1. TOP
  2. 資料館
  3. 国際人権ひろば
  4. 国際人権ひろば No.47(2003年01月発行号)
  5. 第2の「アジア太平洋障害者の十年」(2003~2012年) への取り組みと課題

 
Powered by Google


国際人権ひろば Archives


国際人権ひろば No.47(2003年01月発行号)

アジア・太平洋の窓

第2の「アジア太平洋障害者の十年」(2003~2012年) への取り組みと課題

松井 亮輔 (まつい りょうすけ) 北星学園大学社会福祉学部教授

 1993年にはじまった「アジア太平洋障害者の十年」(以下、「十年」という)は、昨年最終年を迎えた。そもそも「十年」は、1992年に北京で開かれた国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)総会において日本をはじめ33カ国から共同提案され、満場一致で決議されたものである。
 翌1993年の総会でESCAPは「十年」で取り組むべき行動課題として12の施策領域-国内調整、法制、情報、国民の啓発、アクセシビリティとコミュニケーション、教育、訓練と雇用、障害原因の予防、リハビリテーション、福祉機器および地域協力-を承認している。

「十年」の評価


 「十年」の最終年にあたってESCAP事務局がこれらの行動課題の施策領域の目標達成状況について域内各国政府に対して行った質問票による調査結果(57カ国・地域のうち33カ国・地域から回答)などによれば、その達成状況には大きなバラツキがある。
 かなりの前進が認められるのは、国内調整と法制領域である。とくに法制については、インドおよびマレーシアの憲法で障害者の平等の権利が規定されている。
 1997年にはフィジーおよびタイでそのために憲法が改正された。また、オーストラリア、ニュージーランド、中国、香港、インド、フィリピンおよびマレーシアなど9カ国では、障害者差別禁止法の強化や立法化が行われている。
 ある程度の改善が見られるのは、障害原因の予防、リハビリテーション・サービス、建設環境へのアクセスおよび自助組織づくりである。このうち、自助組織づくりについては、全国的な障害横断的組織または自助組織が、22カ国・地域でつくられており、さらに4カ国で設立中。そのうち17カ国では、自助組織が国の政策策定に参画している。
 一方、達成状況がきわめて悪く、懸念される領域としては、(1)障害に関する総合的なデータが欠如していること、(2)障害児の就学率がきわめて低いこと(ESCAPが1999年に行った障害児・青年に関する調査によれば、域内の途上国23カ国・地域における障害児の初等教育への就学率は、2~5%に留まっているのに対し、一般児のそれは70%を上回る)、(3)貧困生活を強いられている障害者が多いこと(世界銀行によれば、アジア太平洋地域の障害者約3億7千万人の40%以上に相当する約1億6千万人が1日の収入/消費額1ドル未満の貧困生活者と推計される)、ならびに(4)行動課題の施策領域の実施についてサブリージョン(アジア太平洋地域は、東・東北アジア、東南アジア、南・西南アジア、北・中央アジアおよび太平洋という5つのサブリージョンに区分される)間で著しい格差があることなどである。

第2の「十年」を決議


 このように、「十年」の間にいくつかの行動課題の施策領域で重要な前進が見られたが、地域全体としては、「十年」の目標達成にはさらなる行動が必要として、昨年5月のESCAP総会において「2002年以降も十年の行動課題の実施に一層の励みをつけることを目的に十年を2012年までさらに10年間延長すること」などを内容とする決議案が、日本を含む29カ国から共同提案され、全会一致で採択された。
 この決議に大きな影響を及ぼしたのは、2001年12月の国連総会で「障害者の権利及び尊厳の促進及び保護に関する包括的かつ総合的な国際条約」(以下、障害者権利条約という)に関する決議が採択されたことである。
 同決議により、障害者権利条約についての案を検討するための特別委員会の設置が決まった。(第1回特別委員会は、2002年7月29日~8月9日ニューヨークの国連本部で開催。第2回同委員会は、今年6月16日~27日同じく国連本部で開催予定)

第2の「十年」での取り組み


 これまでの「十年」の成果と課題などを踏まえ第2の「十年」で取り組むべき課題について検討するため、昨年10月、滋賀・大津でESCAP「十年」最終年ハイレベル政府間会合(10月25日~28日)が開かれた(参加者は、27カ国・地域からの約350人)。そこでの議論を経て、採択されたのが「アジア太平洋地域における障害者のための、インクルーシブで、バリアフリーかつ権利に基づく社会に向けた行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」(以下、BMFという)である。その主な内容は、つぎのとおり。

(1)行動の優先領域として、(1)障害者の自助組織および関係家族・親の会、(2)女性障害者、(3)早期発見・早期介入および教育、(4)訓練および自営を含む雇用、(5)建設環境および公共交通機関へのアクセス、(6)情報通信技術(ICT)を含む、情報およびコミュニケーションへのアクセス、ならびに(7)能力開発、社会保障および生計プログラムによる貧困の削減、の7つが挙げられ、それらを達成すべき年次と数値を定めた、21項目の目標および目標達成のための一連のアクションが示されている。そのうち、とくに教育と貧困削減については、2000年9月の国連創設50周年記念総会で決議された「国連ミレニアム宣言」による「国連ミレニアム開発目標」(以下、MDGという)と関連づけられている。
 つまり、教育に関しては、MDGでは「2015年までに男女や場所を問わずすべての児童が初等教育課程を完全に修了できるよう確保する」とされているのに対し、BMFでは、「障害児・青年は、2015年までにすべての男子および女子が初等教育課程を完全に修了するというMDGの不可欠な対象のひとつとする」(目標6)。また、貧困削減に関しては、MDGの目標では、「1990年から2015年の間に収入/消費額が1日あたり1ドル未満の人びとの割合を半減させる」とされているのに対し、BMFでは、「1990年から2015年の間に1日の収入/消費額が1ドル未満の障害者の割合を半減させること」(目標21)。

(2)BMFの目標を達成するための戦略として、(1)障害に関する国内行動計画(5年)の策定、(2)障害問題への権利に基づくアプローチの促進、(3)障害統計・計画化のための障害の共通定義、ならびに(4)障害原因の予防、リハビリテーションおよび障害者の機会均等化のための地域開発アプローチの強化。

(3)BMF実施にあたっての協力と支援として、(1)サブリージョン協力・連携、(2)地域協力、および(3)地域間協力(具体的には、アフリカ障害者の十年(1999年~2009年)およびアラブ障害者の十年(2003年~2012年)との情報、経験および専門的技術の地域間交流を通して、「十年」の実施で相乗効果をあげるための協力・連携の強化を図ること)。

(4)BMFの達成状況のモニタリングおよび評価のため、(1)地域およびサブリージョン会合(2年ごと)の開催、(2)BMFの実施を調整・モニターするための地域作業委員会(そのメンバーは、国連機関、各国政府および域内の障害団体をはじめとする市民団体代表から構成)の定期的開催、および(3)BMFの中間年評価、がそれぞれ提示されている。

第2の「十年」の課題


 BMFの目標の達成にとってキーポイントとなるのは、各国による障害に関する国内行動計画の策定とその計画の達成状況を評価し、達成に必要なアクションを特定するためのモニタリング、および障害問題への権利に基づくアプローチの促進と思われる。
 なかでも後者に関連してBMFでは、「政府は障害者差別をなくすため、障害者の権利を保護する法律と政策を採択し、既存の法律を見直すこと」や「政府は一昨年12月の国連総会で決議された障害者権利条約案づくりに向け、特別委員会の業務を支援し、貢献すること」などが謳われている。
 しかし、ニューヨークでの第1回特別委員会や大津での政府間会合などで示されたわが国政府のきわめて消極的な態度からも明らかなように、障害者権利条約や差別禁止法実現に向け政府のイニシアティブはあまり期待できそうにはない。したがってその実現には、障害当事者団体をはじめとする関係団体などが力をあわせて世論を盛りあげ、政府を動かすべく積極的に運動を展開していく必要があると思われる。

To the page top