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国際人権ひろば No.48(2003年03月発行号)

現代国際人権考

戦争と人権について考える

岡本 知明 (おかもと ともあき)
財団法人 大阪国際平和センター(ピースおおさか)理事長・ヒューライツ大阪理事

 人権にとって戦争は最大の暴力である。今、米国はイラクを武力攻撃する口実に大量破壊兵器や細菌・科学兵器の放棄を求め、国連の査察打切りを促している。しかし、マスコミ等で報道される世論調査によると、例えば91%の人が国連による査察継続を支持する(03年2月17日付け毎日新聞)など、日本の市民の大多数がイラク攻撃に反対している。
 それは、アジア太平洋戦争での日本の都市に対する無差別絨毯爆撃、広島・長崎への原爆投下、ベトナム戦争の枯葉剤作戦、湾岸戦争での劣化ウラン弾など、米国の大量殺人兵器による攻撃によって、非戦闘員の犠牲がいかに大きかったかの事実を知っているからだと思う。さらに、最近の地域紛争・民族紛争では女性・子ども・老人などの膨大な難民を生み、その悲惨な状況をみているからだろう。だから「何より大切なのは、国連の査察が無事終わり、戦争が回避される」ことを強く願っている戦後の日本市民の人権意識の高揚と受け取ってよいと思う。

アメリカ大陸の先住民


 私は1982年の第2回国連軍縮会議に参加した際、アメリカ先住民と交流の機会を得た。そして、「合衆国先住民の歴史」を紹介してもらった。西部劇にみられる白人からみたアメリカ先住民の価値観に日本人がいかに洗脳されているかを知った。
 合衆国の先住民たちは、コロンブスのアメリカ大陸到達を機に、「インディアン」を呼ばれるようになった。以来、続々と上陸する白人入植者によって先住民は圧迫されていった。入植者は一方的に土地と資源を奪った。先住民たちは抵抗し立ち上がったが、弓や槍に対して圧倒的火器を誇る白人にとって、先住民の抵抗は赤子の手をひねるような状態であった。武力制圧のみならず懐柔策もとられ、聖書とアルコールを用いて行われた。それでも、屈しない部族には、チフスやコレラ菌のついた毛布を投げ込むという細菌戦にまで及んだ。先住民の生活は、野蛮で汚いものとして駆逐されたのである。
 19世紀まで続いた駆逐に対して「インディアン」も組織的な抵抗を続けたが、多くは逃げのびることに終始し、駆逐が終わってみると最初に150万人もいた先住民は、25万人に激減していた。駆逐のあまりの残酷さに一部の白人は「人道主義」を唱え、そして「インディアン居留地」に囲みこむ結果となった。そこは白人にとって何の利益ももたらさない不毛の地であった。また、先住民にとっては本来の故郷の地ではなかった。
 いま全米に二百数十の居留地が設けられている。約80万人が住むナホバ族居留地は、そのうち最大のもので、125,000人が住んでいる。
 仕事はほとんどなく、わずかな生活保護に頼る生活は貧困そのものである。居留地内の店の品物は高く、多くの先住民がアルコールに冒されている。ある先住民は、「かつて白人は聖書とアルコールを手に、腰に銃を持ってやってきた。今我々は、失う物すべてを失い、手に聖書とアルコールを持つのみだ」と語った。その不毛の地、居留地が最近にわかにエネルギー供給地として脚光を浴び始めた。先住民を追い出して、エネルギー(石油、タール、サンド、ウラン)を奪うために白人入植者が再び侵略を開始している。合衆国内に埋蔵されているウランの三分の二は「インディアン居留地」にあるといわれている。
 白人のアメリカ大陸への入植を先住民と白人の戦争として見ると、暴力・偏見・差別の人権無視の状態が浮かび上がる。

フランス革命とベートーベン


 コロンブスのアメリカ大陸到達の後、1789年8月フランス革命が起こり、憲法制定議会によって採決された「人民の自由・平等に関する宣言」、いわゆる人権宣言に共鳴したベートーベンは、貴族社会の音楽に抵抗して人民の音楽を目指した。人間の尊厳と人類の解放を作曲に組み込むことに情熱を傾けた。幾度かの抵抗にあいながらも、遂に「第九」を完成しウイーンで演奏会を成功させ、人類の解放と連帯を歌いあげた。その後、「第九」は世界中で演奏され、歌われている。
 日本で「第九」が最初に演奏され歌われたのは1918年である。第一次世界大戦でドイツに宣戦布告した日本は青島を攻め、ドイツ兵4,000人を捕虜とした。数ヶ所の捕虜収容所のうち徳島県鳴門市の坂東収容所の捕虜たちが演奏し歌った。そして、周辺住民に広がった。
 大正文化と人権意識の萌芽の時代であった。
 戦争は人権にとって最大の暴力である。特に近代の戦争は膨大な難民を生み、憎しみと報復のサイクルを作り出す。イラク攻撃の回避を願って止まない。 (2003年3月10日)

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