遅れなどの問題が指摘されており、それに対して、電子データベースの活用、締約国に対する報告作成に関する技術協力などのほか、各条約機関に提出する報告の一本化、条約機関自体の一本化などの案などの検討が提言されていました。
 さらには2006年には、アルブール人権高等弁務官(当時)による、条約機関の一本化に関するコンセプト・ペーパーが公表されています(HRI/MC/2006/2)。この案では、報告や審議の遅れなどに加え、条約機関が包括的、統合的な枠組みとして機能することで条約制度の可視化につながり、より影響力を持つことができるとして、条約ごと、テーマごと、あるいは報告審議、フォローアップなどの機能ごとの小委員会に分かれた一本化された条約機関が提案されています。一方、条約機関を一本化するにあたって、子ども、女性や移住労働者など特定の権利の保持者の保護の弱体化、あるいはそのような権利保持者や特定の権利の保護のために活動する人びとの条約機関への関心の低下、現行の委員会のもつ専門性の喪失などが懸念されるほか、条約によって締約国が異なること、一本化には人権条約の改正が必要なことなどの課題があることもあげられています。
 一方、条約機関の代表による、委員長会議が1988年から開催され、条約機関間の連携や調整などが検討され、ある国が批准した人権条約の機関すべてに共通する基本的な事項をまとめたコア文書や報告作成のガイドラインの調整などが提案されています。また、報告審議の滞りを改善するために、委員会を二つの小委員会に分けて、1会期中に同時並行で報告を審査する方法や、報告作成の負担を軽減するために報告作成前に委員会の関心のある事項について締約国に通知し、その点について報告提出を要請する簡略化した報告制度など既に導入されている措置もあります。

2012年人権高等弁務官報告

 6月に公表された報告は、人権条約の批准が増え、2000年から2012年まで選択議定書を含む各人権諸条約の批准が59%増加したとしています。締約国の増加による報告の増加により、会期期間も増加し、それでも追いつかず、追加の会期の要請が総会に提出されるようになっていることもあげられています。一方、批准しても報告を提出しない国もあり、2010年および2011年が期限の報告の16%しか提出されていないこと、また、社会権規約、自由権規約および拷問等禁止条約では、20%の締約国が一度も報告を提出していないことが報告されています。
 今回の案は、自国が批准している条約、および人権理事会の普遍的定期的審査(UPR)の報告提出期間を調整して5年間で一巡するよう提出する、「包括的報告カレンダー」制度を提言しています。それによって、締約国が計画的に報告を作成することができ、期限が重複するなどの負担が軽減できるとしています。また、国家に条約に基づく報告作成する、または調整する常設の機関や機構を設置することも提案されています。それらを通して各条約の報告作成を制度化し、国内での協議や制作の評価、見直しなどを含む合理的ペースで実施を行い、条約の作成が負担ではなく、国内的な議論の機会とすることができると述べています。
 そのほかにも現在導入されている報告の簡略化、報告などの文書の分量制限、文書の翻訳の省略などを提案しています。また、国内人権機関やNGOなど市民社会組織との会合を公式日程内にもつことやビデオ会議やウェブキャストによるアクセスや可視化の強化などの強化案も出されています。
(8月7日)

出所:
“Strengthening the United Nations human rights treaty body system” 国連人権高等弁務官報告、2012年6月 http://www2.ohchr.org/english/bodies/HRTD/docs/HCReportTBStrengthening.pdf
 
“UN human rights treaty body system in urgent need of help, says new report” 6月22日付 UN News Centre http://www.un.org/apps/news/story.asp?NewsID=42306&Cr=Human%20Rights&Cr1=
 
“Member States urged to consider proposals to strengthen UN treaty body system”7月16日付 UN News Centre http://www.un.org/apps/news/story.asp?NewsID=42483&Cr=treaty&Cr1=human+rights&Kw1=treaty+body+system&Kw2=&Kw3=

(2012年08月10日 掲載)