MENU

ヒューライツ大阪は
国際人権情報の
交流ハブをめざします

  1. TOP
  2. 資料館
  3. 国際人権ひろば
  4. 国際人権ひろば No.75(2007年09月発行号)
  5. 日韓の「市民力」を考えた~NGO「韓国移住女性人権センター」を訪問して

国際人権ひろば サイト内検索

 

Powered by Google


国際人権ひろば Archives


国際人権ひろば No.75(2007年09月発行号)

特集 移住女性の人権を考えた韓国スタディツアー Part2

日韓の「市民力」を考えた~NGO「韓国移住女性人権センター」を訪問して

嘉本 伊都子 (かもと いつこ) 京都女子大学准教授

■女性活動家の努力に敬服


  韓国移住女性人権センターはキリスト教系NGOである。同じような活動を長年に渡って続けてこられた代表のハン・クギョム(韓国?)さん。そして、今回のスタディツアー参加者の大津恵子さんは日本キリスト教婦人矯風会の理事であり、シェルターである女性の家、HELPの元ディレクターである。その地道な活動の原動力は、キリスト教なのだろうか?その努力に、ただ、ただ敬服する。
  ハンさんは牧師でもある。ラベンダー色のポロシャツに白のスポーティなパンツ姿で、ショート・カット。華奢な体から溢れるエネルギーと歯に衣着せぬ物言いは、この業界でもゴッド・マザー的存在であろうことを思わせる。3日のシンポジウム「女性の人権の視点から見る国際結婚」の韓国側報告者の中で、的をえた報告をしたのは彼女だ。
  パワーポイントを用いた活動の説明も大変参考になったが、ハンさんの時々漏らす愚痴が何よりも彼女を、彼女の活動を雄弁に物語っていた。たとえば、同じキリスト教系NGOでも保守的なキリスト教は金を持ってはいる。一方、民主化運動で戦ってきたキリスト教系は、貧乏である。今回の滞在中、韓国メディアのトップニュースは、アフガニスタンでタリバンに誘拐され、犠牲者も出ている韓国のキリスト教系のNGO関連の、日々の膠着状態であった。キリスト教系か、そうでないかは別としても、今回最も痛感したのは、韓日の「市民力」の歴然とした差だった。

■韓国政府の市民への対応力


  ハンさんや大津さんが積み重ねてこられた、女性の人権を守るための努力=活動は、多文化共生のプロセスがなま易しいものではないことを伝える。それゆえに蓄積されたノウハウと現場を知り抜いているという貴重なヒューマン・リソースは、日本政府も韓国政府も無視できない。しかし、政府は都合のいいときだけ「利用」するが、金は出さない、という現実は同じなのだということが、大津さんからの資金面はどう遣り繰りしているのかという質問に対する回答から判明した。
  「市民力」の差異は、両国政府の姿勢にも歴然とした差をつくっていた。国家人権委員会すら政府とは独立して設立するにいたっていない日本政府が見習うべきは、韓国政府の現実問題への対処のすばやさだろう。韓国移住女性人権センターは、韓国の政府機関である女性家族部(省)のバック・アップもあり、国際結婚に関する政策を複数提案してきている。その1つである電話相談事業の実現が2006年9月である。ハンさんのオフィスから歩ける距離に、政府から委託された「国際結婚をした外国人女性の電話相談事業」の事務所ができた。ハンさんは若いスタッフに任せるのではなく、自らが率先してわれわれのグループを電話相談事業所に案内すると「ほらね、こっちのほうは金があるでしょ」と小さな愚痴を言う。彼女は1億ウォン(約1,200万円)の借金をしてまで、政府委託事業では対応できないケアをやろうとしているからだ。ハンさんが主張する他団体との相違点は、韓国文化に同化させるのではなく、夫婦がともにお互いの文化を学ぶプログラムを実施し、茶道などの伝統文化ではなく、現代生活に密着したプログラムを展開しているということだ。これらのプログラムのヒントは1970年代に看護師としてドイツへ行った韓国人女性の経験が生かされているという。DV支援は、韓国に婚姻移住してきた高学歴外国人女性で、韓国語も母国語もできる女性たちが、相談を担当するが、その前にDVの法律や、DVカウンセリング、韓国社会の基礎知識などの研修を受ける。そのノウハウを開発したのは、誰か言うまでもない。

■グローバル時代の社会変化と「国際結婚」


  韓国で国際結婚が急増したのが2002?3年頃であることを考えると、東アジアの中で一番グローバリゼーションへの対応に遅れをとっているのは、日本ではないか。1997年のアジア通貨危機以降、韓国社会は大きく変化した。大学進学率の高さ、若年層の非正社員化、出生率の低下、国際結婚が総結婚数に占める割合(2005年では内外あわせて日本は7%、韓国13.6%)など、いい意味でも悪い意味でも日本の先を行っている。韓国人男性と外国人女性の結婚が急増するのが、2003年以降であるのはなぜかという私の疑問に、ハンさんは、仲介業者すなわちブローカーのいわゆる規制緩和が、急増の原因であると答えて下さった。人身売買と国際結婚は「紙一重」であるという古典的枠組みから現代もなお、脱しきれているわけではないことを再認識させる。海外で国際結婚するのは日本人であれ、韓国人であれ、女性である。一方で、日本であれ、韓国であれ、その国の男性と結婚をしているのは移住女性である。気になるのは、それが移動先の家父長制権力構造の温存につながる場合が多々あることだ。さらに、移住女性に対する支援従事者も大半が女性である。女子大の教員として、韓国と日本に残る21世紀の「女子大」の役割とは何だろうか。「市民力」(国籍不問)とは何だろうか。グローバル時代における「移民の女性化」は、人種あるいは国籍を問わないだけでなく、ますます多様化していく。

韓国における国際結婚
韓国国家統計ポータルより作成。各年の動態統計。