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国際人権ひろば No.38(2001年07月発行号)

特集

反人種主義・差別撤廃世界会議に向けて

~「職業と世系(門地)に基づく差別」の視点から

友永 健三(ともなが けんぞう)
(社)部落解放・人権研究所所長

世界会議が問いかけるもの

 5月21日から6月1日まで、反人種主義・差別撤廃世界会議(ダーバン2001)の第2回準備会合が、スイス・ジュネーブの国連欧州本部(パルデナシオン)において開催された。筆者は、この内、5月22日から25日まで、部落解放同盟中央本部の田川雅人中央執行委員とともに、この会議に参加した。この会合に参加したことの報告とともに、世界会議の意義と課題、さらに、この会議と「職業と世系に基づく差別」の撤廃との関係について紹介する。

 世界会議の目的は、1)人種差別撤廃のためのこれまでの取り組みの成果、問題点、その克服の方向、2)人種差別と闘うための基準の適用を検討する、3)人種主義に対する意識啓発、4)人種差別に対抗するための国連の活動についての提言、5)人種主義の政治的、歴史的、経済的、社会的、文化的要因の検討、6)国内、国際地域、国際レベルでとるべき措置についての勧告、7)国連の人種差別撤廃にむけた行動計画実施のための資源の確保等について議論をし、「宣言」と「行動計画」を採択することにある。

 上記の目的の⑤の中で、注目されている第一点は、帝国主義諸国による植民地支配がもたらした歴史的な被害、さらにはこれが今日まで影響を及ぼしている点をどのように反省していくかという「補償問題」である。第二点目は、グローバル化が人種主義なり人種差別に及ぼしている影響を解明することである。とくに、グローバル化が進行するなかで、世界的にも一国内的にも貧富の差が拡大し、さまざまなマイノリティが社会の主流から疎外されていることの問題点が指摘されている。第三点目としては、インターネットの普及に代表される情報化社会の到来が、人々に様々な便益を与えている一方で、人種主義なり人種差別的な勢力を地球規模で結びつけ拡大してきていることの問題点である。

準備会合でのロビー活動

 グローバル化の進行のなかで、さまざまなマイノリティーが社会の主流から排除されている問題との関連で取り上げられている集団としては、移住労働者、先住民族、少数民族、難民などがある。さらに、世界会議にむけてこれまで積み上げられてきたNGOや専門家会議のなかでは、世界会議の重要なテーマとしてインドの被差別カースト出身者(ダリット)や日本の部落差別に代表される「身分差別」の問題、さらにはマイノリティの女性に対する差別の問題(複合差別の問題)を取り上げることの必要性が指摘されている。

 第二回準備会合に、私たちが参加した主たる目的は、世界会議に重要なテーマとして「身分差別」の問題が取り上げられるようにすることにあった。このため、インドやネパール、スリランカなどからこの会議に参加していた被差別カーストに対する差別撤廃に取り組んでいる人々との連携をはかるとともに、NGOによる説明会の開催や関係諸国に対するロビー活動を実施した。

「職業と世系に基づく差別」に関する国連決議

 「カースト(身分)差別」の問題は、国連においては、これまで、人権委員会や人権小委員会などで、個々の問題としてNGOによって発言されてきた。また、人種差別撤廃条約との関連、とりわけ条約第1条で規定されている「descent」(政府の公定訳では「世系」、金東勲龍谷大学教授の訳では「門地」)との関連で取り上げられてきている。さらに、昨年8月、国連人権の促進及び保護に関する小委員会(国連人権小委員会)では、「職業と世系(descent)に基づく差別」に関する決議が採択された。国連の公式会合のなかで、はじめてインドのダリットに対する差別や日本の部落差別などが、「職業と世系に基づく差別」として取り上げられ、国際人権法で禁止された差別であるとともに、各国内においても禁止される必要性があると指摘されたもので、この決議の意義は大きい。

 アメリカに本部を置く人権NGOヒューマンライツ・ウオッチのスミタ・ナルラさんは、5月21日に150名もの政府やNGOの代表の参加のもと開かれたNGO説明会のなかで、「カースト(身分)差別」がインドに存在するのみならず、世界的に存在している問題であるとして、1)ネパール、バングラデシュ、インド、スリランカ、パキスタンのダリット問題、2)日本の部落問題、3)ナイジェリア、セネガル、マリ、ギニア、モーリシャス、マダカスカルに存在する「身分差別」問題、4)マレーシア、イギリス、アメリカ、東南アフリカ地域、中米地域等におけるインド系社会に存続する「カースト」制度に基づく差別問題、を指摘した。

インド政府の反対姿勢

 6月1日に終了した第2回準備会合では、ダーバン2001で採択される「宣言」と「行動計画」の案が検討されたが、「宣言」の前文の検討を終えただけで時間切れとなった。このため、7月30日から8月10日まで第3回準備会合が開催されることとなった。現時点では、「カースト(身分)差別」問題に関するまとまった提言としては、「職業と世系に基づく差別」に関する決議の内容を踏まえた指摘が、スイス政府の提案で「行動計画」の案文として盛り込まれている。けれども、この案に対してインド政府から強硬な反対があり、予断を許さない状況がある。

 インド政府による反対の表向きの理由は、「ダリット差別の問題は人種差別ではないので世界会議とは関係がない」とするものである。しかし、世界会議がテーマとしている差別は広範で、ダリット差別の問題も十分包み込めるものである。 にもかかわらず、インド政府が反対しているのは、この問題が「宣言」と「行動計画」で取り上げられれば、インド国内に存在するこの問題に世界の注目が注がれることとなること、さらにダリットの人々の活動に火に油を注ぐことになることを恐れているためと思われる。ちなみに、日本政府は、昨年の国連人権小委員会の「職業と世系に関する決議」の内容であれば、「宣言」と「行動計画」のなかに盛り込まれることには反対しないという態度である。

粘り強い取り組みの成果

 1983年8月、パルデナシオンにおいて、第2回人種差別撤廃世界会議が開催されたが、この会議にも筆者は参加した。そのときの最大の課題は、南アフリカのアパルトヘイト問題で、ダリットの問題や部落問題は、ほとんど議論にはならなかった。

 それから15年たった1998年10月、マレーシアで開催された第1回カースト差別撤廃世界会議では、ダリットの活動家が口々に、「全世界で3億人に及ぶダリットに対する差別は世界最大の差別問題である」、「国連をはじめとした国際社会との連帯で、この差別の撤廃を実現しよう」との演説を繰り返していた。この訴えが、次第に大きなうねりとなって広がりを見せてきており、その一つの結集点が、今年8月のダーバンでの世界会議となっているのである。

世界会議に向けて

 国連の関係者の説明では、ダーバン2001には、全世界から12,000人もの参加者が予想されるとのことである。日本でも、反差別国際運動日本委員会を中心に「反人種主義・差別撤廃世界会議実行委員会(ダーバン2001)」が結成され、広報活動や事前学習会、政府との懇談会等が取り組まれている。この実行委員会には、武者小路公秀さんやイーデス・ハンソンさんなどが共同代表として就任しており、①差別禁止法の制定、②国内人権救済機関の設置、③国連人権機関への個人通報制度の実現が「宣言」や「行動計画」に盛り込まれることを、共通の活動目標に掲げている。

 また、8月の会議には、反差別国際運動、部落解放同盟、世界人権宣言大阪連絡会議などから、数十名の参加者が予定されている。このうち、反差別国際運動と部落解放同盟は、現地でのパネル展やワークショップの開催を準備している。

* ダーバン2001 URL:http://www.durban2001.org