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国際人権ひろば No.140(2018年07月発行号)

特集 日本とヨーロッパの難民受け入れの現状

国連・フランスの難民関係機関を視察して

石川 えり(いしかわ えり)
認定NPO法人 難民支援協会代表理事

 2018年3月末に1週間、フランス政府外務省からの招聘で、難民・移民をテーマにフランス視察をする機会を得た。参加したプログラムはPIPAプログラム(未来を担う人物を招待する計画)というもので、私ひとりのために難民・移民に関する多様な関係者(国会議員、政府機関、民間団体、研究者など)に加えて、美術館の訪問など19の会合を組んでいただいた。短い視察であったが、この視察で垣間見ることができたフランスの難民をめぐる状況を紹介したい。

 まず、概観であるが、フランスは2017年に約10万人の難民申請を受け付け、そのうち約1万3千人を難民認定、約1万人を準認定(補完的保護)している。難民申請は全国の各地方自治体にある国の窓口(Prefecture de Police)にて受け付け、審査をするOFPRA(フランス難民及び無国籍保護局、以下OFPRA)へ送られる。OFPRAは内務省の外郭団体として同省から予算を支給されるが、その決定や人事権においては全く独立している。すべての難民申請者はフランス全土からパリにある事務所へ呼ばれ、インタビューを受ける。OFPRAは審査結果をまとめ、難民認定、補完的保護による保護、あるいは不認定の決定を出す。難民不認定の場合は、CNDA(行政裁判所・難民専門)へ不服申し立てを行い、難民裁判官による審査を経て判断が下される。希望する難民申請者全員へ、国費により弁護士が代理人として手続きを支援する。CNDAは、重要な問題を提起する事案についてコンセイユ・デタ(行政最高裁判所)(注へ送付することができる。

 難民申請中は、国の責務として住居を提供し、また生活支援金として1日6ユーロ(約720円)を支給する。難民申請の結論が9か月間以上を要する場合には、就労許可を申請することができる。ただし、失業率は9%と高く、実際に職を得るのは難しいという説明であった。認定を受けた場合には、国費により提供される社会統合のためのコース(フランスの価値観、フランス語の学習)を受け、地域社会で暮らしていくことになる。

 難民不認定になった場合には、自発的な帰国が勧められるようで、航空券の支給と帰国に際しての物資が2,500ユーロを上限に購入でき、現物で支給されるとのことだった。また、帰還者が多い国での開発プログラムなどが行われており、できる限り人道的な帰還を促していることが理解できた。

img_140_p6-7_記念撮影.jpg

OFPRAの職員と筆者の記念撮影

 以下、筆者が特に印象に残ったことを中心に紹介していきたい。

① 難民申請者の急増にどのように対応するのか?

 2010年から14年まで、難民申請者数は3~4万人台であった。2015年の「シリア危機」の際に難民申請者数は増え、その後2017年は10万人となっている。この急増に対して、OFPRAの職員はスタッフの増員とロジスティックの改善(メールで申請者とやりとりする等)で対応し、2017年は過去最高の11万人の審査をおこなうことができたという。OFPRAの職員は難民申請を書類のみで不認定にすることはなく、「すべての申請者の話を聞かずに不認定にすることはありえない」と語り、申請の迅速化の要請に応えながらも適正手続きのレベルを失わないよう苦慮していることが分かった。

 一方、不服申し立て機関にあたるCNDAの裁判官は「質は後退している」と語った。OFPRAによる一次審査の後、CNDAへの不服申し立ての期間が短縮化されようとしており、それだけでも難民申請者の権利を大きく侵害していると憤っていた。筆者訪問時はCNDAの裁判官がこの法案に反対するストライキを行っていたように、認定に係る人たちが「適正手続きを守る」ということに対する意識が高いことには素直に感銘を受けた。

② 適正手続きについて

 権利保障・適正手続きについては、一次審査と完全に独立した行政(専門)裁判所によって難民申請の不服申立てが審査されることに加え、民間団体が訴訟などを通じて難民・移民のための権利の幅を広げてきていることも印象的であった。例えば、移民の家族統合を認めた決定(訴訟を提起したLe Gistiという団体にちなんでGisti決定と呼ばれていた)により、毎年約20万人の新たな移民のうち3分の1以上が家族統合による移民となっている。また、外国人の収容施設において法的助言を得ずに収容を続けてはならないという欧州人権裁判所の決定により、民間団体が弁護士を派遣し、常駐させており、それには政府資金が使われている。

 元から良い手続きや制度があるのではなく、より良くしていこうという人たちの努力、そして人権や適正手続きが保障されなくてはならないという信念が制度を執行する政府・裁判官の側にも、支援者側にもあることが良く分かった。

③ すべての人の包摂をめざすセーフティーネットとNGOの活動

 セーフティーネットについても感銘を受けた。具体的には「119」で救急車を呼ぶように「115」でホームレスのシェルターが提供される非常ダイヤルを政府負担で行っていること、難民申請者への住居提供と現金支給をすべて政府資金で行っていることが挙げられる。(在留資格に関わらず)あらゆる人に無償で医療が提供されている。一方で1年以上を要するという難民申請中は就労が認められないことがほとんどだそうで、これについてはNGOなどから課題として指摘されていた。訪問した団体のAURORAは住居支援、シェルター運営に非常に専門性が高く、元受刑者への住宅提供に始まり、社会の中で周辺化されがちな人たちへシェルターを提供してきた実績の延長で、難民申請者へのシェルター提供にも取り組んでいる。シェルター運営に関するほぼすべての資金は政府から提供されており、文字通り「(あらゆる人を)包摂する」という理念と実践を見ることができた。時間の制約から十分に実態を見られなかったが、包摂するという方向性は知ることができた。

④ 「人間としての当然のニーズ・権利に対応する」制度と、彼らの貢献、そしてともに生きる社会を模索する

 「移民に人間としてのニーズを認めず、家族呼び寄せを認めないなどの政策をとるのであれば、それは非人間的であり、非経済的でもある」と指摘したのは、フランスの国会議員であり、上院日仏友好議連会長でもあるデビット・アスリーヌ氏だった。歴史研究をしてきた自身の背景からも情熱をもって移民政策、法制度の整備に取り組んでいることを語った。前述の発言は日本の外国人受け入れ政策を「移民政策はとらないとし、短期間で帰国する外国人材だけを採用し、家族の統合も原則認めない」と紹介した際の同氏の反応であり、それは本当に良くないと熱心に解説していただいた。

 今回の訪問では、難民・移民を前向きにとらえる人たちとの出会いがあった。例えば、移民政策に取り組む外務省の担当者からは、移民自体が出身国にもたらす貢献、そして故郷との絆が弱まることはないという調査データを紹介された。また、新しい民間団体のSINGAでは、難民申請者の個人情報に配慮しながらも支援をする・されるという立場を超えて、対等な立場で例えばサッカーや語学学習など共通の趣味や活動を通じて難民と移民自身が出会う機会や、ホームステイのマッチング、難民の強みを生かした起業支援などが行われていた。For Refugee(難民のため)ではなく、With Refugee(難民とともに)、Integration(社会統合)ではなく、Inclusion(社会の中でともに)という考え方からも、ともに生きるための新しい動きがフランスで生まれていることがよくわかった。

 それと同時に、私も含む日本に大きな問いを突き付けられていると感じた。私たちは、年間の難民認定が20人でよいのか?難民申請者にセーフティーネットが欠けている状況でよいのか?難民・移民の家族統合を認めなくてよいのか?といった問いである。自分もこの社会の一構成員であることに自覚的でありながら、多くの人との議論を通じて一つひとつの状況が良くなるよう、支援の立場から貢献していきたいと思いを新たにしている。

img_140_p6-7_イミグレーション・ミュージアムの展示.jpg

イミグレーション・ミュージアムの展示。非正規滞在を
していたマリ出身者が、在留許可を得た際の身分証明書。
本人の背景とともに、マリからフランスへ来たことが
地図でも分かりやすく表されている。

 

注:政府から付託を受けた事案(法律案等)に対する答申を行う機関でもある(豊田透「フランスにおける難民庇護法の改革」外国の立法 267(2016.3)より


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