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国際人権ひろば No.135(2017年09月発行号)

人として♥人とともに

「自明であること」を実現するために

三輪 敦子(みわ あつこ)
ヒューライツ大阪所長

 2017年7月より、(一財)アジア・太平洋人権情報センター(ヒューライツ大阪)所長を務めることになりました。設立以来、歴代の会長、所長をはじめとする皆様のご努力で、大変厳しい時代をくぐりぬけ、存在感のある活動を展開されてきた歴史に心から敬意を表します。もとより微力ですが、センターの発展に貢献するために全力を尽くす所存です。どうぞよろしくお願い申しあげます。

 

 21世紀が始まり、そろそろ20年になろうとしています。新しい世紀を前にして、「21世紀は人権の世紀」と希望を膨らませたことが、幻のように思える現実が存在します。日常的に深刻な人権侵害にさらされている人たちが依然として数多く存在することに加え、人権そのものに対して否定的、敵対的な姿勢を隠さない人が数を増しているように思えることに大きな懸念を感じます。

 

 「人権の普遍性」を信じる人間にとって、その普遍性が理解され、そして実現すること・保障されることが、なぜこんなにむつかしいかは大きな問題です。ネパールでお世話になったNGOの女性スタッフは、村の女性を選挙人登録に連れて行こうとして、その女性の夫に殺されました。理不尽としか表現できない状況にある人たちが今の世界にもたくさんいます。

 

 歴史をふりかえると、現在、私たちが語っている人権は、「アメリカ独立宣言」(1776年)、フランスの「人間と市民の権利の宣言」(1789年)、そして国連の「世界人権宣言」(1948年)を、その直接的なルーツとしていることはよく知られていると思います。

 

 フランス革命に関する研究を発展させ、人権の歴史を研究してきた歴史家であるリン・ハントは、「権利はどのようにして自明になったのか」「どのようにして18世紀末において人権の主張がとつぜん結晶化」したのかを問い、アメリカ独立宣言やフランス人権宣言が誕生した18世紀に起こった社会の変化にそのルーツを求めます。

 ハントは、18世紀の後半に訪れた書簡体小説の流行によって、これまで接点をもつことがなかった様々な人々を、「自分と同じようなもの」として、また「同じような内面の感情をもつもの」として見るようになり、そして、「物語に感情的に引き込まれることをつうじて平等と共感の感覚がうみだされた」とします。また、そうした感情は、それ以前の時代には、自白を促すための手段としてなんの疑問も呈されていなかった拷問や残酷な刑罰の禁止につながっていったと説明します。こうした「想像された共感」によって、ある状況について「もはや容認できない」という理解がひろがることが、人権の普遍性の理解に結びついていきました。

 

 人権は「自明」なのだけれども、その発展には歴史的背景が存在したと認識することは、現在、そしてこれからの人権の発展を考えるうえで重要ではないでしょうか。人権については、前述した直接的ルーツによって、「アジア的価値」といった表現に代表される異なる文化圏からの強い反発が示されてきた歴史があります。しかし、「普遍的」人権の理解の背景に存在する歴史的・社会的な文脈を理解することは、帝国主義/植民地主義の歴史に由来する、いわゆる「欧米」と、それ以外の地域との間に存在する人権に関する時として深刻な軋轢を克服するための道筋につながらないでしょうか。

 

 「人権の自明性の主張は、究極的には感情にうったえる力にかかっている」ともハントは言っていて、「あなたは人権が侵されたときに心の痛みを感じるがゆえに人権の意味を知っている」のだと説明します。権利の普遍性が「自明」であると誰もが感じることができ、その信念に基づいて社会が構想されることがヒューライツ大阪のミッションでもあります。出会うことがない人々がおかれている状況、そして身近な人々の状況の両方を「容認できない」と感じ、人権が真に「普遍性」を獲得するように、そのための知恵と努力が今ほど求められている時代はないかもしれません。そのために、「熱」を集め「光」を求めたいと思います。

注:ハント、リン(松浦義弘訳)『人権を創造する』岩波書店、2011年


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