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国際人権ひろば No.151(2020年05月発行号)

移住者の人権

「三くだり半」よりひどい現在の協議離婚制度~国際結婚における無断離婚をめぐる課題~

吉嶋 かおり(よしじま かおり)
公益財団法人とよなか国際交流協会 外国人のための多言語相談サービス相談員、臨床心理士

 知らないうちに離婚が成立していた。そして子どもの親権者ではなくなっていた-これは日本で実際に起こっており、子どもも巻き込んだ深刻な問題が生じている。これは、離婚届を提出するだけで離婚が成立する協議離婚制度によって引き起こされている。

 協議離婚は、夫婦の合意に基づき、離婚届を役所に提出するだけで離婚が成立する簡便な方法であるため、全離婚件数の90%近くを占める。しかし、これは日本だけの非常に特異な制度である。この特異さのために、さらに、法制度自体がもつ問題も加わって、特に外国人配偶者と子どもに悲劇が起きている。

勝手に離婚届を出され離婚が成立する

 協議離婚制度はどのような問題があるのだろうか。第一は、当事者の一方のみが提出するだけで離婚届が受理され、離婚が成立してしまうという点である。提出は当事者でなくてもよい。つまり、離婚届の記載が本人によるものなのか、当事者双方の合意があるのかという、離婚成立の最も重要な点について、確認が必要とされないのである。

 外国人配偶者が、日本人配偶者に求められるままに、よくわからない書類にサインしてしまっていたというケースでは、日本人配偶者が、「賃貸住宅の契約書だ」「学校の書類だ」などの嘘を言ってサインをさせていた。暴力を振るわれたり、脅されて、離婚届だとわかっていたが署名させられたというのもある。この場合でも、親権者が離婚届で決まることを知らされていなかったり、騙されていたりしている。日本人配偶者が、外国人配偶者の署名を偽造しているケースは非常に多い。離婚の書類だとわかっていたが、それを提出するだけで成立するとは思いもよらず、親権などの離婚条件の合意なく成立していたというケース。これは、他国では、協議離婚であっても本人確認、意思確認があるため、このように離婚が成立するとは思いもしなかったという、日本の法制度の特異性によって起こっていた。

 無断離婚は、在住外国人相談においては珍しくない相談なのだが、国は実態把握を行っておらず、裁判の統計でも表れていない。また、有印私文書偽造罪などで逮捕や起訴に至ることはほとんどなく、全国でどのくらいの被害数があるのかも明らかになっていない。

子どもの権利・保護が放置

 協議離婚制度のもう一つの大きな問題は、未成年の子どもの権利・保護が放置されていることである。協議離婚では、父母のみの協議によってどちらか一方を親権者に決めることができ、第三者による介入がない。また決めるのは親権者だけで、養育費や面会交流は、法的な取り決めが求められていない。このこと自体、子どもの権利が守られていないのだが、無断離婚ではさらに、一方的に親権者が決まっている。

 無断離婚した者が、親権者を自分にして離婚届を出していた場合、実際の養育を無断離婚されたほうの親が行っていれば、裁判所への申し立ては必要だが、親権者の変更は可能である。しかし、無断離婚をした方が親権者となり、子どもを養育している場合は、親権者変更はほぼ認められないのが、現在の司法判断である。このような被害にあった外国人親が、親権者変更を求めて提訴したのだが、2019年11月、無断離婚であったことは認められたものの、親権者は無断離婚加害者親という判決が下りている。無断離婚以降、子どもが「安定的に」生活している実態を評価したものであった。しかしこの裁判は、加害者側の意図的な行動によって長期化し、「安定」とみなされた時間経過は、加害者が引き起こしたものだった。また、裁判所が評価した「安定」は、「現状維持」という意味であることが伺える。この加害者親は、子どもの衣食住は確保しているものの、被害者親から子どもを突然暴力的に引き離したり、その後の被害者親と子どもとの面会交流についても不誠実な対応をとり続けたりしたこと等から、子どもの精神状態は非常に不安定であった。この判決は、無断離婚による親権獲得を裁判所が承認するものであり、「無断離婚したもの勝ち」「子どもを連れ去ったもの勝ち」となっている。

 子どもは無断離婚によって、生活や将来が、勝手に、そして決定的に変えられてしまっている。子どもの主体性や人権を無視する不条理が法的にまかり通っている。

無断離婚の予防方法にも問題

 無断離婚を防ぐ方法として、離婚届不受理申出制度がある。相手から届出が出されても受理しないよう、役所に事前に求める申出である。一度提出すれば、取り下げない限り有効なので、無断離婚を防ぐことができる。しかしこれは一般の日本人にさえあまり知られておらず、ましてや、諸外国では無断離婚はありえないため、移住者にも周知されていない。国は積極的な注意喚起を行っていないのだが、広報すると、無断離婚ができるという「情報提供」になってしまうという皮肉な現実がある。

 この申出は、日本人配偶者の漢字氏名や本籍地を記載しなければならないが、それを知らないという外国人配偶者は珍しくない。本籍という概念自体が、日本独特のものである。日本在住であれば、住民票から情報を得ることができるが、外国に住んでいると、外国人配偶者は戸籍謄本を現地で得ることができない。

 また申出は本人が直接自治体に出向かなければならない。離婚は誰でも受理されるのに、それを予防するにすぎない申出は本人確認が求められており、手続きの重きに大きな差がある。外国に住んでいる場合は、申出を公証の上、日本人配偶者の本籍地の自治体に郵送できるが、日本語ができない外国人が自ら行うのは不可能である。

 さらに日本に在住する外国籍同士の夫婦は、戸籍がないため、不受理申出ができず、予防方法がない。一方的に離婚を要求されていて、勝手に離婚されてしまうかもしれない不安におびえているケースがあるが、何もできないのだ。

離婚の無効を求めても困難

 無断離婚された場合、離婚が無効だという調停や裁判を申し立てることができる。しかし、離婚の意思と離婚届の提出意思の、両方がなかったことを、原告(被害者側)が証明しなければならない。署名は偽造だが、そのことによって離婚が無効とはいえないという考えを裁判所が示したケースがあった。

 調停・裁判は、夫婦だけでなく、子どもを巻き込み、前婚や後婚の子がいれば、彼らも巻き込んでいくことになるため、単純に被害の不当性を主張しにくい、さまざまな事情が生じ、離婚無効請求をあきらめたり、調停や裁判をしても、取り下げざるを得なかったというケースがあった。無断離婚は、自分の都合と利益しか考えていない行動である。しかし子どもの生活や将来を案じるのは被害者で、被害者が、自分の正当性と権利の主張を、子どものためにとあきらめざるを得ない気持ちにさせられている。

今後に向けて-「リコン・アラート」の取り組み

 これらの悲劇は、そもそも協議離婚制度がなければ起こらない。同様の協議離婚制度があった韓国は、1977年、家庭法院で離婚意思の確認をするよう法改正している。日本では、民法の改正は容易ではない。しかし、外国人配偶者との離婚に限定して、提出時の当事者双方の本人確認を厳格に行うというような運用は可能ではないだろうか。少なくとも、不受理申出を離婚届と同等に簡便にすることは、なんら不都合はないと考える。

 そうしたなか、関西圏で活動する移住者支援団体、法学者や弁護士などが集まり「リコン・アラート(協議離婚問題研究会)を2015年に結成し、この問題に取り組んでいる。国際結婚の外国人への啓発ツールとして、パンフレットや動画を作成し(2017年3月)、毎年電話相談会を実施している。

 この問題を知らないために、誤った支援によって問題が悪化しているケースがあるため、支援者向けの書籍を発行した(『無断離婚対応マニュアル』、日本加除出版、2019年)。また、「移住者と連帯するネットワーク」が行う関係省庁との協議(省庁交渉)でこのテーマを訴え、国に改善を求めている。前向きな回答はほとんどないが、在外公館のウェブサイトへの注意喚起など、わずかな前進はある。

 法制度によって悲劇を被る人がなくなるよう、今後も継続的に活動していきたいと思っている。

 

(リコン・アラート   http://atoms9.wixsite.com/rikon-alert


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