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国際人権ひろば No.136(2017年11月発行号)

人として♥人とともに

誰一人取り残さない ~「持続可能な開発目標(SDGs)」と人権~

三輪 敦子(みわ あつこ)
ヒューライツ大阪所長

 2015年9月25日、国連総会は、2030年までに国際社会が一丸となって達成すべき目標を採択しました。「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」と題する文書に示された「持続可能な開発のための目標」(以下SDGs)です。SDGsは、2000年から2015年にかけて実施された「ミレニアム開発目標(MDGs)」で達成できなかった課題を引き継いで設定されましたが、それだけではなく、SDGsはMDGsをはるかに超える領域、分野をカバーしています。

 「ミレニアム開発目標」の中心的課題は「経済」「社会」「環境」でしたが、SDGsでは、「平和」「包摂」が課題として加わりました。SDGsは「人間、地球及び繁栄のための行動計画」であり、「普遍的な平和の強化を追求する」ための目標とされていて、17の目標と169のターゲットから構成されています。「ミレニアム開発目標」は、世界の貧困の解消を最重要課題とし、その意味で、主に「途上国」を対象とした目標と理解されていましたが、「持続可能な開発目標」は、すべての国に関わる目標です。現に、日本でも、経団連を始めとする経済界がSDGsに注目しています。

 さらに、「ミレニアム開発目標」からの革新的な変化として注目したいのは、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」前文にある「誰一人取り残さない」という言葉です。さらに、SDGs前文は、「すべての人々の人権を実現」することも明言しています。「人権」という言葉が開発の目標で示されたのは画期的なことだと思います。

 SDGsは、英語の頭文字からとった「5つのP」を、持続可能な開発にとって重要な要素としています。「人間(people)」「地球(planet)」「繁栄(prosperity)」「平和(peace)」「パートナーシップ(partnership)」がその5つなのですが、「人間」の段落では、以下のように述べています。

 

我々は、あらゆる形態及び側面において貧困と飢餓に終止符を打ち、すべての人間が尊厳と平等の下に、そして健康な環境の下に、その持てる潜在能力を発揮することができることを確保することを決意する。

 

 「取り組むべき課題」としては、「貧困と飢餓に終止符を打つこと」等と並んで、「国内的・国際的な不平等と戦うこと」「人権を保護しジェンダー平等と女性・女児の能力強化を進めること」が記されています。また、「目指すべき世界像」として、「人権、人の尊厳、法の支配、正義、平等及び差別のないことに対して普遍的な尊重がなされる世界」を提示しています。そして、世界人権宣言や国際人権条約をSDGsの原則とすることも明言しています。

 人権の保障が以前にも増して重要な国際課題となっている現在、SDGsがこのような方向性を示したことは、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」自身が述べるように「最高に野心的かつ変革的なビジョン」かもしれません。その方向性は大いに歓迎したいと思います。

 ですが、なにより重要なのは、SDGsを「絵に描いた餅」に終わらせず、具体的に実施することです。「持続可能な開発」という、これまでは主として経済、社会、環境の分野で取り組みが進められてきた領域で、人権の保障が実際に達成されるかどうかは、国連加盟国と私たち一人一人の自覚と熱意にかかっていると言えるでしょう。

 人権の観点から「誰一人取り残さない」ために、今のSDGsでは十分ではない点もいくつかあります。ここでは、そのなかから2点を指摘したいと思います。

 一点目は、移民についての認識です。「包括的成長と持続可能な開発に対する移民の積極的な貢献を認識」とし、人権尊重への言及もあるものの、移民の権利が確立していない現状では深い懸念を感じます。移住労働者権利条約の締約国は、まだ51ヵ国にとどまっています。

 二点目は、脆弱な人々についての記述はあるものの、民族的あるいは社会的出身に基づく少数者への視点は弱く、またLGBTIの人たちへの視点が欠けていることです。「誰一人取り残さない」21世紀の目標としては残念です。

 こうした懸念を認識しつつ、持続的開発の中心的要素として人権が確認されたことの意義は改めて確認したいと思います。そのうえで、SDGsが真の意味で「誰一人取り残さない」目標に発展していくための努力を続けたいと思います。