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国際人権ひろば No.66(2006年03月発行号)

アジア・太平洋の窓 Part1

アジアに人権の灯を燃やせ -ソウルで「第1回アジア人権フォーラム-アジアにおける児童労働と人身売買」開催

朴 君愛 (パク クネ) ヒューライツ大阪主任研究員

  2006年2月6日~7日、韓国ソウルの高麗(コリョ)大学にて、アジアにおける児童労働や人身売買をテーマにしたフォーラムが開催され、国際的な活動を展開している人権専門家をはじめNGO、国際労働機関(ILO)関係者、大学生など8ヵ国の海外ゲストと参加者を含め、会場一杯の約200人が参加した。日本からはヒューライツ大阪(筆者)とコメンテータとして川村暁雄・神戸女学院大学助教授が参加した。
  このフォーラムは、2006年1月に発足した「アジア人権センター(Asia Center for Human Rights)」(事務局:ソウル)が中心となって、「Anti-Slavery International(国際反奴隷協会)」(事務局:ロンドン)、高麗大学大学院国際学研究科などと共に主催して行われたもので、東亜日報、韓国労働部(省)、韓国国家人権委員会などが後援した。以下、フォーラムのプログラムに沿って内容の概要を紹介する。

■アジアの人権保障システム実現に向けて


  2月6日の開会行事では、アジア人権センター所長で、慶北大学のホ・マンホ教授が主催者あいさつを行なった。ホ所長は、人権の考え方は西洋固有のものではないと述べる一方、東北アジアの国際情勢を含めてアジア地域には人権促進の壁となる様々な困難があるという認識を示しながらも、この集まりをアジアの人権保障システムの実現に向けた一歩として位置付けたいという思いを語った。
  また、共催を担ったAnti-Slavery Internationalのデービッド・ウルドゥ代表は、奴隷制度が過去の歴史として終止符を打ったのではなく現代的奴隷制が多様な形をとって人々をさいなんでいることを訴え、このフォーラムが、アジアにおいて各国政府に人身売買を根絶するための措置をとるよう促し、被害者の人権保護のために国を越えた政府、NGO、国際機関の緊密な協力関係を強める一助となることを期待していると語った。

■アジア各地の取り組みを支える市民の理解と関心を


  基調講演は、子どもの人権についての専門家であり、現在、北朝鮮の人権状況に関する国連特別報告者であるタイ・チュラロンコン大学のビティット・ムンタボーン教授が行った。ムンタボーン教授は、アジア地域における児童労働と人身売買の状況の分析、これに対処する道具となりうるILO第182号条約「最悪の形態の児童労働に関する条約」などの国際人権文書や解決に向けた道筋について述べた。
  続いて、「アジアの児童労働」「アジアの子どもの人身売買」「アジアでの最悪の形態の児童労働との闘い」の3つのテーマに基づいて、アジア各地の現状と解決に向けた活動について報告がなされた。
  セッション1「アジアの児童労働」では、東南アジア各国での他人の家で家事労働に従事する子どもたちの実態調査の報告、ネパールのじゅうたん産業における児童労働根絶に向けた活動、インドの子どもの債務労働問題への取り組みについて発表があった。
  セッション2「アジアの子どもの人身売買」では、食糧難などで国境を越えて中国に渡った中朝国境付近の北朝鮮の子どもたちの人権状況の報告、インドの子どもが人身売買によって過酷な労働を強いられている実態と被害者の救出・リハビリ活動の報告、商業的性的搾取にとどまらず、結婚や養子縁組などを装って行われている人身売買の実態報告があった。
  北朝鮮の子どもたちの状況に関しては、Anti-Slavery Internationalのノルマ・カン・ムシコさんが報告したが、北朝鮮国内では、現在でも4万人が栄養不良で死亡しているといわれ、また中国に流入した子どもたちは人身売買の危険にさらされ、本国に強制送還された場合に子どもでも厳しい処罰を免れないという事例が紹介された。
  セッション3「アジアでの最悪の形態の児童労働との闘い」では、ILOが関わるプロジェクトの紹介として東アジアと東南アジアの子どもと女性の人身売買防止のための取り組みについての報告、性的搾取を目的とした人身売買の状況とメコン川流域における被害者救出・HIV感染者へのケア・社会復帰などの活動についての報告、フィリピン政府による反人身売買への取り組み-「2003年人身売買禁止法」や国家による行動計画(2004-2010)、関係省庁間の連携など-が報告された。
  次の討議では、韓国より先に人身売買問題に直面してきた日本でのこれまでのこの問題に関する政策の問題点やNGOの取り組み、問題解決のための日本政府の行動計画(2004年12月)の概要と課題などが報告された。
  フォーラム全体を通じて、グローバル化の進展が児童労働や人身売買の状況を一層悪化させており、アジアのいたる所でこうした人権侵害が発生しているという事実が共有された。そしてこれを根絶する仕組みを作るには国際的なネットワークの強化とこれを支える世論、つまり人々の人権への理解と関心が必要であるということが強調された。

■若者が国際人権に出会う場に


  会場参加者の相当数が韓国の若者層で、質疑応答でも若者を中心に活発なやりとりがなされた。また韓国政府関係者、国家人権委員会、韓国の人権NGOに加え、駐韓する大使館関係者の参加を含めると26ヵ国からの参加があり、このフォーラムが韓国内で関心が持たれていることを感じた。韓国ではすでに東南アジアなどから韓国の性産業に送り込まれた人身売買の被害者が少なからず存在しており、また日本や北米などの性産業への送出国でもある。最近、日本へ人身売買された韓国の被害女性がブローカーを相手取って裁判に訴えるという事件も起こっている。しかし国際的な人身売買問題について市民の関心はまだ低く本格的な取り組みはこれからだという。
  フォーラム終了後の2月7日午後から8日にかけて、韓国の青年層を対象にした「第2回青年人権活動家ワークショップ」が同じ会場で開催された。フォーラムに参加した人権専門家が講義をしたり、若者同士でグループ討議をするなどのプログラムが企画された。大学生を中心に約80名の若者たちがフォーラムに引き続いて参加し、活気ある人権トレーニングの場になったという。フォーラムの会場では、若い女性ボランティアが目立っていたが、ワークショップでも参加者の4分の3が女性であった。

■東北アジアで人権を軸にしたパートナーシップを場に


  アジア人権センターのユン理事長は、韓国で長年にわたり人権NGOの活動にかかわってきた。かつての軍事独裁時代にはアムネスティ・インタ-ナショナル韓国支部のメンバーとして、政治犯の裁判や人権擁護のために奔走し、1996年からは「北韓人権市民連合」を設立し、北朝鮮の人権問題について提起してきた。アジア人権センターは、北韓人権市民連合の活動を担ってきたメンバーが中心となって、アジア地域全体の人権の向上をめざして設立されたのである。
  ユン理事長は、「人権は普遍的であるべきで、東北アジアの人権の未来のために日本と韓国がよきパートナーになっていかねばならない。アジア人権センターは、広い視野を持った次世代を育てることにも力を注ぎたい」という趣旨の発言を筆者にした。北朝鮮の人権問題をどう見るのか、韓国の人権NGOの間でも様々な見解があり、議論が交わされているところである。
  会議のまとめでは、このフォーラムを通じてつながった人権のネットワークを様々な形で生かして、具体的な行動に移していこうという提案がなされた。
  筆者は今回の会議に参加し、東北アジアにおける人権の前進を願うなら、そこに生きる市民が、政治的な思惑に左右されることなく、人権の共通基準を深く理解し、現実を冷静に分析する力を蓄積しなければならいと痛感した。そのための学びと対話の場として、こうした国際規模の会議に、日韓の若者や市民が参加できる機会を積極的に作っていくことができればと思う。

<参考>
 アジア人権センター (英・韓)
 Anti-Slavery International (英)