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国際人権ひろば No.65(2006年01月発行号)

特集 アジアの子どもの人権 Part5

国連・子どもの権利委員会、一般的意見7で乳幼児の権利主体性を強調

平野 裕二 (ひらの ゆうじ) ARC代表

  国連・子どもの権利委員会(以下「委員会」)は、第40会期(2005年9月12~30日)、「乳幼児期における子どもの権利の実施」に関する一般的意見7号を採択した。(以下、〔 〕内の数字は未編集版のパラグラフ番号)
  今回の一般的意見は、第37会期(2004年)に同じテーマで開催された一般的討議の勧告を踏まえたものである。一般的討議の勧告では不十分であった多くの点について改善が見られ、より体系的で、乳幼児期に特有の側面に配慮した内容となっている。
  この一般的意見は、子どものライフサイクルにおける特定の時期に焦点を当てた委員会の見解としては、「子どもの権利条約の文脈における思春期の健康と発達」に関する一般的意見4(2003年)に続くものである。「乳幼児期」は、乳児期(出産から生後1年まで)、就学前の時期および学校への移行期を含むものとして定義され、年齢上のいちおうの目安は8歳とされている〔4〕。

■乳幼児期からの基本的権利の保障


  「乳幼児期が、これらの〔子どもの権利条約上の〕権利の実現にとってきわめて重要な時期である」〔1〕ことは、国際的に広く認識されてきた。「幼い子どものケア」について特集した『世界子供白書』2001年版でユニセフ(国連児童基金)が強調したように、「子どもの権利の保障は子どもの人生のスタートの時点で開始されなければならない」(日本語版9頁)。
  委員会もこのことを十分に認識し、「とくに権利を侵害されやすい立場に置かれた子どもを対象とする、乳幼児期のための包括的政策およびプログラム」と題した章〔18~30〕で、出生登録〔21〕、生活水準と社会保障〔22〕、健康のための条件整備〔23〕、乳幼児期の教育〔24・25〕、休息・余暇・遊びに対する権利〔29〕などの基本的権利の保障のあり方について詳しく述べている。
  重要なのは、これらの権利保障は「権利を基盤とする部門横断型の戦略」〔18〕でなければならないということである。少子化への歯止めなど他の政策目的を第一義とする対応は、今回の一般的意見、ひいては子どもの権利条約の趣旨を反映したものとは言えない。
  権利を基盤とする戦略の重要な要素は、条約の一般原則のひとつに数えられる差別の禁止(2条)である。一般的意見では、(a)女子差別、(b)障害児差別、(c)HIV/AIDSの影響を受けている子どもに対する差別、(d)民族的出身、階級/カースト、個人的状況またはライフスタイル、政治的・宗教的信念などを理由とする差別、(e)難民・庇護希望者の子どもや婚外子など親の地位を理由とする差別、(f)複合差別などをとくに取り上げ、締約国の注意を促している〔9〕。
  このような子どもたちが上述のような基本的権利を剥奪され、ユニセフ『世界子供白書』2006年版の特集テーマである「排除される子ども・目に見えない子ども」(the excluded and the invisible)となってしまわないように、格段の注意が必要である。

■権利の主体としての乳幼児


  このような基本的サービスにすべての子どもがアクセスできるようにすることは必須条件であるが、それだけでは、やはり子どもの権利条約の要件を満たしていることにはならない。生まれた瞬間から乳幼児を権利の主体として扱い、その権利行使を奨励・支援していくことが同時に求められる。
  乳幼児が「権利の保有者/社会の積極的主体」であることは、一般的意見7の全編を貫く基調である。このことは、幼い子どもはけっして無力ではなく、生まれたときから環境と積極的に相互作用し、主体的に成長発達していく存在であるという、最新の研究成果を反映した知見でもある。
  そこで委員会は、今回の一般的意見の冒頭で「乳幼児は条約に掲げられたすべての権利の保有者である」と宣言する〔1〕とともに、「乳幼児は権利の保有者である」との小見出しを付した独立のパラグラフ〔3〕を設けてこのことを強調した。乳幼児期政策についても、「乳幼児期における権利保障のための積極的アジェンダ」が要求されるとして、次のように述べている〔5〕。
  「乳幼児期を、未熟な人間が成熟したおとなの地位へと向かっていく社会化の時期としてもっぱらとらえる伝統的考え方からの転換が必要である。......乳幼児は、独自の関心、興味および視点を持った、家族、コミュニティおよび社会の積極的構成員として認められるべきである」。
  乳幼児がこのような積極的行為主体であるという認識は、さまざまな表現を用いながら随所で表明されている。
  とはいえ、幼い子どもの意見表明・参加のあり方は、たとえば思春期に達した子どもの場合とは異なる点が少なくない。委員会もこのことを十分に認識し、条約の一般原則のひとつである子どもの意見の尊重の原則(12条)について述べたパラグラフ〔11〕でも、見出しを「乳幼児の意見および気持ちの尊重」(強調筆者)として乳幼児の特性に配慮している。「乳幼児は、話し言葉または書き言葉という通常の手段で意思疎通ができるようになるはるか以前に、さまざまな方法で選択を行い、かつ自分の気持ち、考えおよび望みを伝達しているのである」〔11〕。
  このような特性を踏まえて乳幼児の意見表明・参加を促進するためには、意見・気持ちを表明する子どもの能力ではなく、子どもの意見・気持ちに耳を傾けるおとなの能力こそが問われなければならない。委員会は、この点について次のように述べている〔11(c)〕。
  「参加の権利を達成するためには、おとなが子ども中心の態度をとり、乳幼児の声に耳を傾けるとともに、その尊厳および個人としての視点を尊重することが必要とされる。おとなが、乳幼児の関心、理解水準および意思疎通の手段に関する好みにあわせて自分たちの期待を修正することにより、忍耐と創造性を示すことも必要である」。

■親のエンパワメントも必要


  もちろん、乳幼児が意見表明権・参加権を含むさまざまな権利を行使していくにあたっては、親をはじめとするおとなによる適切な指示・指導が必要である。このことは条約5条でも認められている。しかしそれは、権利行使を可能にする(enabling)積極的原則としての「発達しつつある能力」の原則にのっとって、たとえば「対話することおよび模範を示すことを通じ、乳幼児の権利行使能力を増進させるような、子ども中心の方法で」提供されなければならない〔14〕。
  親が適切な形で子どもの権利行使を援助できるようにするためには、親・養育者のエンパワメントが必要である〔26〕。そのためには、教育やカウンセリングのみならず、親の置かれた状況を向上させるための施策が求められる。「子どもの権利の実現は、相当程度、そのケアに責任を持つ者のウェルビーイングおよび利用可能な資源に依拠している」〔17〕からである。したがって、「より直接的な結果につながる介入策(たとえば母子を対象とする産前保健サービス、親教育、家庭訪問)」のみならず、「子どもの最善の利益を促進する親の能力に間接的に影響を及ぼす介入策(たとえば税制および諸手当、十分な住居、労働時間)」も重視されなければならない〔17(a)〕。
  子どものレジリエンシー(回復力)についての言及がないことなど、なお不十分な点はあるにせよ、今回の一般的意見では、乳幼児期における子どもの権利保障についてかなり総合的な視点が確立されたと評価することができる。日本の「子育て支援」政策を問い直すうえではもちろん、発展途上国の子どもたちの援助のあり方を考えるうえでも参考になる内容である。

※一般的意見7の日本語訳は筆者のウェブサイトに掲載予定。

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