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国際人権ひろば No.135(2017年09月発行号)

特集 寛容な社会の可能性

外国人留学生が抱える「生きづらさ」

金夏琳(キム・ハリム)
ヒューライツ大阪

 日本は留学生を数多く受け入れている一方で、質的な面における受け入れ体制は十分に整っていないように思われる。文部科学省は「留学生30万人計画」を掲げていることもあり1、2016年度に日本で学ぶ留学生は約23.9万人であった2。その内、正規の学部生や大学院生(短期留学ではなく、日本人学生と同様に授業を受けて学位取得を目的とする)は、約11.5万人に上る。家族と離れ異文化の中で勉強や研究をするプレッシャーに加え、異文化コミュニケーションによるストレスを受けることによって、留学生は日本に住むうえでの「生きづらさ」を感じていることがある3。私と周りの留学生の個人的な体験を踏まえると、留学生が自分の力だけでは解決できないと認識する問題には、大きく分けて以下の3つがある。

(1)不十分な制度的サポート

 まず、日常生活において制度的に「不利な立場」に置かれるという問題が挙げられる。例えば、家を借りる際に、受け入れ先の大学によっては、保証人の調整や紹介をしてくれないことがあったり、また、未成年の留学生が携帯電話の契約をする際には、大学側が支援してくれることはほとんど無く、留学を始めた段階では周りに頼れる日本人が存在しないことが少なくない。

 言語能力に関しては、大学内における日本語教育が果たす役割が大きいが、日本語教育のための制度が十分に整っていない大学もある。研究内容や指導教員によっては、大学に制度が存在しても受講ができない場合もある。日本語能力が高くない人は、言語によってアクセスできる情報やリソースが大きく限られることになる(大橋 2008:12)。医療機関における言語的援助が十分ではない現状では、病気になった場合、必要な状況に応じて情報や知識が得にくいため、問題が深刻化することもある。

(2)同調圧力と対人関係における困難

 次に、日本文化に適応するプレッシャーと、異文化コミュニケーションにおけるストレスが挙げられる。大橋の研究では、滞在時間が長くなるに伴って日本語能力が高くなっても、ストレスはむしろ高くなるという結果がある。その理由の一つとして日本では、相手も自分と同じ思考様式や価値観を共有しているという前提でコミュニケーションが行われる傾向が強く、留学生の日本文化への適応に関する不安が増し、異文化コミュニケーションにおける誤解や不満の一要因となっているとしている(2008:55-56)。

 私の友人である留学生Yさんの場合、日本人学生と友人関係を築こうとして、日本人と同じように振る舞えるように努力していたものの、「こんなの本当の自分じゃない、どんどん疲れるようになった」と同調圧力によるストレスを徐々に感じるようになった。また別の留学生Sさんは、「テーブルにお茶があって、男性の人たちと一緒に座っている女性が私一人である場合、私がお茶を注ぐように強いられる」経験をし、日本で女性として期待される振る舞いについてストレスを感じた。私自身、日本人と距離を縮める中で「日本では積極的に意見を言わない」、「はっきり意見を言うから怖い」と言われたり、「女の子はもっと優しい口調じゃないといけない」とコメントされたりし、日本に慣れるためには個性を無くしていかねばならないような思いを何度かした。留学生が経験する課題として最も多いのは、語学力や研究そのものよりも、日本人との関係における問題であるとする大橋の指摘とも共通する(2008:134)。

(3)孤立化の危険

 さらに大橋の調査では、学部留学生にとって、日本人の友人がいることが最も重要なニーズであることが指摘されている(大橋, 2008:105)。私の周囲の留学生は「日本人の友だちが欲しい!」と望むのだが、日本人学生からあまり声をかけられず、日本人学生のコミュニティに中々入れないという困難を抱えている。そのような状態が続くと、ひきこもり、抑うつに陥り、孤立化し、登校しなくなることでより存在が「見えなく」なる場合もある。中には、留学で得ることがほとんどないまま帰国する学生や、精神的にストレスを受け続けたことにより自殺に追い込まれる人もいる。また、奨学金を受けていない学生の中には、経済状況によって、学費と生活費を稼ぐためのアルバイトをしながら、良い学業成績を目指して、時間的にも体力的にも厳しい生活を送っている人もいる。

 このように、制度的にも精神的にも追い込まれ、日本にいること自体難しいと感じるようになる留学生も存在するが、精神的ストレスの影響は、留学生の経済的背景や出身地域によって大きく異なることも注目すべき点であろう。大橋は、欧米出身者に比べて非欧米出身者が、そして非アジア諸国出身者に比べてアジア諸国出身者が、ストレスがより高く、メンタルヘルスが阻害される傾向があると指摘している(2008:56)。また、経済的に厳しい学生ほど精神的ストレスが多いとも述べている。いずれにせよ、単身で在住する留学生にとって、孤立化を防ぐために人とのつながりは極めて重要であり、精神的ストレスを感じた際に情緒面でサポートできる人が周囲にいることは非常に大事なのではないかと思われる。

「生きづらさ」に手を差し伸べる

 外国人留学生が抱える様々な問題がある一方で、日本には多くの地域団体が外国籍住民を支援する活動をしており、その中には留学生と地域の人たちの相互理解を目指した交流や支援もある。

 NPO法人国際交流の会とよなか(TIFA)は、経済的な困難を抱える私費留学生を対象に、保証人を必要としないアパートを安価で提供している。退去する留学生は使用した家具や電子機器などを置いていき、新しく入居する留学生がすぐに利用できるシステムになっている。留学生数が増える中、大学寮などの入居施設に入れなかった多くの留学生の内の一人である私も、このアパートによって大変助けられた。

 人との交流の場は学内外で提供されている。私が所属していた大学の留学生団体では、学内の日本人学生たちと共同でイベントを企画・実施していた。(公財)箕面市国際交流協会(MAFGA)では留学生が多く住む地域で、外国籍の住民に料理をふるまってもらい、来館してくる地域の住民が、その国や文化について知り、互いに交流できる場が設けられている。

 このような実践事例からは、地域のNPO・NGOや学校などが、行政の手が届いていない部分を補うようにして、地域とのつながりを通じて外国人を「異質者」として判断せず、国の枠を乗り越えて、地域の「ご近所さん」として接するアプローチが重視されている。またこれらの活動は、外国人のため「だけ」の社会づくりではなく、「日本人も外国人も」住みやすい社会づくりの可能性を提示している。

 私が「意見ははっきり言わない方が良い」と言われた経験に関して、ある日本人の友人は「それは日本社会の大きな問題だね」と問題意識を共有してくれた。私だけが経験したことではなく、日本社会における問題の一つであると共感を得ることができた。このように、外国人留学生を取り巻く問題の現状を認識することで、日本社会を見直すきっかけが生まれ、「誰もが住みやすい、多様性を尊重する」社会づくりにつながる可能性は大いにあるように思われる。そのような社会では、地域・市民のレベルで国籍に関わらず助け合うことができ、独りよがりではない「本当の国際化」が実現できるのではないだろうか。

 

1:http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/20/07/08080109.htm
 (2017年7月31日閲覧)

2:http://www.jasso.go.jp/about/statistics/intl_student_e/2016/index.html
 (2017年7月31日閲覧)

3:大橋敏子『外国人留学生のメンタルヘルスと危機介入』
   京都大学学術出版会, 2008年


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