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国際人権ひろば No.70(2006年11月発行号)

特集・持続可能な開発と人権-東南アジアの現実から考える Part5

持続可能な開発と大気汚染公害~地域再生にむけたESDの課題

林 美帆 (はやし みほ) あおぞら財団(財団法人公害地域再生センター)

  本稿は、2006年9月14日(木)きんき環境館で開催されたESD-K第1回勉強会「大気汚染公害と地域再生(ESD)」の報告要旨である。当日は、パワーポイントを活用したとてもわかりやすい報告で、持続可能な開発(SD)とは「持続可能な地域づくり」であり、日本でESDを進める上で大切なことは、日本の公害の経験(被害の実態と地域再生へ住民のとりくみ)をふまえた環境学習・人権学習として進める必要性を提起いただいた。以下に、報告の要旨と報告資料の一部を紹介する。

■あおぞら財団とは

<資料>原告勝訴を伝える新聞記事
(あおぞら財団編『西淀川公害に関する学習用パネル』解説・資料集より)
新聞記事:『排ガス 国・公団に責任/[西淀川公害訴訟] 総額6500万円賠償命令』

図1,2,3
  あおぞら財団(正式名称は財団法人公害地域再生センター)[1]は、西淀川公害訴訟の和解金の一部を基金に、1996年9月に環境庁の許可を得て大阪市西淀川区に設立された。大阪西淀川公害訴訟(大気汚染裁判)は、1978年に国、阪神高速道路公団、企業を相手に住民が訴えたもので、わが国で最大の原告を数える公害裁判[2]である。提訴から14年目の1991年、大阪地裁が原告住民勝利の判決を出し、95年3月、被告企業9社との間で和解が成立し、両者が西淀川地域の再生のために努力しあうことを確認した。 そして和解金の一部を基金に、あおぞら財団が設立された。この年、国と阪神高速道路公団に対しても裁判で原告が勝利し、自動車の排ガスによる健康被害を認めた初めての判決であった。98年には国と阪神高速道路公団とのあいだにも和解が成立し、原告の住民が賠償金を放棄し、国は道路公害対策を強化するように約束した。この西淀川のとりくみは全国に影響を与え、各地の公害裁判では、原告の住民がすべて勝利することとなった。
  現在、あおぞら財団は、(1)公害のないまちづくり、(2)公害の経験を伝える、(3)自然や環境について学ぶ、(4)公害病患者の生きがいづくり、(5)みんなとつながることを目指し、西淀川地域において様々な活動を続けている。[図1]

■現在も続く大気汚染


  持続不可能な開発が、かつての日本の公害を生じさせたが、大気汚染公害は、現在も進行中であり、なくなってはいない。大気汚染の主な原因は、SO2(二酸化硫黄)、NO2(二酸化窒素)、SPM(浮遊粒子状物質)である[図2]。しかもNO2やSPMは目に見えない物質である。実際、大気汚染は緩和したかのように見えるが、小学生のぜん息被患率は10年前の2倍まで上昇し(2002年)、特に大阪市では全国と比較して被患率が高い。このように大気汚染は目に見えない状態で現在も続いている[3]

■持続可能な社会づくりのためのアジアのネットワーク


  あおぞら財団では、持続可能な社会の構築のため、この地域での経験を日本の他地域やアジアを中心に世界各国に発信している。さる7月3日~12日までの10日間、韓国の司法修習生のグループが、公害・環境訴訟についての研修を受けるために来日し、東京と大阪で過ごした。[図3]
  2000年から続くこの研修では、あおぞら財団は大阪での受け入れ事務局をつとめたが、今回はこれまで最大の18名の参加者で、大気汚染、自然環境保全、薬害などの訴訟の第1線で活躍する講師陣と熱い議論を交わした。[4]

■「公害」ゆえの難しさ


  1998年9月に、あおぞら財団が行った土壌汚染調査に関する記事が読売新聞に掲載された。このことで、地域住民が受けたショックは大きく、あおぞら財団にとっては、住民と信頼関係を築くことの難しさを痛感させられた出来事であった。これは、外から見た「公害」(この場合は新聞記者の眼)と地域住民にとっての「公害」の重みが違うことを意味する。新聞記者は記事として公表することが最善であると捉えたのであろうが、地域住民にとって「公害」とはマイナスの記憶であり、土地の価値を落とす(風評被害)情報でしかないと捉えられがちである。その地域から引っ越せばいいという問題でもないので、かつて「公害のまち」とよばれた地域がどのように再生しつつあるのかも加味した視点が望まれる。大野川緑陰道路の設置など公害問題を住民運動で解決してきたという輝かしい歴史も積極的に伝えるべきである。

■あおぞら財団が考えるESDのイメージ


  かつて「公害のまち」とよばれた西淀川地域(大阪市)での悲劇を繰り返さないために必要なのは、これらの経験を次世代へと伝えていくことが大切だと考えている。そのためには、地域の多様な人や組織が連携し地域や環境について学び実践できる恒常的な体制や仕組みが必要であり、公害をベースにした環境学習(エコ・ミューズや大阪府立西淀川高校と協働するあおぞらプランなど)が進められている[5]。「西淀川・公害と環境資料館(エコミューズ)」はあおぞら財団付属の資料館で、西淀川大気汚染公害の住民運動や裁判に関する訴訟記録などの公害・環境問題資料を中心に西淀川地域に関する資料などを所蔵し、フィールドワーク参加者や学校教育関係者に情報提供をおこなっている。
  2005年からESD(持続可能な開発のための教育)10年がスタートしたが、持続可能な開発(SD)とは「持続可能な地域づくり」であり、「地域再生」の動きであると捉え、地域づくりに向けた活動も行われている。日本でESDを進める上で大切なことは、日本の公害の経験(被害の実態と地域再生へ住民のとりくみ)をふまえた環境学習・人権学習を推進することだと考え、実践している。その一方で、地元行政(大阪市)との連携をさらに深めることが課題となっている。

1. あおぞら財団のホームページ参照。
2. 1960年代の水俣病訴訟・イタイイタイ病訴訟・新潟水俣病訴訟および四日市公害訴訟のいわゆる4大公害裁判に引き続き、70代から80年代にかけて千葉、西淀川をはじめ名古屋、尼崎、倉敷など全国各地で大気汚染公害裁判が起こされた。『環境白書』など参照。
3. 文部科学省「学校保健統計調査」参照。
4. あおぞら財団発行「Libella」No.92(2006年9月号)参照。また中国をはじめ海外NGOとの交流にもとりくみ、日本の公害に関する中国語資料なども発行している。
5. あおぞら財団では、環境学習・人権学習を推進する教材としてビデオ『手渡したいのは青い空-未来からのメッセーシ』、学習用パネル『知ってますか?西淀川の公害』、地域の大気汚染の変化を学び対策を考えるためのSCPブロックを使ったワークショップ教材などを発刊。