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国際人権ひろば No.46(2002年11月発行号)

特集・国際的な障害者の権利保障をめざして Part2

障害者差別禁止法「要綱案」とその実現をめざして

金 政玉 (きむ じょんおく)
DPI(障害者インターナショナル)日本会議・障害者権利擁護センター所長

はじめに

 2000年10月、ワシントンDCで開催された「障害者に関する法制と政策の国際シンポジウム」において、障害をもつ人への差別を禁止し権利を保障する法律が40カ国を超え、国際レベルでも、差別禁止法を制定している国では、すでに社会的合意が成立し、社会システムの一部になっていることが報告された。

 「障害をもつアメリカ人法」(ADA)の成立から10年を経た今日、この「報告」は、改めて新鮮な驚きを障害当事者運動に与えることになった。2001年11月、日本弁護士連合会の人権擁護大会で障害者差別禁止法がテーマとして設定されるなど、再び日本において障害者差別禁止法に向けた可能性と新しい風が確実に吹き始めている。

 こうした状況を踏まえて、1970年代から全国的に広がっていった草の根の障害当事者運動の結集軸となり、本年で8年目をむかえる障害者政策研究全国実行委員会において、DPI障害者権利擁護センターが事務局を担当する「障害者差別禁止法」作業チームが設置され、この間、障害者差別禁止法の本格的な制定運動に向けた「要綱案」の作成作業に取り組んできた。以下、「要綱案」の各章の主な論点を紹介したい。

第1章(総則)-主な論点

1 障害の定義と差別の関係について

(一) 障害者基本法の「障害の定義」の問題性

 障害者基本法(1993年)の第二条(障害者の定義)では、「この法律において『障害者』とは、身体障害、知的障害又は精神障害(以下『障害』と総称する)があるため、長期にわたり日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者をいう」と規定している。これは心身の機能上の障害により「長期にわたり日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者」という能力の不全と心身の損傷による機能障害に着目した「医療モデル」に基づく「障害者観」である。

(二) こうした「障害者観」は、伝統的に障害者を恩恵と保護による福祉施策の「特殊な存在」とみなしていく法的根拠の背景になっており、障害をもつ人が市民社会のあらゆる場面で対等な構成員として存在することを阻害してきた。「障害の定義」を環境的要因からのアプローチによって明確にし、その阻害要因(差別の原因)の除去を求める「社会モデル」への転換が急がれなければならない。

2 障害をもつ人への積極的改善策の実施を明記する

 アファーマティブ・アクションの定義を導入するという観点から、障害をもつ人の権利及び自由・機会の均等を保障することを目的としてとられる積極的改善策は、障害をもつ人への差別とはみなさないこと。また、このような措置は、その結果、その目的が達成された後は継続させてはならないことを明記する。

3 加害者に対する挙証責任の義務づけを明記する

 現行制度においては、権利侵害事案が発生した場合、障害をもつ当事者が被害救済の申立を行ない、被害者に「立証責任」が課せられている。現実にはそれができないために被害者に泣寝入りを強要する結果を招いてきた。こうした現状を踏まえ、被申立て人側が「差別ではない」と主張する必要があると認める場合には、まず被申立て人が、その挙証責任を果さなければならないことを明記する。

4 自己決定権の保障を明記する

 障害をもつ人が、権利主体になるためのもっとも核心的なテーマが「自己決定の保障」である。法律上の手続き(成年後見制度)による場合を除いて、障害をもつ人自身の生活全般に関する意思決定に関し、適切な情報の提供を得て、選び、決定し、自己の利益にも不利益にも、他人の関与を受けない権利を有することを明記する。

第2章 障害をもつ人への差別禁止と権利に関する基本事項-主な論点

1 地域生活について

(一) 障害をもつ人は、その種別、程度にかかわらず、障害を持たない他の人と同等に、いかなる差別も受けることなく、地域で生活を営む権利を有することを明記し、地域生活に必要不可欠なものとして、所得及び介助保障、住宅等、実体法として整備されなければならない必要事項を国及び地方公共団体の施策義務として明記する。

(二) 「移動」「建物」「利用」等についても、同様の観点から「基本事項」を定める。この際、「民間事業者等の配慮義務」については、当該事業者に「過度な負担」の証明(説明)を行う責任があるとし、当該事業者が「過度な負担」の証明を適切に行うことができたと認められる場合は、例外的措置として取り扱うことができることを明記する。

2 情報とコミュニケーション

(一)障害をもつ人が幅広く情報を享受・利用し,また表現することを保障する条項として、 聴覚や視覚の障害に限らず、知的障害等により文章理解に制約のある人の情報に関わる権利についても明記する。

(二) 放送事業や電気通信事業は、国の免許・許可事業であるからその仕組みを利用して、それらのユニバーサルデザイン化を進めることを国の義務とするという観点から、国及び地方公共団体の配慮義務(施策義務)として、事業者の事業が国及び地方公共団体の免許・許可等に係るものであるときは、その免許・許可等の条件に障害をもつ人への対応の整備を含めなければならないことを明記する。

3 教育

(一)教育に関する権利として、障害をもつ人は、同世代の障害をもたない人と統合された環境のもとで、その個々人にとって必要な支援を受ける権利を有することを明記する。

(二)ろう教育を必要とする人は、手話という独自の言語を修得するために必要な支援を受ける権利を有し、その権利の確保のために、統合的な環境以外の場における教育的支援を希望することが、権利として保障されることを明記する。

(三)教育に関する事業者の配慮義務として、 教育を提供する事業者は、障害をもつ本人または代理人の合意にもとづき、その本人にとって必要な個別支援の内容をともに作成し、提供しなければいけないことを明記する。

4 就労

(一)国および地方公共団体の施策義務として、障害をもつ人が就労する上で障壁となっている欠格条項や最低賃金適用除外、雇用率算定方法など、法制度上、障害を理由とした差別的ないかなる条項も設けてはならないことを明記する。

(二)国及び地方公共団体は、障害をもつ人の雇用を進めようとしない事業所に対しては、事業名の公表等の厳しい措置と罰則をともなった制度的措置を実施しなければならないことを明記する。

5 出生と性

(一)妊娠、出産に際し、いかなる障害をもった胎児も生きる権利を有することを明記し、出生に関する差別禁止事項として、次の点を明記する。

 (1)すべての人は、妊娠に際し、障害を排除するための治療・検査を強制されてはならない。

 (2)胎児に対して、障害を理由とした中絶を禁止する。

(二)性に関する差別禁止事項として、次の点を明記する。

 (1)障害をもつことを理由に、子宮摘出および断種など生殖機能を奪うこと。

 (2)障害をもつことを理由に、避妊、中絶を強要され、子どもを産む機会を取り上げられること。

 (3)障害をもつことを理由に、子どもを育てる機会を阻まれること。

6 政治参加

 障害をもつ人の政治参加に関する差別とは、障害をもたない人と異なる取扱いを受けた場合をいい、これを禁止する。政治参加に関する異なる取扱いとは、次のことをいう。

(1)障害をもつことを理由にして、投票の機会が制限されるか失われること。

(2)障害をもつことを理由にして、選挙に関する情報が公平に提供されないこと。

(3)障害をもつことを理由にして、被選挙権、及びそれに付随する選挙活動が、事実上制限されるか奪われること。

(4)障害をもつことを理由にして、議員としての活動が、事実上制限されるか奪われること。

7 司法手続

 障害をもつ人の司法手続きにおける固有の権利について明記する。

(1)ろう者が手話を利用し,視覚、聴覚に障害をもつ人、または盲ろう者が自己の感覚機能を補完するために補助者を利用することはその者の固有の権利であり、いかなる場面においてもその利用を制限されない。

(2)知的障害をもつ人・精神障害をもつ人が自己の理解を助けまたは心理的安定を保持する為に補助者を利用することはその者の固有の権利であり、いかなる場面においてもその利用を制限されない。

第3章(実施及び救済機関)と第4章(支援機関)-主な論点

1 欠かすことができない要件

(一)具体的な人権侵害事案を解決する場合に、何が差別であり人権侵害等であるかの判断基準を明確にしなければならないことを明記する。

(二)「障害をもつアメリカ人法」(ADA)は、雇用・公共性のある施設およびサービス・通信の領域についての差別を禁止している。特に重要な点は、配慮義務を満たしていないこと自体も差別としており、したがって差別であるとされたときには、作為命令も出すことができる。日本の多くの障害をもつ人の日常生活は、このような作為義務まで踏み込んだ解決がなされなければ完全参加と平等の機会は権利として獲得できないことを明記する。

2 「パリ原則」を遵守しなければならない

(一)パリ原則(1993年国連決議、日本政府賛成)では、国内人権機関の構成において、行政機関からの独立性と、人権の促進と保護に関わる市民社会の多元的な代表の確保、活動全体における人権NGOの重要性を明記している。

(二)障害をもつ人の権利擁護活動においても、既存の人権擁護委員に相談するより、当事者が運営している権利擁護NPOの方が相談しやすいという声が大多数である。「パリ原則」を最大限尊重し、独立性と当事者性を前提とした専門性を確保するとともに、障害をもつ人の立場にたつ権利を擁護するしくみや人材の確保が必要であるという観点から、「実施及び救済機関」と「支援機関」について明記する。

※「要綱案」の全文とその「補足説明」は、『当事者がつくる障害者差別禁止法~保護から権利へ』(「障害者差別禁止法制定」作業チーム編・現代書館発行・2002年10月)に掲載してあります。