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国際人権ひろば No.51(2003年09月発行号)

現代国際人権考

ヒューライツ大阪に期待すること

畑 祥雄(はた よしお) 写真家・関西学院大学教授・IMI大学院スクール副理事長・ヒューライツ大阪企画運営委員

「国境なき教育団」を日本的なメディアに!


 私が提唱している活動に「国境なき教育団」がある。20世紀に日本が世界に大きく貢献したことのひとつに「国境なき医師団」の活動がある。その背景には常に批判的に使われる「曖昧な国・日本」の立場が逆にプラスに働いた例であろう。政治的・宗教的にも国家としての強烈な主張がないことが幸いし、純粋に医療技術の高さや献身的な活動が紛争地域や貧困地域で評判が高かった。この医療活動は身体的な危機からの緊急救助であり、次は人々が自立的な生活能力を高める教育への支援が求められる。その時も「曖昧な国・日本」は強みになる。爆弾を投下する国と同じ国の医師団からの治療は受け入れがたく、価値観の押し付けを背景に持つ教育支援にも拒否感があるからだ。
 具体的な活動のひとつにサイエンス映像の教育番組の提供がある。サイエンスの中でも医療分野は特に国境を越え易い。長生きと健康は人類の共通の願いであり、逆に文化番組には慣習や死生観など民族独自の選択があり押し付けはきらわれる。共通性が高いサイエンスをわかり易く教室で伝えていくには、実験の体験と映像による疑似体験が求められる。特に身体の中にある心臓など臓器の働き、何億光年もの遠い宇宙にある惑星の環境、あるいは古代の出来事を可能な限り正確に再現していく時などコンピューター・グラフィックス(CG)を使い視覚化していく。
 例えば、スピルバーグ監督の「ジュラシックパーク」では実写の登場人物と恐竜のCG映像がつなぎめ無しにひとつの映像として物語が進んでいくように、この最先端の映像技術を使えば教育映像も子ども達の興味を引きながらドラマやゲームに負けない好奇心が進んでいく。このCG技術は10年前には1秒30万円と言われていたものが、現在では1分が30万円という低コストにまでコンピューターの進化により到達している。
 このような時代にあって、日本が果たす役割のひとつに教育分野でのサポート体制がある。情報技術の進歩は格差拡大にもつながるが、それぞれの国の中で管理されてきた教育が国境を越えて支援していくことも可能になった。既存の放送は限られた電波領域を使うため国ごとに管理されている。衛星放送は宇宙空間を使い国や地域を越える電波として管理が弱まったが、衛星の高コストな使用料がネックになり、電波を送り出す国と受け取る国の立場が固定される。
 しかし、インターネットの太い回線を使ったブロードバンド放送では、テレビ並の動画像が双方向で送受信できる。しだいに国家の力はより弱くなり地球全体として次世代の子ども達に何を伝えていくのかが大切になる。

生命全体を等価に捉える自然観から差別をなくす!


 そうしたなか、ヒューライツ大阪の役割は何であるのか。国内での差別への継続的な闘いと同時に国際人権との連帯というこれまでの実績と共に、もうひとつの目に見える活動として、まずは人権教育の教材の「収集・保存」と「多言語への翻訳・再編集」と「番組化と放送発信」の世界的な拠点になることも選択肢のひとつではないか。日本のヒューライツ大阪にアクセスをすれば、「国境なき教育団」の一活動として多様な人権教育の教材が揃いインターネットを通じて教育支援をする。しだいに分野を人権から環境問題や遺伝子が共生を繰り返し植物・動物・人間へと発展してきた「生命誌」を学ぶと、地球上の生命を等価に考える自然観がグローバルに共有できる。
 日本及びヒューライツ大阪は、欧米型の人権活動の基本を踏まえつつ、日本独自の役割で世界に貢献していくための好条件は揃っている。日本ではコンピューターの開発技術力があり、ネットワーク化が進み、教育や研究レベルが高く、放送技術の熟練度と蓄積があり、出版・編集技術に長け、多言語の研究や翻訳機関が揃い、政治的に安定し、経済的支援を得易い国際企業が集積し、特定のイデオロギーや宗教の価値観に縛られない。このような素晴しい地域に私達は住んでいる。しかし、上記の分野は業界ごとに分断され交流がないに等しい。国境を越えた人権活動との連携を求めつつ、国内の異分野間の協働を経て世界に貢献できる「国境なき教育団」は日本にしかできない役割でもある。

人権教育の教材コンクールからデータベース構築へ


 そのひとつに人権教育の教材をローコストで継続的に創造する方法として、約10分のサイエンス&カルチャー番組のアーカイブ化と編集加工化とネット配信化に取り組む案が取り上げられ、ヒューライツ大阪の10周年記念事業で人権教育の教材コンクール(集積化)をする企画として進行している。この受賞教材のライブラリー(保存化)と多言語化権(再編集化)の取得、約10分の教育番組の配信(貢献化)をこつこつと10年続ければ、世界一の人権教育の教材データベースになり、日本及びヒューライツ大阪独自の継続的な貢献活動が期待できる。私個人としても挑戦を続けたいテーマである。