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国際人権ひろば No.139(2018年05月発行号)

アジア・太平洋の窓

グローバル・ギャグ・ルール(GGR)がセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)に与える影響

勝部 まゆみ(かつべ まゆみ)
公益財団法人ジョイセフ業務執行理事・事務局長

取り残される女性と少女の健康と命

 この地球上に、約2億2,500万人。望まない妊娠を防ぐために避妊することを、様々な理由で阻まれている女性や少女がいる。途上国では、毎年、700万人の女性と少女が、安全でない中絶の合併症で苦しみ、少なくとも2万2,000人が亡くなっている。15~19歳の少女の死因のトップが、妊娠・出産、安全でない中絶にまつわるものである。

 世界193カ国によって国連総会で採択され、2016年から15年の期限で開始された「持続可能な開発アジェンダ2030」と「持続可能な開発目標(SDGs)」は、「誰ひとり取り残さない」という世界に向けた強いメッセージを発信した。SDGsには、取り残されてきた女性と少女が置かれた状況の改善が、最重要目標のひとつとして含まれる。しかし、子どもを産むか産まないか、産むならいつ産むか、何人産むかを自分自身で決めることができ、必要なサービスを必要な時に受けることができる、という女性の基本的人権であるはずのセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR:性と生殖に関する健康と権利)を侵害し、国際社会によるSDGs達成の動きを後退させる事態が起きている。

グローバル・ギャグ・ルール(GGR)とは

米国のトランプ大統領が2017年1月就任直後に導入を決めた「メキシコシティ政策」。メキシコシティで国際人口会議が開催された1984年、当時の共和党のレーガン大統領が初めて導入したことから、この名がついた。民主党のクリントン政権で1993年に廃止され、以後共和党と民主党の政権交代に伴い導入と廃止が繰り返されてきた。通称「グローバル・ギャグ・ルール:Global Gag Rule(GGR)(口封じの世界ルール)」と呼ばれる。

 この政策によって、米国国外で、米国の資金援助を受けているNGOなどの組織・団体は、その国で合法でも、以下のことを約束しなければならない。

  1. 人工妊娠中絶手術を行わない、
  2. 中絶に関して医療スタッフが患者に行うカウンセリングや医療機関の紹介を行わない、
  3. 合法かつ安全な中絶を可能にするよう求める活動を規制し、これらに資金を使わないこと。(妊娠の継続が命の危険にかかわる場合、妊娠がレイプ、近親姦による場合、そのカウンセリングや中絶後のケアは対象とならない)。

 加えてトランプ政権のGGRは、以下の点でさらに厳しい規制となった。

  1. 米国が援助する資金に対してのみ適用された過去の政策と異なり、米国以外からの資金の使途も規制する。
  2. 規制を受け入れない場合、資金の打ち切りは国際保健分野に広がり、家族計画、母子保健、栄養、HIV/エイズ、マラリア、結核等の感染症の治療・予防なども影響を受ける。

 米国は、世界最大の保健医療分野の支援国であることから、GGRの影響を様々な機関が調査し推計している。NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)によれば、過去のGGRによる米国の資金援助への影響は5.75億ドルだったが、トランプ政権では、カイザーファミリー財団の直近の試算で約22億ドルに上るとされている。

GGRの破壊的な影響

 皮肉なことに、過去の経験では、GGRは中絶を規制する政策にもかかわらず、中絶件数は減らず、むしろ家族計画へのアクセスの激減による意図しない妊娠と安全でない中絶が増えたと報告されている。

 前述のHRWが2017年7月にケニアで24団体、ウガンダで21団体に対して、GGRの影響について聞き取り調査を行っている。国際家族計画連盟(IPPF:International Planned Parenthood Federation)の加盟団体のNGO(FHOK:Family Health Option Kenya)は、16のクリニックを運営し、妊産婦ケア、家族計画、HIVテスト、子宮頸がん検査など、質の良いリプロダクティブ・ヘルス(RH)サービスを国内全域で提供してきた。FHOKは、その信念に基づきGGRに従わない道を選んだ。その結果、資金の60%にあたる米国からの支援が停止されることになり、サービスを縮小せざるを得ず、閉鎖に追い込まれるクリニックが出ている。

 同様にウガンダのIPPF加盟団体のRHU(Reproductive Health Uganda)は、年間120万人にサービスを提供してきたが、米国の資金停止によって、大規模な保健プログラムの中止に追い込まれている。

 ウガンダでセックスワーカーのために活動する団体は、HIV/エイズの治療か、望まない妊娠をしたセックスワーカーに安全な中絶を提供するための活動か、いずれかひとつを選ばざるを得ない厳しい状況に追い込まれている。3人にひとりの割合でHIVに感染している女性を救うために、米国からの支援は不可欠である。しかし同時に、今生きるためにセックスワーカーとして働かざるを得ない極貧の中で、望まない妊娠をして、危険な中絶によって命を危険にさらされるセックスワーカーも少なくない。GGRは、支援が必要な女性たちを切り捨てていく。

 政府はGGRの規制対象ではないが、途上国の公的な保健医療施設の多くは、米国から資金を得ているNGOの支援で運営されている。そのため、政府の施設にもGGRの影響が及ぶ。公的機関で働く職員を対象にした安全に中絶を行うための技術研修、施設への資機材提供等が、NGOを通して米国の支援で行われていることも多く、資金の停止で事実上、安全な中絶への道は絶たれてしまう。

 IPPF加盟団体への深刻な影響は、2018年に入って次々報告されている。例えば、米国国際開発庁(USAID)からの資金が60%を占めていたIPPFモザンビークでは、これまでに職員の半数近くを解雇しなければならず、若者のための18カ所のクリニックを閉鎖した。資金の25%をUSAIDに頼っていたIPPFスワジランドは、活動範囲を14から4つの市町村に縮小した。ボツワナでは、専門技術を持つ職員の70%を解雇、サービスが最小限にまで縮小された。こうした影響が、29カ国のIPPF加盟団体で起きている。

GGRへのカウンターアクション

 一方、欧州を中心に、GGRの影響を最小限に止めようとする力強い動きがある。大統領令署名直後に、オランダ政府がSheDecides.という基金を創設、2017年3月2日に資金調達のための国際会議が開催され、50カ国以上が参加した。中心となるオランダ、ベルギー、デンマーク、フィンランド、ノルウェー、スウェーデンが、2017年中に拠出を約束した金額は、2億2千3百万ユーロに到達した。これは、国連機関や国際機関、NGOに配分され、GGRの影響を受ける人々へのサービスに活用されている。しかし、GGRによって打ち切られる米国の資金を補うためには、各国政府、国連・国際機関、民間セクター、市民社会によるさらに大きな連携と行動が必要である。

 

参考:

  • “Trump’s ‘Mexico City Policy’ or ‘Global Gag Rule’”, Human Rights Watch, February 14, 2018
  • “SheDecides ? 1 year down the line”
    http://www.countdown2030europe.org/
  • International Planned Parenthood Association(IPPF)
    https://www.ippf.org/jp/news/
  • “How Many Foreign NGOs Are Subject to the Expanded Mexico City Policy?”, Kellie Moss and Jen Kates, Kaiser Family Foundation, December 2017
  • “RH+” No.18, April 2017, “RH+” No.19, July 2017, 公益財団法人ジョイセフ

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