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国際人権ひろば No.51(2003年09月発行号)

特集 カンボジア人権問題フィールドワーク Part2

「援助」ではなく「未来への投資」を ~Friendsがめざす持続可能なNGO

日暮 真理 (ひぐらし まり) 出版社勤務

 8月上旬の1週間、ヒューライツ大阪主催のカンボジア・スタディツアーに参加させていただいた。訪問先やリサーチ分野は人権と教育が主で、内容は非常に濃く、日々充実していた。ツアーを共にした学生や教員の方々との交流やクメールの雄大な遺跡見学、カンボジアの人々のゆったりとした心や礼儀正しさに触れたことも大きな収穫であった。
 ツアーでは様々な先を訪問したが、ここでは、プノンペンを中心にストリートチルドレンの問題に取り組むFriends(フレンズ)というNGOを紹介したい。当初は、その多岐にわたるプロジェクトや規模にただ感心するばかりだったが、説明を受けるうちにその使命-1人でも多くの子どもたちの現状を打開すること、そのために組織自体を円滑に回すこと-を果たし続けるためには、それなりの活動体制があるのだと気づいた。現在、多くのNGOが海外で活動しているが、人事や資金がからんだ継続性の面で行き詰まる団体も少なくない。以下に挙げる「Friendsの成功理由」にヒントが隠されているかもしれない。

■ Friendsとは


 Friendsは1994年に3人の欧米人が、当時のプノンペンのストリートに溢れる子どもたちを目の当たりにして、設立を思い立ったという経緯がある。現在、大手国際機関から個人レベルまでをドナーにもち、すべてのプロジェクトを合わせると、毎日約1,500人ものストリートチルドレンを対象に活動している。
 活動内容は、職業訓練、識字教育、ヘルスケア教育、シェルターの提供などで、路上の危険から子どもたちを守っている。その他、ストリートチルドレンの実態調査や運営資金調達のためのベンチャービジネスも行っている。
 プノンペンの施設はちょっとした寄宿学校程度の広さがあり、職業訓練教室、識字教室(図書室を含む)、体育館(レクリエーションルームを含む)、校庭、医療クリニックそして外国人などが外貨を落としていってくれるように、訪問者向けのレストランや民芸品ショップも備えている。

■ Friendsの存在理由


 Friendsの存在理由は明確だ。子どもが自活できるようにすること、が第一目的。次に、元の家族・地域社会・学校へ戻れるようにすること、子どもを取り巻くあらゆる危険から彼らを守ることだ。そのための活動プロジェクトは非常に実践的だ。

■ Friendsの成功理由


 Friendsが上記のような規模で、かつ効果的な活動を進めてこられた背景には、いくつかの成功理由があるように思える。私見であるが、以下3項目を挙げたい。

(1)目標はひとり一人きめ細やかに、解決アプローチは包括的に
 まずは、個別に、子どもから生活状況を聞き取り、今、直面している問題を明確にする。そして、解決するための最良の手段を設定することから始める。
 収入が必要な場合は、職業訓練を受けさせる。例えば、コック、美容師(理髪/ネイルアート)、電化製品の修理士などとして、すぐに収入につながるような技術を身につける。家族が地方に農地を持っていれば、郊外の農地で農作業の実習を受けさせる。家族から暴力を受けていたのなら、スタッフが家族に出向いて話し合う。路上で麻薬におぼれていたなら、リバビリやカウンセリングに誘う。そこまでモチベーションが上がらない子どもには、せめてHIV/AIDSの予防知識を与える。病気にかかっていたら、医者の診断を受けさせる。さらに、自らセンターにやってこない子どもたちのために、日々スタッフがストリートに出向いて、声をかけている。これらのケアはすべてFriendsの裁量で行なうことができる。例えば、プノンペンの施設内には医者が常駐しており、病院に連れて行かなくても即時に治療を与えることができる、などの利点は大きい。
 Friendsの「目玉商品」である職業訓練にはレベル設定があり(レベル1~3)、レベル3の試験に合格すると一人前とみなされる。実技・知識面共に、かなりのプロフェッショナルぶりだ。電化製品の内部構造の講義を受けていた青年のノートには、自筆で図や記号などが細かに書き込まれてあった。彼らは講義後、実際に家電製品店が持ち込んできた、壊れた冷蔵庫の修理をするのだという。
 このような教育は手厚い一方で、子どもたち自身が高いモチベーションを持ち続けなくてはならない。実際、レベル1や2が終わった段階で、またストリートに戻ってしまう子どもも少なくない。そうなると再び、路上で物乞いやキャンディーなどを売る不安定な生活をするのだが、そのようなことを防止するために、センター内ではスポーツ用具や図書室、レクリエーション(絵画、伝統舞踊など)を充実させたり、Children's Dayなどの催しを設けたりして、彼らの好奇心ややる気を維持させるように努めている。
 このようにさまざまな境遇にいる子どもたちに個別対応している点と、「ストリートチルドレン」の抱える問題のある一面を取り上げるのではなく、包括的なアプローチをとっている点がFriendsの優れている点であると考えられる。

(2)数々のベンチャーを持つ
 上記のような諸プロジェクトを可能にするには、それなりの資金が必要で、ドナーからの寄付だけでは賄えない。そこで、Friendsは自らベンチャービジネスを立ち上げている。具体的には、レストラン、カフェ、ネイルアートショップなどの経営で、これらには欧米系の若いボランティアがマネージメントに関わっているせいか、とても"いけてる"店構えになっている。ここのスタッフとなった子どもたちは、さぞ誇らしげに働いていることだろう。その中でも経験を積んだ者は、単なるスタッフではなく、組織の経営や財務の仕組みも学び、独り立ちできるような立場を経験していく。

(3)外部者は外部者として関わる
 次に外国人の寄付(金)やボランティアに関してであるが、まず、Friendsは寄付を受けやすい体制を整えている。寄付する側は、寄付金の用途先指定や四半期ごとの経過チェックをすることができる。また、ウェブサイトでは、予算配分や資金不足のプロジェクトの情報を詳細に公開している。欧米各国(スイス、フランス、オーストラリア、US)の銀行に振込み先口座を設けていることも細かい点だが大切だ。
 外部者がボランティアをしたい場合であるが、専門資格を持つ者、例えばソーシャルワーカーや弁護士などの貢献が望まれている。外国人は現地スタッフへのマネージメントなどのアドバイスをすることが期待されており、基本的には、直接子どもたちとはやり取りをしない。これは、現地では現地人が働く、という現地主義、つまり長期的なFriends存続のためである。このように、Friendsが現地スタッフに対しても、そこで学ぶ子どもたちに対しても大きな自由裁量を認めているのは一見自由であるが、自らを律するという点において、実際にはなかなか厳しいことだ。これは、最大限を当事者に委ねないと本当の目的は達成できない、ということであろう。つまり、Friendsの活動はできるだけ現地のカンボジア人に委ね、組織の継続性を維持しなくてはならない。そして、学ぶ子どもたちは自分の安定した生活を実現するために、与えられた環境を生かさなくてはならない、ということである。

■ 子どもたちに託す将来への「投資」


 当然であるが、NGOはサポートする側を満足させるためにあるのではない。NGOが自らの組織を維持するためには、一定の規定があり、その中でそれぞれ(ドナー、海外スタッフ、現地スタッフ、そして子どもたち)が与えられた役割を担わなくてはならない。ここに「援助」ではなく、将来への「投資」を見た思いがした。彼らが目指すところは、一方的に与える「援助」ではなく、カンボジアという国の将来、つまり未来を担う子どもたちへの「投資」なのである。

ストリートチルドレンの内わけ
  路上で生活する子どもたち:1,200人
  路上で仕事をする子どもたち:10,000~20,000人
  路上で家族とともに生活する子どもたち:500~1,500人

(参照:Friendsのウエブサイトhttp://www.streetfriends.org)