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国際人権ひろば No.137(2018年01月発行号)

人として♥人とともに

世界人権宣言をつくった女性たち~エレノア・ルーズベルトとハンサ・メーター~

三輪 敦子(みわ あつこ)
ヒューライツ大阪所長

 「結局のところ、普遍的人権とはどこで始まるのでしょう。それは、ごく身近な小さな場所…世界のどんな地図でも見つけられないほど身近で小さな場所から始まるのです。けれども、それこそが人の生きている世界なのです。その人の住む町、通っている学校や大学、働いている工場や農場や会社。そうした場所こそ、あらゆる男性、女性、子供が、差別のない平等な正義、平等な機会、平等な尊厳を求める場所なのです。これらの権利がそこで意味を持たないとしたら、それらはどこでもほとんど意味がないでしょう。身近なところでそれらを支持するために団結した市民の行動がなければ、私たちがそれよりも大きな世界に進んでいこうとしても徒労に終わります。」

 これは、エレノア・ルーズベルトが、世界人権宣言10周年を祝う国連でのスピーチで述べた有名な言葉です。エレノア・ルーズベルトは、第二次世界大戦の終結を前にして世を去ったアメリカ合州国第32代大統領、フランクリン・D・ルーズベルトの妻で、戦後、アメリカ合州国を代表し、1946年に設置された国連人権委員会(Commission on Human Rights)の委員となり、初代委員長としてリーダーシップを発揮し、世界人権宣言の起草に重要な役割を果たしました。彼女は、大統領の妻ということで名声を得た女性ではなく、政治活動に熱心に関わり、新聞にコラムを持つ人気の高いジャーナリストでした。ファーストレディとして過ごした時代には、夫の政策に異を唱えるなど、自立した精神をもち、そして弱者への強い思いで知られた女性です。弱者への思いは、両親、特に母親から愛されずに祖母に育てられ、孤独な幼少期を過ごした彼女自身の生い立ちが強く影響していると言われています。

 1948年12月10日、パリで開催された第三回国連総会で、世界人権宣言が採択されました。世界人権宣言を起草したのは18名から成る人権委員会ですが、その出身国は、アメリカ合州国(委員長)、中国(副委員長)、チリ、エジプト、フランス、インド、イラン、レバノン、フィリピン、ソビエト等、当時の国連加盟国の多様性を反映した構成でした。文化的、宗教的、経済的、政治的に多様な背景を有する委員が、「人であることで普遍的に守られるべきこと」は何かを真剣に検討した成果が世界人権宣言です。

 男女の平等を含む、世界人権宣言の非差別、平等規定に尽力したのはエレノア・ルーズベルトであるというのが一般的な理解ですが、男女平等規定により具体的に貢献したのは、人権委員会のもう一人の女性委員であったインド出身のハンサ・メーターであることが明らかになっています。メーターは、裁判なしの勾留、検閲、財産の没収といった英国の植民地政策に反対して、不服従運動に参加し投獄されるなど、独立運動を闘った闘士でした。1949年に採択されたインド憲法の権利条項の草案作成の際には、アドバイザーとして、プルダ(女性の隔離)、幼児婚、重婚、不平等な相続法、異なるカースト間の結婚の禁止を撤廃するために闘いました。

 現在、all human beingsで始まる世界人権宣言第1条は、最初の草案では、all menと記されていました。この用語に強く反対したのがハンサ・メーターでした。メーターは、all menという言葉は、女性を排除する意味に理解される可能性があると委員会メンバーに訴えました。これに対しルーズベルトは、all menには男女両方が含まれるという理解で、変更に関しては、あまり積極的ではありませんでした。しかし、all menという言葉は、現在では「包摂性に欠ける言葉」と考えられるようになっています。All human beings are born free and equal in dignity and rights.(すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である)という現在の文言の陰には、孤軍奮闘とも言えるメーターの努力がありました。メーターの先見性と尽力に改めて賞賛を送りたいと思います。そして、18名中2人だけの女性委員であったルーズベルトとメーターの努力と功績を讃えたいと思います。

 2018年、世界人権宣言は70周年を迎えます。ヒューライツ大阪は、「人権は宝」をスローガンに、様々なイベントやセミナーを通じ、皆さんと一緒に、人権がいかに私達一人ひとりと社会を豊かにしてくれるかを考えます。皆さんのご参加をお待ちしています。

 

 参考:Glendon, Mary Ann (2002)“A World Made New: Eleanor Roosevelt and The Universal Declaration of Human Rights”, Random House.