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国際人権ひろば No.150(2020年03月発行号)

特集:日本と台湾の子どもの権利

台湾における国連人権条約の報告手続き-子どもの権利条約報告の事例から

林 沛 君(ペギー・ペイチュン・リン)
東呉大学人権修士学位学程助理教授

 台湾は、国連での1971年の中国代表権をめぐる決議によって、国連加盟国としての地位を失い、国連が採択した人権諸条約も批准できなくなった。しかし、台湾は、社会の民主化プロセスの中で、国際人権基準が国内で履行されるよう独自の方式を作り進展させている。大学で子どもの権利条約を教え、子どもの権利の専門家である林沛君さんに、台湾の国内法である「子どもの権利条約実施法」に基づくはじめての国際審査の経験を通じて、台湾の子どもの人権状況と人権擁護の取組について寄稿いただいた。(編集部)

 

はじめに

 中華民国(台湾)は、国連の条約履行状況の監視機構のシステムから除外されているが、過去10年の間に五つの国連人権条約(注1を国内法化してきた。さらに国際的な人権基準を遵守しようという台湾政府のコミットメントを示すため、国連の条約監視機構を模した、国内における条約の実施状況を監視する、独立した監視機構が台湾政府によって設立された。この監視機構は、国際的な人権の専門家であり、国連の「人権と国際連帯に関する独立専門家」であり、台湾の社会権規約の初回と第2回の審査委員会のメンバーとして台湾政府から招聘されたバージニア・ボノアン-ダンダンさんから、「政府が条約上の責務を真剣にとらえていることを示す模範(注2」と評されている。

 本稿では、国連の人権条約の規範を国内法に取り込もうとする台湾の努力を概観し、台湾政府が独自に採用した人権条約の報告の形式に焦点を当てるが、その具体例として、2017年に実施した子どもの権利条約の遵守に関する政府の初めての報告を取り上げることにする。

台湾方式の人権条約報告制度

 2009年以降、国連の人権条約を国内法制度に取り入れるための法案が通過したことは、台湾の人権の進捗における大きな里程標である。2014年5月20日(注3、台湾の議会は、2つの国際人権規約と、女性差別撤廃条約と同じ方法で、子どもの権利に関する条約実施法を成立させた。台湾の法制度でこの法律が施行されて以降、政府機関、子どもに関わるNGO、子どもたち自身によって、台湾における子どもの状況を検証するための基準として、子どもの権利条約を活用しようという広範な努力がなされている。

 子どもの権利条約実施法によって定められているとおり、2017年11月20日から24日までの5日間にわたり、子ども権利条約の実施に関する第1回報告が行われた(注4。台湾の副総統は、子どもの権利に関する世界的な専門家5人に対し、台湾の子ども権利条約第1回報告を現場で審査してくれるよう、招待状を送った。そしてそのために国際審査委員会(以下、「審査委員会」)が設置された。

 この審査委員会は、市民社会組織から8本、子どもたち自身(注5から7本の報告書を受け取った(報告書の中には複数の組織の連合体によって提出されたものもある)。合計68人の子どもたちが政府関係者の同席なしに審査委員会と直接、会合を持ったほか、117人もの子どもたちが子どもによる報告書の草案作り、準備に参加した。

 NGOから審査委員会に出された報告書では、台湾に子どもオンブズマンや人権委員会がないこと、若年妊娠など広範囲にわたる問題が取り上げられた。例えば、子どもの権利条約のための台湾NGOの報告書ではいじめの問題の訴えがあった。2014年の調査によると、小、中、高校生の15.2%が過去1年間にいじめを経験している。またこの調査では、いじめを受けた子どものうち、40.3%が同級生は「何もしてくれなかった」と答え、65.2%は親や教師にいじめのことを話さなかったと答えている。そこで子どもに関わるNGOは、この問題について教師と子どもたちの理解と意識を高めることで、いじめ防止を推進するよう政府に求めた。

 子どもたちの意見を見ると、生活の多くの面で権利の行使に苦労していることがわかる。たとえばある生徒は「学校ではたくさんの“勉強ロボット”がいる。私たちは勉強への動機や関心を失ってしまった。そのせいで私は憂鬱であり、このような状況を誰かが終わらせてくれないかと思う(注6」と言っている。また別の報告書では、ある生徒が体罰の問題を審査委員会で取り上げてもらうことを望んでおり、「私たちに、どのような救済のための措置があるかを知らせようという努力がなされていない(注7」と述べている。

 子どもの権利条約は、明確に子どもが権利の主体であると定めているが、すべての子どもが権利を有するという考え方が現実になっているとは言いがたい。施設などで生活している障がい児、犯罪や法に触れる行為をした子ども、学校からドロップアウトした子ども、LGBTの子どもなどについては、子どもの民族、ジェンダー、言語、能力、その他あらゆる立場、状況に関係なく、すべての子どもにとって権利条約が実現されるよう、政府がより積極的な行動をとることが求められている。

 審査委員会はその総括所見(注8の中で、子どもの権利条約について、合計98件の勧告項目を挙げた。家族で生活することができない子どものための住居や施設でのケアの質、若年者の妊娠率の高さ、公立で非営利の就学前教育機関の不足、私立学校に子どもを入学させる親の経済的な負担の重さ、高い学業成績を求められることによる子どもたちのストレス、柔軟性のない教育課程の問題などである(注9

 子ども権利条約の審査によって、台湾における子どもの権利条約に関連する課題が明確になり、審査委員会の総括所見に沿って実行するため、NGOと政府がそれぞれ行動を起こすことになった(注10

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子ども権利条約第1回報告書国際審査委員会に参加する子どもたち
(出所:財団法人中華民国児童福利連名文教基金会のウェブサイト)

国際人権基準の国内法化がもたらしたもの

 国連の人権基準を国内法化するために特定の法律を作ることの影響は、台湾の研究者の間でも議論が続いているが、台湾政府が採択した人権条約報告のモデルは、政府が体系的な法律の改革に踏み出し、社会全体で人権についての意識が高まるきっかけと推進力を生むことに繋がった。さらに重要なのは報告と審査のプロセスそのものが、台湾政府と市民社会が現状を評価し、弱い立場にある人たちの権利の伸張のために何をすべきかを判断するツールとなったことである。

(翻訳  園崎 寿子、構成  ヒューライツ大阪)

 

※英文(原文)は、大阪市立大学人権問題研究センター『人権問題研究』No.17に掲載される。
 https://www.rchr.osaka-cu.ac.jp/journal/

 

注1:自由権規約、社会権規約、女性差別撤廃条約、障がい者権利条約、子どもの権利条約。

注2:「台湾人権ジャーナル」誌でのインタビューでの発言。(Taiwan Human Rights Journal vol.2 No.2 p.114 December 2017)

注3:子ども権利条約実施法に引き続き、台湾の議会は障がい者権利条約実施法を採択した。

注4:子ども権利条約実施法第7条では、「子どもと若者の権利に関連して、政府は報告制度を設置し、本法の施行から2年以内に第1回政府報告書を提出するものとする。その後政府報告書は5年ごとに提出される。関係する学識経験者及び民間団体の代表者を報告のレビューに招聘する。政府はこれらの者の意見をもとに政策を見直し検討する。」と定めている。

注5:これらの報告書は子どもに関わるNGOの支援を得て作成された。

注6:衛生福利部ウェブサイト(中国語)。https://crc.sfaa.gov.tw/crc_front/index.php?action=classification&uuid=8ba0167c-9aeb-4aad-8f0c-23337e3f5f0c.

注7:同上

注8:衛生福利部ウェブサイトに総括所見全文掲載(中国語)。https://crc.sfaa.gov.tw/crc_front/index.php?action=classification&uuid=ae8f37d4-9ef0-4b25-b35b-da06ad661e85.

注9:総括所見のパラグラフ42、71、77参照。

注10:たとえば、第一回レビューの直後、衛生福利部は子どもの権利条約実施状況に関する第一回報告書実施のためのフォローアップ行動実施評価を策定した他、レビュー委員会の勧告を実施するために2018年から2020年までに取るべき行動について議論するため、関係省庁会議が開催された。


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