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国際人権ひろば No.74(2007年07月発行号)

特集 ジェンダーを考える-セクシュアル・マイノリティの現状から Part1

QWRCの取り組みとLGBTIの現状

ゆやま なおこ QWRCスタッフ

■ LGBTIの生きづらさの背景とは?


  私たちの社会では、人は「女」と「男」のふたつに分けられ、「女」が「男」を、「男」が「女」を性愛の対象とすることが当然とされている。LGBTI(レズビアン[1]、ゲイ[2]、バイセクシュアル[3]、トランスジェンダー[4]、インターセックス[5])は、いずれも2分化された性別、あるいは異性愛という強い枠組み<このふたつは連動している>の中で、極端に言えば「異常」とされてきた人たちである。治療、矯正されるべき対象と見なされてきた歴史もある。もちろん、L・G・B・T・I、それぞれの置かれている状況は異なり、ひとまとめにするのは難しい。それでも、それぞれが抱える生きづらさには、共通の背景があると言えるだろう。

  かつて同性愛は精神医療において治療すべき病気とされていたが、1990年には世界保健機関(WHO)の国際障害疾病分類(ICD10)から同性愛が削除されることが決まった(ICD10が出版されたのは93年)。最近では2004年のアメリカ大統領選において「同性婚」が争点のひとつになり、日本のメディアでも頻繁に取り上げられた。また、同じく2004年、日本において「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」が施行され、特定の条件を満たす者に限られているが、性別を移行することが法の上でも認められるようになった(残念ながら、バイセクシュアルとインターセックスについては、大きなトピックを思いつかない)。インターネットの普及もLGBTIの状況を変える一因になっている。情報を得ることが容易になり、当事者同士が出会える機会も増えた。異常、あるいは見えない存在として軽視されてきたLGBTIを取りまく状況は少しずつだが変化している。では、現在、LGBTIはどのような生きづらさを抱えているのだろうか。

■ QWRCの活動について


  QWRC(くぉーく)は、LGBTIなど多様な性を生きる人々のためのリソースセンターである(場所は大阪市)。LGBTIをテーマにしたミニコミや書籍を収集しており、図書館機能を備えつつ、事務所をミーティングの場所として、様々な個人や団体に貸している。主に、LGBTIの当事者らによる勉強会や自助グループの場として利用されている。...と書くと、とても立派な施設と思われるかもしれないが、12畳ほどの小さなスペースで、20人も入ればギュウギュウになる。活動の主な財源は会費であり、2000冊を超えた蔵書はすべて寄贈、スタッフの活動もすべてボランティアだ。ささやかな活動だが、2007年現在、オープンから5年目を迎えている。QWRCと同じようなLGBTIの活動拠点となっているスペースは、関西で数箇所程度、日本全体でもそう多くはない。LGBTIがどのような生きづらさを抱え、その現状を変えるために何が必要か-QWRCの取り組みから、私たちの考えを紹介したい。

■ ユース、家族・友人へのサポート


  QWRCは、スペース運営のほかに様々な事業を展開している。そのひとつが啓発講座である。初年度の講座では、次の3つのテーマを大きな課題として挙げた。「ユース(青少年)のサポート」「家族のサポート」「性の多様性と医療」である。
  QWRCでは、講座で「ユースのサポート」を取り上げたことを発端に、2006年から「カラフル」という事業をスタートさせた。LGBTIのユース(カラフルの場合、23歳以下)を対象に、「セクシュアリティ」「恋愛」「カミングアウト」「働く」などテーマを決め、同世代の仲間と話のできる機会を作るものだ。
  23歳以下と言えば、高校生から大学生ぐらいの年代であり、経済的に保護者に頼っていることが多い。保護者の側に偏見があると、同じ立場の友だちを作ろうと思っても、人間関係が制限されてしまう。中には監禁に近いような扱いを受けているLGBTIのユースもいる(例えば「女装をしている息子は家の恥だ」という理由で)。また、保護者の価値観を本人が内面化していて、自己肯定できないことも多い。さらに、学校で自分の性のあり方について友人に相談することは容易ではない。カミングアウトすることによって疎外されるかもしれないからだ。うまくカミングアウトできても、LGBTIであることの生きづらさについて共感を得るのは難しい場合がある。LGBTIは、ポツンと一人で生きているわけではない。生育家族をはじめ、学校や、職場、自分で作っていく新しい家族など、いろんな人間関係を持っている。周囲の人々にカミングアウトした時に理解が得られるか、あるいは「変わった人」「異常」と思われるか、本人にとってどちらが生きやすいかは自明のことだろう。「カラフル」が、若い世代にとって安心して自分を表現できる場であってほしいと思うし、そのような場所が今後、さらに増えることを期待している。
  では逆に、カミングアウトされた周囲はどうだろうか。本人との関係が近いほど葛藤が起きるかもしれない。息子にゲイであることをカミングアウトされた親、母親に女性のパートナーがいることを伝えられた子ども、夫に「女性として生きたい」と言われた妻、恋人にインターセックスであることを告げられたら? QWRCでは毎月1回、電話相談を実施しているが、実際に当事者だけでなくその家族やパートナーからの相談も多い。LGBTIの当事者だけでなく、周囲へのサポートが必要である。(電話相談は毎月第1月曜日、19時30分?22時30分。06-6377-5447)。

■ LGBTIと社会制度


  初年度の講座で取り上げた3つめのテーマ「性の多様性と医療」では、LGBTIは不適切な治療をされている、または、医療を受ける機会を阻害されていることに焦点を当てた。(具体例は詳しい書籍に譲る。「医療・看護スタッフのためのLGBTIサポートブック」メディカ出版,2007年)。当然のことだが、LGBTIも地域の中で生活している。学校に通い、働き、医療・福祉・行政の制度やサービスを利用し、子どもを育てている人もいる。しかし、医療・福祉・行政、生活のあらゆる場面でLGBTIの存在について想定されていることは、ほとんどない。
  一例として、DV(ドメスティック・バイオレンス)について考えてみよう。DVは、特にパートナー間の暴力を指すが、ゲイ(あるいはレズビアン)カップルの間でDVが起こった時に、被害者は警察や福祉事務所に相談できるだろうか。おそらく、パートナーとの関係を説明することに躊躇するだろう。偏見や差別的な意識が根強く残っていると感じている当事者は多い。実際、対応できる相談窓口はほとんどないのが現状である。また、DV防止法に基づく保護命令制度は被害者の安全等を確保するためにあるが、同性同士のパートナーシップが事実婚に相当しないという解釈から、同性間DVの被害者を排除している。トランスジェンダーが法的な性別を変更していない場合、外見的には女性と男性の異性愛のパートナーシップに見えても、法的には同性同士の場合がある。この場合も同様に排除される。では、DV防止法を離れて、身体的暴力があった場合に暴行として事件化できるだろうか。警察を含め相談機関に頼れないという現状は同じである。心身の健康を損ねるような場合ですら、特有の背景について考慮されていないために、被害者が支援を受けられない状況を放置することは行政の不作為である。
  「性の多様性と医療」というテーマを発端に、私たちは改めてLGBTIが医療だけでなく多くの制度で排除されている現実を確認した。LGBTIが利用できる社会資源をどう開拓するか、考え、実現していく必要がある。

■ おわりに


  少しイメージしてほしい。LGBTIといっても、ある日どこからかやってきた宇宙人ではない。人のつながりの中で生きているひとりの人間である。学校や職場、病院、区役所の窓口、近所のスーパー、あらゆる生活場面に存在する。他の人と同様に、友人や恋人、家族などの多様な人間関係を持っている。また、突然変異で現れたものではなく、昔からずっと存在していたのだ。
  これまでは「異常」とされ、声を上げられなかったLGBTIが、時代の変化を受け、その存在を少しずつ明らかにしてきている。そして、身の回りで感じる不自由について、正直に「不自由だ」と言いはじめている。これは特別なことではない。偏見や差別意識は残るものの、LGBTIが「異常」とされる時代は終わりを迎え、これからは、性の多様性がひとつの権利として認められ、社会制度が変化していく時代に入っているのではないだろうか。
  私たちQWRCは、その時代の変化の中で、当事者の必要とする情報を発信しつづけたい。

1. 女性の同性愛者。
2. 男性の同性愛者。
3. 両性愛者。
4. 出生時にふりわけられた性別に違和感をもつ人。
5. 半陰陽とも言う。外性器・内性器・内分泌系、ときには性染色体等が、典型的とされる女性・男性とは異なる特徴を持つ人の総称。