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国際人権ひろば No.160(2021年11月発行号)

人として♥人とともに

SDGsを人権の視点で読み解く ~目標14:海の豊かさを守ろう~

三輪 敦子(みわ あつこ)
ヒューライツ大阪所長

 海は私たちの生命の源であり、海洋の豊かな生態系と漁業資源が私たちの生活を支えてきました。その海の豊かさや生態系の持続可能性を脅かす事態が発生していることが目標14の背景にはあります。
 目標14には、以下の7つの具体的なターゲットがあります。


  1. 2025年までに、海洋ゴミや富栄養化を含むあらゆる種類の海洋汚染を防止し、大幅に削減する。
  2. 2020年までに、強靱性の強化などによる持続的な管理と保護をおこない、健全で生産的な海洋及び沿岸の生態系の回復のための取り組みをおこなう。
  3. 科学的協力の促進などを通じて、海洋酸性化の影響を最小限化する。
  4. 2020年までに、水産資源の漁獲を効果的に規制し、過剰漁業、違法・無報告・無規制漁業等を終了し、科学的な管理計画を実施する。
  5. 2020年までに、国内法及び国際法に則り、少なくとも沿岸域及び海域の10パーセントを保護・保全する。
  6. 開発途上国及び後発開発途上国に対する適切で特別かつ異なる待遇が世界貿易機関(WTO)漁業補助金交渉の不可分の要素であることを認識しつつ、2020年までに過剰漁獲能力や過剰漁獲につながる補助金を禁止し、違法・無報告・無規制漁業につながる補助金を撤廃する。
  7. 2030年までに、小島嶼開発途上国及び後発開発途上国の海洋資源の持続的利用による経済的便益を増大させる。

 目標14の課題の重要な要因としては、過剰漁業への対応を始めとする海洋資源管理に加え、地球温暖化や海にあふれるプラスチックごみ(プラごみ)の問題があります。2020年7月に導入されたレジ袋の有料化、プラスチックのストローを紙材に変える動き等により、日本でもプラごみに対する関心が高まっていますが、私たちの生活は今でもプラスチック素材に大きく依存しています。「人口一人あたりのプラスチック容器包装の廃棄量」に関する国連環境計画(UNEP)の報告(2018年)によれば、アメリカに次いで日本は2位です。
 環境への負荷を少なくするためにリサイクルも導入されてきましたが、日本は2016年には年間150万トンのプラごみを中国等の他国に輸出し処理を頼っていました。ごみを他国に輸出すること、そうやって成り立つ生活には違和感を感じるばかりですが、環境や健康への悪影響を踏まえ、2018年に中国が廃プラスチックの輸入停止を決定したために、行き場を失ったプラごみが日本国内にあふれることになりました。輸出量は減ったものの、現在でも、マレーシア、台湾、ベトナム、タイなどにプラごみを輸出しています。国内での適切な処理・リサイクルの推進が必要ですし、同時に脱プラスチックを加速する必要があります。
 適切な処理やリサイクルがおこなわれなかったプラごみや、スクラブ剤等に含まれる0.1ミリ以下のマイクロビーズは、微細なマイクロプラスチックとなって世界の海洋を漂っています。マイクロプラスチックにPCBなどの有害化学物質が吸着し、食物連鎖のなかで魚、そして人間の身体に取り込まれることが懸念されています。2050年には世界の海に生息する魚の全重量よりも海洋中のマイクロプラスチックの全重量の方が重くなるだろうとの予測もあります。東京農工大が実施した調査では、東京湾で捕獲されたカタクチイワシの8割からマイクロプラスチックが検出されました。私たちが捨てたレジ袋やペットボトルは、こうやって私たちのところに戻ってきます。
 プラごみ問題からは、目標14が目標12「つくる責任つかう責任」と深く関係していることが理解いただけると思います。また、地球温暖化と平均気温の上昇がもたらす海面の上昇が、太平洋の小島嶼国の存亡を脅かしていることを考えると、目標13「気候変動に具体的な対策を」にも密接に関係しています。生計という観点からは、海面上昇は小島嶼国のみならず世界の漁業そして貿易に携わっている人たちに深刻な影響を与えます。現在、世界の貿易量の80%は海運が担っていますが、海面が上昇すれば、現在の港湾インフラの多くは使用が不可能になると見込まれています。
 国連の「SDGsレポート2021」によれば、世界の30億人を超える人の暮らしが海によって支えられていますが、海洋環境の変化の影響は、それをはるかに超える人たちに及ぶでしょう。海に囲まれた島国である日本への影響も甚大です。資源循環型で環境に負荷をかけない産業と暮らし方が求められます。私たちの環境と暮らし全般が海の恵みあってこそだと理解し、太平洋の小島嶼国の未来を保障し、海に支えられてきた人たちの生活を守るために、海の豊かさを取り戻すことが重要です。