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国際人権ひろば No.45(2002年09月発行号)

アジア・太平洋の窓

アジア・太平洋のエンパワーされた障害者

中西 由起子 (なかにし ゆきこ)
アジア・ディスアビリティ・インスティテート代表

障害者数が最大規模のアジア・太平洋地域

 アジア・太平洋地域が世界人口の約60%という最大の人数を抱え、かつその人口が増え続けていることはあまり知られていない。WHO(世界保健機関)の統計では1割が障害者であるので、障害者問題もそのため、広範に及ぶ大問題である。

 グローバリゼーションにより、先進国と途上国、つまり持てる者と持てないもの、都市と農村の間の格差が拡大している。サービス量の増加や質の上昇があっても、その恩恵に浴しているのは都市の障害者である。障害者の70%は各種サービスへのアクセスの悪い農村部に居住している。農村にはいまだ家の中に隠されている障害者、家族や本人に何の知識や情報もなく将来に希望なく生きている障害者がいる。

障害者の社会経済的状況

[障害の原因]

 栄養不良、環境破壊、衛生・医療の不備、事故や災害、いまだ続く戦争を原因として障害が起こる。結核、狂犬病、トラコーマなどの撲滅されていない伝染病に、最近ではエイズも原因として加わった。依然として栄養不良も特に南アジアで深刻であり、急激な都市化による安全基準や交通規則での人命の軽視という新たな原因も加わった。

[法律]

 現在、国連を中心に障害者の権利条約づくりが進められようとしている。しかし、政策においては政府の都合が優先され障害者の権利は往々にして無視されている。アジア・太平洋には障害者の権利を保障する表のような法律が存在している。問題は、それが十分に施行されていないことにある。


表:アジア・太平洋における障害者権利保護に関する法律 ※( )内は制定年
インド障害者(均等機会、権利保護、完全参加)法(1995)
インドネシア障害者法(1997)
韓国障害者福祉法(1981年心身障害者福祉法を1989年、2000年に改定)
スリランカ障害者権利保護法(1996)
タイ障害者リハビリテーション法(1991)
台湾心身障害者保護法(1997に改正)
中国中華人民共和国障害者保障法(1990)
ネパール障害者保護福祉法(1982)
パキスタン障害者(雇用とリハビリテーション)政令(1981)
バングラデシュ障害福祉法(2001)
フィリピン障害者のマグナカルタ(1992)
ベトナム障害者に関する政令(1998)
モンゴル障害者社会福祉法(1998)
香港障害差別禁止条例(1995)

[医療サービス]

 後発開発途上国においてすら、国のリハビリテーション事業の中核となる大規模な、国立の総合的リハビリテーション・センターが存在する。それだけではリハビリテーションを受けられる障害者の数は制限される。さらに障害者は専門家とサービスの受け手としての関係しか持てないため、最低限のサービスしか提供されず、それがリハビリの効果を妨げたり、健康状態の悪化に繋がるような逆転現象を起こしている。サービスの配分が片寄っているのも問題である。数が限られている施設も専門家も都市部に集中し、CBR(地域に根ざしたリハビリテーション)を導入し自分たちで提供していくのが農村部での唯一の解決方法となる。少なくとも15の政府がCBRを政策に組み込んでいる。

[教育]

 特殊教育の制度は確立しているが、少数しか対象にならない。いまだに障害児の5 %以下しか教育の機会がない。そのため統合教育進められている。特徴的なのは、施設を中心としたリハビリテーションの対極のアプローチとして採用されているCBRの主要活動として実践されていることである。統合教育は視覚、聴覚においてのみであるが、短期間に飛躍的に増加している。

自助活動を通してのエンパワメント

 障害者当事者の団体と聞くと、交流を目的とした親睦団体や要求を掲げて交渉する圧力団体との印象があるが、途上国の障害者団体の活動は自助活動であり、サービスの提供や権利擁護を行っている。彼らは先進国のリーダーをモデルとして、人権意識をもって、自己決定と自己管理に根ざした自立生活運動を自国でも進めようとしている。

[日常生活支援]

 アジアでは盲人団体は比較的早く組織化され、会員のために日常生活技術、歩行の訓練をはじめ、点字・録音の図書などを提供してきた。交通のアクセスの悪い途上国では障害者の移動は困難を極めるため、シンガポールの障害者福祉協会、韓国小児マヒ協会や香港障害者青年協会などの身体障害者団体はリフト付きのバンやバスのサービスを提供している。

 職業のない障害者には、ローンを提供して小規模事業を奨励している。職業訓練や経営技術などのノウハウも教えて、事業が成功するような支援もしている。

 バングラデシュでは、身体的弱者社会援助・リハビリテーション協会(SARPV)がCBR(地域に根ざしたリハビリテーション)の方式をまねて、経済的自立よりむしろ障害者の地域社会への統合を目的に資金を貸し出している。

 フィリピン障害者連合(KAMPI)は会員団体が申請する事業に資金を提供する方式をとっている。特に女性障害者や少数民族の障害者、貧しい障害児の家族が利するようなプロジェクトを優先している。観葉植物の栽培、生花の販売、手工芸品の製造、魚の養殖や養鶏などの成功例が出ている。

[交通デモ]

 後発開発途上国が多い南アジアやインドシナ地域、オセアニアを除いて、交通アクセスに関する法律はかなり整備されている。しかし実際には施行されていない国が多く、現状では大都市の一部だけにとどまっている。交通アクセスの向上のため最も効果を発揮した戦略は、障害者団体によるデモである。

 バンコクのスカイトレイン(モノレール)の障害者を無視した建設計画を利用できるものに変えるために、タイDPI(タイ障害者協議会)は1995年11月に400人による命をかけた大規模抗議デモを組織した。その結果、全23駅のうち5駅にエレベーターが設置された。

 1994年にマレーシアのクアラルンプールに完成した最初の軽鉄道では、車椅子使用者は乗車を禁止された。当事者団体の若いメンバーたちは投獄や失業という脅しに屈せず、70人の街頭デモを実施し使えるように変更させた。

 韓国では障害者が2001年初頭に地下鉄駅で仲間がリフトから落ちて死亡したことに抗議して移動権連帯という組織をつくり、現在も地下鉄とバスの利用が可能となるように戦っている。

草の根へと広がる障害者の運動

 「アジア太平洋障害者の10年」(1993-2002)での、障害者団体の活躍は目覚ましかった。国際レベルの活動では、彼らの声なくしてはなにも決められなくなっている。声を出すのが一部のエリートの障害者から、草の根での活動から出てきた障害者が担うようになってきて運動も広がりを見せている。

参照ホームページ

「アジアの障害者」 http://www.din.or.jp/~yukin/

「Independent Living in Japan」 http://member.nifty.ne.jp/shojin/