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国際人権ひろば No.38(2001年07月発行号)

アジア・太平洋の窓

グローバル・コンサルテーション・アジア・太平洋地域会合に参加して

石川 えり(いしかわ えり)
特定非営利活動法人難民支援協会

 5月28日~29日に、マカオ特別行政区にて開催された「グローバル・コンサルテーション~アジア・太平洋地域会合」に難民支援協会として、また同会議に関する日本側のNGOの担当者として参加した。
 以下、グローバル・コンサルテーションの報告とアジア・太平洋地域の難民の状況に関して紹介していきたい。

グローバル・コンサルテーションとは

 グローバル・コンサルテーションは、2001年1月より開始され、1年以上にわたって難民条約の見直しについて話し合う会議の総称である。会議は主に1951年難民の地位に関する条約(以下難民条約)の趣旨を再確認し、また現在難民条約がカバーしていない部分について認識を共有し、新たな方策を話し合うことを目的としている。

 会議は、主に3つの課題に分かれて進行している。

 (1) 条約加入国政府による難民条約の趣旨を再確認する課題:12月にジュネーブにて難民条約採択50周年を記念する会議を開催予定。
 (2) 政府、学者、法律家、NGOが個人資格で参加する専門家によって難民条約の解釈に関する新しい指針を出す課題:2001年5月、7月、9月、11月に世界各地で除外条項(非人道的な罪を犯した等の理由により難民認定されない人について定めた条項)、違法入国、安全な第三国などのテーマごとに話し合う。
 (3) 条約加入国政府を中心に、難民条約がカバーしていない事態を認識し、新たな方策を検討:2001年3月、6月、9月、2002年2月にジュネーブにて大量発生難民、移民・難民の関連、難民認定手続き、女性と子どもなどのテーマごとに会議がもたれる。

 その他、世界各地でその地域に関連が深いとされる議題について、地域会合がもたれている。

アジア・太平洋地域会合の概要

 アジア・太平洋地域会合は15の政府、9の国内・国際NGO、この地域における4人の専門家の参加、IOM(国際移住機構)、そして主催者であるUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の参加を得て開かれた。

 全体のテーマは「保護を必要とする人々の認識と効果的な保護体制の構築」であり、条約に定義されている「難民」のみならず避難民や国内避難民なども視野に入れて話し合われることが期待されていた。

 以下、会議での具体的な議題と議論の内容について簡単に紹介する。
1) 保護を必要とする人のカテゴリーについて
 難民、難民申請者の他に近年UNHCRが活動範囲を広げてきた国内避難民、無国籍者、帰還民の保護についても議論されることとなった。さらには自然災害、極端な貧困、人為的災害のために帰国を妨げられている人も含まれるべきだとする見解も挙げられた。特にフィリピン政府、バングラデシュ政府は極端な貧困によって去らざるをえなかった人のみならず、移住労働者も保護すべき対象に含めるべきだと主張した。これに対しては反論もあり、タイ政府などは「濫用者」の問題等があることから両者ともカテゴリーに含むべきでないと主張した。またNGOからは、国内避難民への支援の重要性に加え、少年兵や性器切除、ドメスティック・バイオレンスなど個人をターゲットとしてはいるが、現在の難民条約で適切に保護されているとは言い難いカテゴリーが新たに提示された。

2) 保護を必要とする人を認識するための手続きの作成
 アジア・太平洋地域のすべての国では子どもの権利条約を批准しており、また各国の人権条約への加入数も多いことから、人権・人道の理念に則ったノン・ルフールマン(非送還)の原則の確認、手続きへのアクセスの確保、適正手続きの重要性などを重要視すべきとの声が専門家、NGOサイドを中心に提起された。しかし、一方でオーストラリア政府は先進国での難民認定手続きに費やされる予算がUNHCRの年間予算の10倍であることを示すなどしてその実行の難しさを強調した。

3)難民を保護するための効果的な枠組みの展望
 紛争などによって一夜にして何十万人も発生するような大量発生難民への対応と先進国において庇護を求めた個々の難民申請者への対応が一緒に論じられていた感があったが、両者において総合的なアプローチの重要性が専門家、NGOより指摘された。大量発生難民に関する総合的なアプローチとは紛争を未然に防ぐ措置から帰還後のケアにまでいたるものであった。一方、都市型難民に関して、入国から帰還まで受け入れ国において手続き面・生活面でのケアを行う総合的なアプローチが日本のNGOから提案され、会議の最終文章として明記されることとなった。

会合を支配した理念よりも懸念のムード

 難民保護の理念の一方で、各国の難民受け入れに対する懸念も強く打ち出された。特に、タイ、オーストラリアというこの地域における難民受け入れ大国の発言が注目を集めた。

 タイ政府は1975年から1995年までの間にインドシナ難民を累計で64万246人受け入れた。近年ではミャンマー(ビルマ)からの難民も受け入れており、タイ側の難民キャンプに同国軍が越境攻撃を行ったという事件も聞かれた。難民が国家保安上の脅威である、という発言などからも厳しい現実が伺われた。

 オーストラリア政府は1990年から1999年までの10年間に11万2千件という難民申請を受け入れてきた。近年、難民申請者は増加傾向にあり、2000年には1万8千人が申請を行った。これに対して、政府は正規の査証を持たずに上陸した難民申請者すべてを収容するという厳しい手段で対処している。また2001年1月には非正規移民・難民が国家保安上の脅威であるという国務省レポートが発表された。

結論

 会議は2日間にわたる話し合いを経て、最後に非公式の結論を採択した。主な結論は下記の通りである。
・ 保護を必要とする人のカテゴリー化の議論について、当会合では定義が非常に広く、重なる場合が多いことに触れられた。その他のカテゴリーが人道的な注目を要することが認識された一方で、同会合は難民と難民申請者にその関心領域を絞るべきだと決定されたが、一方で、「難民」のカテゴリーの中に「不規則な移動」が含まれることも提起された。 また、個別難民と大量発生難民については、異なったプロセスや対応が求められることから、両者間の区別がなされた。
・ 当会合は保護を必要とする人を認識するための手続きを定型化する必要があることを認識した。また、難民条約への未加入国が多いことによる限界が強調された。大量難民の受け入れ国にとって責任や重荷を共有することが条約への加入を考慮するための動機づけとなることに対しては、賛成と反対の立場から意見が交わされた。
・ 国内で難民の地位を認定する手続きを確立することが強調された。また、その際に執行委員会結論8*や関連する文書などに含まれている最低基準を満たすべきことが強調された。
・ 当会合は一連の手続きの中に位置づけられる永続性のある解決へのアクセスを含む総合的な保護の枠組みの必要性を認識した。

今後の展望

 今後、会議はジュネーブに場を移し、6月末の会議では当地域会合の結論も踏まえて移民と難民の関連、難民認定手続き等についての議論が進められていくことになる。日本で難民申請者・難民の支援を行っているNGOとしてもこのプロセスに積極的に参加していきたいと考えている。

* 執行委員会とは、難民条約締約国によって構成されている。 国連難民高等弁務官の補佐を行うほか難民条約の解釈等についての結論(conclusion)を採択している。

【参考】
グローバル・コンサルテーションに関しては、以下のサイトを参照。

・UNHCRのホームページ
http://www.unhcr.ch

・グローバル・コンサルテーションに関るUNHCRのカウンターパートNGOであるICVAのホームページ
http://www.icva.ch/parinac

・難民支援協会のホームページ
http://www.kt.rim.or.jp/~jar/