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国際人権ひろば No.30(2000年03月発行号)

「中央集権主義」から「多元主義」へ

ウォルデン・ベロさん(フィリピン大学教授)
事務局

 昨年11月から12月にかけて、アメリカ・シアトルで行われた第3回WTO(世界貿易機関)閣僚会議が「失敗」に終わったことは記憶に新しい。この結末に、世界のNGOや市民の活躍が大きく貢献したことはいうまでもない事実である。1月20日に、ウォルデン・ベロ・フィリピン大学教授をヒューライツ大阪にお招きし、今回の結末の要因、そしてWTOの今後の方向性について話を伺った。

 ベロさんは、マルコス政権時代(1965年末~96年初頭)に、アメリカにおいて、フィリピン人権NGOを設立し、アメリカ政府によるマルコス政権の支援を阻止する活動を約7年間にわたってすすめてこられた。その活動の中で、世界貿易体制がアメリカをはじめとする先進国と発展途上国の不平等な関係を維持させている状態に高い関心を持った。帰国後、世界貿易体制の中の途上国について研究を始められ、1995年、ベロさんは、途上国の経済、政治、環境問題などを調査、分析するとともに、途上国の発展のための活動を行う国際NGO"Focus on the global South"を設立し、そのコーディネートをしている。

 「今回のWTOシアトル会議が失敗した要因は、三つあげられると思います。一つはEU(ヨーロッパ連合)とアメリカとの間に政策方針の大きな相違があったということです。二つは、加盟国である途上国が、WTO内での意思決定の手続きに対して大きく異議を唱えたということです。三つは、WTOの会議に世界各国から集まった約5万人からなる路上抗議行動の影響です。私は、これら三つの要因の中で、三つ目の点が非常に大きな要素であったと分析しています。このWTO閣僚会議の内と外との相関的抗議行動が今回のWTO閣僚会議の結果を生みだしたのです」

 この結末を受けて、WTO機構改革の議論に火がついた。WTOの先進国加盟国からもその必要性が叫ばれている。例えば、ステファン・バイアーズ英国通商大臣が、「既存の組織形態では継続できない。134加盟国すべてがWTOの抜本的な改革を望んでいる」としている。「私は、WTOの改善よりむしろWTOの影響力を抜本的に最小限に抑える必要があると思っています」とベロさんはいう。

 「WTOの設立以前の世界の通商の発展を歴史的に見てみると、1948年の1240億米ドルから1997年の10兆7720億米ドルまで成長していることがわかります。WTOの前身であるGATT(貿易と関税に関する一般協定)の通商システムは非常に柔軟なもので、途上国が発展できるチャンスを与えるような仕組みがまだありました。しかし、唯一アメリカが新たな組織としてWTOを設立しようとしました。実は1948年にWTOのようなものをつくろうという動きがありましたが、その時アメリカは大きく反対しました。それは、アメリカ国内の経済、通商のニーズを満たすものではないと言うことでした。しかし、今、アメリカは通商を伴う経済的利潤へのニーズに基づいた世界経済統制体制の確立を目論んでいます」

 「私はWTOが途上国の利益をもたらすものではないと思っています。それは、WTO内の意思決定過程を見れば明らかです」。 WTOは「コンセンサス<意見の一致>」によって意思を決定しているが、投票権は出資率に比例しているので、このシステムには、決定事項が主要国(出資率の高い国)の支持を得られるかどうかで決定されるという問題を抱えている。今誰もが意思決定のシステムを変えなければならないと主張しているが、誰一人として一国一票制度を導入すべきとか、人口比にあわせて投票権を認めるべきとは議論していない。なぜなら、そうなると発展途上国が大きな発言力を持つからである。「実際、UNCTAD(国連貿易開発会議)が1970年に国際通商に関する国際会議を行った際、一国一票制を採用することとしましたが、そうなれば、自分たちが優位にならないとわかっていた工業国は投票をボイコットしました」

 「単にWTOが、GATTのような機構に戻ればいいと私はいっているのではありません。すでに存在する様々な地域的、国際的な取り決めを共存させて非常に幅の広いシステムを作ろうといっているのです。例えば、途上国がUNCTADやUNDP(国連開発計画)と協力して、途上国の発展の機会を保障したり、環境と経済発展にともなう諸問題に対応できるようなメカニズムをつくることも必要です。環境と経済発展という分野だけではなくて、経済発展と世界の貿易と労働問題、あるいは人権の視点からとらえることもできます。例えば、ILO(国際労働機関)においてもアムネスティ・インターナショナルなどの人権NGOが政府、地域の労働機構、経済機構などを巻き込んで、貿易システムと労働者の人権などを話し合うことができると思います。こうした幅広いルールや枠組みを作る過程にNGOが参画して、常に流動的で多元的な監視と経済力のバランスがとれるような複合的システムが望まれているのです。すべて規制、処罰を行う『中央警察』のような集権的機関はもういりません」

(文/石川)

(参照:朝日新聞2000年2月26日13版)
Focus on the global Southのホームページ: http://focusweb.org