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国際人権ひろば No.40(2001年11月発行号)

国際化と人権

日本にやってきたアフガン難民申請者9名の一斉摘発・収容の問題点

筒井 志保(つつい しほ)
特定非営利活動法人難民支援協会 事務局長

 去る10月3日、法務省入国管理局は、関東地方に在住のアフガニスタン難民申請者9名を出入国管理及び難民認定法違反の容疑で一斉に摘発し、身柄を拘束・収容した。これは日本政府がアフガニスタン難民支援のために国連機関への約145億円の拠出を決定する直前のことであった。
 難民支援協会(以下、当協会)の把握する限り、難民申請者の収容は1997年以降原則として実施されてこなかった。そのような状況の中での今回の収容は、アフガニスタン難民申請者に限らず、他国からの難民申請者・申請希望者の間に強い動揺を与えている。
 当協会は、この事件が難民認定手続自身の信頼性を揺るがせ、難民政策を大きく後退させる結果となることに強い懸念を有し、以下に問題点を説明する。

1、 特定の国籍の難民申請者のみを一斉に狙い、収容したことは、『難民の地位に関する条約』(以下、難民条約)第3条(*1)にある出身国による差別の禁止に違反する行為である。

 本来、難民申請は個々の事情を勘案し、保護の必要性を判断する手続である。しかし今回、一斉摘発・収容された難民申請者は、当協会の把握するところ、全てがアフガニスタン国籍(あるいは同国籍であることを主張する)者であった。

 2、難民申請中の者に対する収容は行われてはならない。難民は、本国において受けた拷問や拘禁、家族との離散など平常では起こり得ない強い衝撃を体験したことで、肉体的・精神的な苦痛によるストレスやトラウマなどを抱える人もおり、医療支援を必要とする場合がある。そのような状態にいる可能性のある難民申請者を再度、収容することは二度目の迫害にあたる行為を庇護国が与えていると言っても過言ではない。

 また、難民の場合、迫害を受けるおそれのある国を出国すること自体が困難である場合が多く、手段を選べず、何らかの方法で去らなければならないという難民の特殊性に鑑み、難民条約第31条(*2)では、非正規な入国という事実をもって処罰されてはならないとされ、同条2項は、非正規入国の難民にも移動の自由を保障している。UNHCR(国際連合難民高等弁務官事務所)の収容に関するガイドライン(*3)においても、まずは収容に代わる手段を取るべきであるとされている。

3、 難民申請者、申請希望者への深刻な影響。今回の収容によって、難民申請者は「次は自分かもしれない。もしかしたら送還されるかもしれない」という恐怖を感じている。本来、故郷に送り返されないために自らの意志を表明し、難民申請を行うという手続であるはずが、申請中の者を収容することによって、難民申請を希望する者の意志をくじき、申請を抑止する行為になりかねず、難民認定をいびつな手続へと導きかねない。

 被収容者の中で、所持金を持っていない人がいると分かった。当協会では支援金を活用し、下着や便せん、切手などを購入し差し入れに行った。6時間も待たされた後、10分間の面会が認められた。そのうちの一人は「捕らえられ、殺される前に祖国を捨てて逃げざるを得なかった私をなぜ捕まえるのか」と訴えたが、私たちは何も言えなかった。当協会は、今回収容されたアフガニスタン難民申請者9名の即時の放免を求める声明文を発表した。

 今年は、難民に関する国際的な取り決めである難民条約が採択され、50周年を迎える。2001年10月1日現在、137カ国が難民条約の締約国となり、国際的な難民保護システムを確立している。一方、日本も同条約に加入して20年となり、ここ数年、日本における難民認定手続に改善の兆しがあると評価されていた。このような時期に、今回の難民申請者の収容が執行された。これは収容された者だけにとっての問題ではない。また、入国管理局という一担当行政の問題として捉えるだけでも不十分である。政府レベル、また市民のレベルにおいて国内の難民の受け入れ及び難民政策をどのように捉え、構築しなくてはならないのかという緊急課題への方針が求められている。

【*1】 難民条約第3条
【無差別】
締約国は、難民に対し、人種、宗教または出身国による差別なしにこの条約を適用する。

【*2】 難民条約第31条
【避難国に不法にいる難民】
1: 締約国は、その生命または自由が第1条の意味において脅威にさらされていた領域から直接来た難民であって許可なく当該締約国の領域に入国しまたは許可なく当該締約国の領域内にいるものに対し、不法に入国しまたは不法にいることを理由として刑罰を科してはならない。(以後省略)

【*3】 庇護希望者の拘禁に関してのUNHCRガイドライン(部分抜粋)
1: UNHCRは、庇護希望者の拘禁は本質的に望ましくないと考える。
 ガイドライン3: 収容が例外的に認められる場合においても、拘禁に代わる監視が実行不可能である時は、その代替手段が有効でないという証拠がない限り、代替手段をまずは適用すべきである。

 特定非営利活動法人
 難民支援協会は、迫害を逃れて日本に保護を求めてやって来た難民申請者、難民の方々の生活面や法的手続面について専門的・総合的な支援活動を行っている。

ホームページ: http://www.kt.rim.or.jp/~jar/

 即時の身柄の解放を求め申し立てていた9人に対して、東京地裁民事2部は5日、そのうち4人については却下し、同民事3部は6日、5人に関して「収容は難民条約に違反する」として、収容の執行停止の決定を出した。(11月7日)