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国際人権ひろば No.32(2000年07月発行号)

国連ウォッチ

人権のさらなる促進に向けた前進と後退

国連人権委員会 第56会期(2000年3月20日~4月28日)

田中 敦子(たなか あつこ)
反差別国際運動国連代表

 本年3月20日~4月28日に開かれたミレニアム最初の国連人権委員会は、国連人権機構が近年取り組んできたいくつかの重要な作業において、大きな一歩を踏み出した。他方、ここ数年進められていた人権委員会の機構改革は、「改善」とは程遠く、コンセンサスを得るための妥協ばかりの「改革」案が通るという、NGOにとっては全く遺憾な結末に終わっている。

大きな前進......?

 おそらく皆が合意する、今回の人権委員会の「大きな前進」は、人権擁護者の人権に関する国連事務総長特別代表の設置だろう。宣言が2年前に採択されて以来、人権擁護者の権利が宣言通りに守られているか監視する、そして必要であれば調査する機構の設立が唱えられていた。決議案は、70ヵ国以上の支持を受け、投票を棄権したのはルワンダと、キューバ、中国だけであった。

 もう一つの「大きな前進」だと政府が賞賛したのが、「子どもの軍事紛争への関与」と「子どもの売買、子どもの買春および子どものポルノの防止」それぞれに関する子どもの権利選択議定書の同時採択である。しかし、とりわけ後者に関しては、選択議定書内における「子ども」の定義を「18歳以下のあらゆる者」と明確に規定しない点など、子どもの権利条約本体以下の基準を設けているとして、NGOは人権委員会による採択間際まで政府との協議を続けた。両議定書とも、この後経済社会理事会(経社理)と総会の承認を得た後、晴れて国連により正式に採択されることになる。

 最後の待ちに待った「前進」は、先住民族のための国連常設機関設置に関する決議案の採択。これは会期の最後まで大きくもめた決議案で、初めて議論されて以来争点となった問題、とりわけ構成員およびその任命方法について、完全なコンセンサスが得られず、7月に開かれる経社理で再議論されるといわれている。また、人権小委員会の先住民作業部会の今後が懸念され、その維持を望むNGOおよび先住民族と、常設機関の設置に換えて作業部会を廃止しようとするいくつかの政府が今尚対立している。

経済的、社会的および文化的権利

 この一連の権利の関連で現在最も注目されているのが貧困と人権の問題。人権委員会は当該問題への関心の高さを示すべく、半日を特別討論会に費やした。パネリストとして、人権高等弁務官の他、UNDP、UNICEFおよびUNCTADの代表、外国債務に関する特別報告者、人権と極度な貧困に関する独立専門家、ならびに開発経済の専門家とNGO代表者がそれぞれの立場からこの深刻な問題について語り、会場の参加者との質疑応答がこれに続いた。討論会の間、貧困の根絶には人権の実現に焦点を当てたアプローチが重要だという意見が多くだされ、開発援助に条件を設けることについては、賛否両論が戦わされた。

 さらに、今会期人権委員会は、いわゆる「市民権」と「社会権」とのバランスをより良くとるべく、相当な居住に対する権利と食料への権利、それぞれについて新しい二人の特別報告者を誕生させている。しかし他方、経済的、社会的および文化的権利に対する外国債務の影響に関する特別報告者と、構造調整政策に関する独立専門家のマンデートが一本化されることになっている。

国別議論

 今年もまた注目されたのが、中国の人権に関する決議案の行方。今回は米国一国による提出という形をとり、米国は会期当初よりあらゆる機会を利用して中国における人権状況を繰り返し批判。しかしながら、過去同様、中国による採決にかけないという動議が、賛成22、反対18、棄権12で通り決議案は廃案となった。

 他方、過去と著しく趣をかえたのが、東ティモールおよびインドネシアの人権状況に関する議論。アチェ出身の元人権活動家で現インドネシア人権大臣のハスバラー・サード氏の挨拶が東ティモールに対するインドネシア政府の対応がこの1年でいかに変わったかをよくあらわしている。サード大臣は、インドネシアにおける本質的な政治的、経済的、社会的および法的改革を報告する一方、汚職、縁故者登用、説明責任の不在等の存在を批判。東ティモールに関しては、ホセ・ラモス・ホルタ氏も、東ティモールの人権侵害行為者の処罰に向けたインドネシア国内の努力を支持する発言を行った。今回はインドネシアからのNGO参加も増え、国内避難民問題などへの注目を求めた。

 また、パキスタン、ヨルダン、トルコなどで増加するいわゆる「名誉殺人」問題への注目も高まり、女性に対する暴力に関する特別報告者が当該問題を厳しく非難するとともに、「超法規的、略式または恣意的処刑」に関する決議の中で、人権委員会はこの問題に格別注意を払うよう呼びかけた。

その他の問題

 冒頭で言及した人権委員会の機構改革であるが、妥協に妥協を重ねた上、結局大きく変わったのは人権推進擁護小委員会のみといっていい。小委員会はそのメンバー数の削減は避けられたものの、本年夏より会期が4週間から3週間に短縮され、また特定国の人権状況については一般的議論を行うのみで、決議の採択は行われないことになった。テーマ別の決議についても、ある程度の制約が課されている。小委員会以外で今後の変化が見られると思われるのは審査過程が短くなった1503(個人通報)手続き。いずれにせよ、今回の改革が国連人権機構の「強化」に繋がるものか疑問視する声は多いが、今はもう成り行きを凝視するほかない。

 紙面の都合上、その他の注目すべき問題については詳しく触れることができないが、賛否両論の議論の増した死刑廃止に関する決議、アジア諸国(日本と韓国を除く)が団結して僅差で採択された「権利と責任」に関する決議、「国際移住者デー」の創設と関連する原則・ガイドラインの普及を求める決議などが採択されている。

 人権委員会で採択された全ての決議は、国連人権高等弁務官事務所のホームページ(http://www.unhchr.ch)を参照。 次会期人権委員会は、2001年3月19日~4月27日に予定されている。