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国際人権ひろば No.37(2001年05月発行号)

国際化と人権

永住外国人参政権法案、批判論の問題点

朴 一(パク イル)
大阪市立大学経済学部教授

 一昨年10月、与党三党は永住外国人に地方選挙への投票権を認める法律を成立させることに合意した。ところが、永住外国人の期待を裏切って、昨年の臨時国会においても立法化が見送られてしまった。自民党内の一部の議員が法案の成立に異議を唱え、党議拘束を外して自主投票で裁決しようという党執行部の意向に猛烈に反発したためである。自民党を除くほとんどの政党が永住外国人への地方参政権付与に賛同しつつも、彼らの根強い反対論が法案の成立を阻んできた。反対派の議員達は、「外国人参政権の慎重な取り扱いを要求する国会議員の会」を結成、法案成立の阻止に向けて積極的な活動を進めている。

 自民党の反対派議員だけでなく、この法案にアレルギーを示すマスコミ報道も過熱している。なかでもジャーナリストである櫻井よしこ氏の反対論がマスコミを賑わしている。氏は、この間、その知名度を生かして産経新聞のみならず『週刊新潮』、『週刊文春』、『正論』、『諸君』など、タカ派のほとんどの雑誌に登場し、永住外国人への地方参政権付与の問題点を追及してきた。氏は、まさにこの法案に対する反対派議員の意見を代弁し、法案成立阻止に向けた世論づくりを誘導してきた代表的スポークスマンといってもよい。

 櫻井氏の活躍によって、在日外国人の参政権問題が広く認知され、より多くの人々よって議論されるならば、これほど嬉しいことはない。だがこの法案に反対するために、櫻井氏がジャーナリストという権力を乱用して、参政権法案の成立と利害関係の深い在日コリアンの現状について間違った情報を氾濫させるというのは許されるものではない。

 ここでは、紙面の許す限り、櫻井氏の見解を在日コリアンの立場から検討してみたい。

 まず櫻井氏は、永住外国人への地方参政権付与について、「同じ在日の中の北朝鮮系の人々が、日本への同化につながるとして強く反対している」(櫻井「野中さん、国を売る気ですか」『諸君』11月号、41ページ)と述べ、「選挙権の付与は、果たして在日の人々の真の願いなのか」(『産経新聞』9月21日)と疑問を投げ掛けている。さらに氏は、選挙権の獲得に熱心な在日本大韓民国民団(民団)についても、「帰化後も民族の出自を明らかにして活躍している人もいる」現状を見る限り、「在日のアイデンティティは韓国籍にありとする民団の姿勢は、必ずしも在日全員の認識ではない」(『産経新聞』9月21日)と指摘し、韓国・朝鮮籍を維持したまま参政権を求めていくことが在日の総意ではないと主張する。そして解決策として帰化手続きを簡略化したうえで、日本国籍をスムーズに取得させればよいと述べ、日本国籍を取得する意思のない者は「特別永住」の特権を剥奪せよという。

 ここで櫻井氏が言うように「在日のアイデンティティは韓国籍にありとする民団の姿勢が、必ずしも在日全員の認識でない」のなら、「参政権の付与が日本への同化につながる」という在日本朝鮮人総聯合会(総連)の考え方も、やはり在日全員の認識ではないだろう。この場合、重要なことは、一部の個人や民族組織のイデオロギーから在日韓国・朝鮮人の意向を探るのではなく、きっちりしたフィールドワークや統計調査から、参政権問題に対する在日韓国・朝鮮人の全般的な意向を把握することではないだろうか。

 私が98年に定住外国人を対象に兵庫県内のある地方自治体で行った大規模意識調査(調査対象1,326名)では、在日韓国・朝鮮人の場合、「国籍を維持したまま地方選挙権がほしい」と考えている人は全体の67.5%にのぼった。 韓国籍のみならず朝鮮籍を含めて初めて実施されたこの調査データは、帰属団体が民団、総連にかかわらず、在日のかなり多くの人々が地方参政権を求めていることを物語っている。

 確かに櫻井氏が言うように、永住外国人が最も容易に参政権を手に入れる方法は、日本国籍を取得することである。実際、これまでにも帰化という手段で、20万人以上の在日韓国・朝鮮人が参政権を獲得してきた。これからも多くの在日韓国・朝鮮人が帰化という手段を通じて参政権を手に入れるだろう。彼らがコリアン・ジャパニーズとして日本の政治に参与していくことは、日本の国際化にとって望ましいといえる。

 だが在日韓国・朝鮮人は、そうした選択を望む人達ばかりではない。これからも韓国・朝鮮籍を維持したまま、民族的に生きていこうとする人もいる。先の意識調査では、在日韓国・朝鮮人の場合、「今後日本国籍を取得したい」と考えいてる人は全体の39%、他方、「これからも母国籍でいたい」と回答した人が48%もいた。前者の人々は帰化制度が緩和されようがされまいが日本国籍を取得するであろうし、後者の人々は帰化制度がどんなに緩和されても韓国・朝鮮籍にこだわって生き続けるに違いない。日本政府に参政権を求めてきた在日韓国・朝鮮人はむしろ後者の生き方を望む人々であり、そうした人々に参政権と引き換えに帰化を要求するのは本末転倒な論理である。

 彼らの多くは、韓国・朝鮮籍という民族的差異を維持したまま、日本人との平等な政治的権利を求めているといえる。したがって帰化制度の緩和は、地方選挙への参画を望む在日韓国・朝鮮人にとって何の解決にもならない。定住外国人による参政権獲得運動の意義は、異なる国籍を持って生きている人々にも不利益のかからない社会の創造にあるということを、日本の人々にも是非理解していただきたい。