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国際人権ひろば No.138(2018年03月発行号)

人として♥人とともに

人あってのビジネス ~国連第6回「ビジネスと人権フォーラム」の議論から~

三輪 敦子(みわ あつこ)
ヒューライツ大阪所長

 2012年以来、毎年、ジュネーブの国連欧州本部で、国連「ビジネスと人権フォーラム」が開催されています。2017年は、11月27日(月)から29日(水)の3日間にわたって開催されました。

 「ビジネスと人権フォーラム」は、企業が自らの活動のすべてのプロセスで人権の保障に向けて努力することを目指し、国連が2011年に承認した「ビジネスと人権に関する指導原則(以下、「指導原則」)」の推進を目的とするフォーラムです。「指導原則」には以下の三つの柱があります。

 ① 国家が人権を保護する義務
 ② 企業が人権を尊重する責任
 ③ 人権侵害からの救済へのアクセス

 つまり、企業活動に関しても国家には人権保護を保障する義務があることを確認したうえで、企業には人権を尊重する責任があることを明記し、そのうえで、人権が侵害された際には救済へのアクセスを保障しなければいけないことを示しました。救済へのアクセスについては、国家と企業の両方が適切な措置をとらなければなりません。

 この問題が国際社会の課題となった背景には、国境を越えた企業活動が活発になったことが挙げられます。「指導原則」策定の端緒となったのが、OECDの多国籍企業行動指針であったことにも、それはあらわれています。同時に、「ビジネスと人権」は決して新しいテーマではありません。古くは足尾銅山鉱毒事件、近年では水俣病、ヒ素ミルク事件等、日本においても深刻な被害が発生し、救済に向けて関係者が血のにじむような努力を続けてきた問題です。

 2017年のフォーラムのテーマは、「効果的な救済へのアクセス実現」でした。フォーラムでは、救済に関する先進的な事例も報告されました。そのいくつかをご紹介します。

 

1)不当解雇による被害を救済する

 2017年のフォーラムで、NCP(注)が人権救済に果たせる可能性を示したとして、何度も「画期的」と表現されていた事例です。コンゴ民主共和国で操業していたオランダのビール会社ハイネケンの子会社による不当解雇を訴えた168名に対し、補償金の支払いという形で2017年8月に和解が成立した事例で、和解の成立にあたっては、ハイネケンの本社があるオランダNCPの支援が決定的な役割を果たしました。申立を支援したオランダ、コンゴ双方のNGOは、訴えを起こした元労働者の努力と、ハイネケン、オランダNCPの誠実な対応が合意に結びついた要因としています。オランダNCPは、ウガンダやフランスのオランダ大使館でおこなわれた当事者間の協議を支援し、協議に参加するための渡航費用も負担しました。

 

2)人身取引にからむお金の流れを告発する

 オランダの銀行であるABN-AMROから報告されたのは、「普通ではない」「怪しい」送金等の取引を察知することにより、検察等の法執行機関と協力して、ABN-AMROを通じた取引が人身取引を助長することがないように努力する取り組みでした。フォーラムで報告したABN-AMROの担当官が「私は自分のことをcorporate activist(企業内活動家)だと思っている」と発言したのが非常に印象的でした。彼女自身、2014年に英国の新聞社であるガーディアンが主催したイベントで初めて、人身取引にどれほどのお金の流れが関わっているかを知ったとのことで、その意味で、メディアの果たす役割にも改めて気づかされます。

 

 フォーラムでは、1984年に発生した史上最悪の産業災害と呼ばれるインド、ボパールの化学工場におけるガス漏れ事故と2013年にバングラデシュ、ダッカで起こったラナ・プラーザ倒壊事故についての言及が何度もあり、この2つの事故が、救済を考えるうえで非常に重要な事例であることも改めて認識しました。

 昨今、SDGs(持続可能な開発目標)も追い風になり、企業の方からの人権に対する関心が高まっているのは非常に喜ばしいことです。ただ、「指導原則」の核には、人権侵害が発生した際に、どのように救済を提供するかがあることを、改めて認識したフォーラムでした。「救済あっての人権保障」ということになります。

 今回のフォーラムでは、「指導原則へのジェンダー視点の導入」についての作業が始まることも発表されました。2018年11月の第7回フォーラムに向けて作業が開始される予定です。